ヴィクトリア朝と屋敷とメイドさん

家事使用人研究者の久我真樹のブログです。主に英国ヴィクトリア朝の屋敷と、そこで働くメイドや執事などを紹介します。

『Fellows!』Vol.5の読後感想

Vol.3〜4と空いてしまって連載ものがわからないので、評価は偏っていますし、読みきりの方が好みでした。個人的に好みな作品に出会えました。以前の感想と同じく、好みの作品に出会えるのはわかっていますが、読みたい作品かは別の話なのです。



それでも、今回は「漫画」という単体で、自分の中で記憶に残して生きたい作品にも出会えました。



ストーリーモノのネタばれはないですが、念のため。


























乙嫁語り』(森薫先生)

森薫先生の『乙嫁語り』は三つ編みのパリヤがありえません。これほど一コマ一コマで密度の高い三つ編みを見たことがありません。



アミルも三つ編みですが、一本で結ぶ彼女(性格的に動きやすさという実用面が大きそう)よりも、パリヤの方が三つ編みの本数が多く、それだけオシャレであり、さらに「時間を持て余している」(by トマス・ハーディ『束ね髪』)のではないかなぁというのが、伝わってきました。


『千代と花おくり』(高橋那津子さん)

テーマは狐の嫁入りですね。不思議な感じがする世界観を違和感なく引き込み、キャラクターの表情が魅力的で、和やかな空気が漂っています。



絵の描き込みとテンポ、さらに様々に変化するヒロイン千代の表情が、空模様みたいです。題材がそもそも慶事なので画面全体から明るさと、描かれる結婚式の習俗が、素敵です。



メイドフェローズの表紙を描かれた方ですね。


『ヴォルフスムント』(久慈光久さん)

舞台は中世で残酷な描写が躍動感を以って描かれていて、活劇としては好みです。この作品に登場する人物たちの主題はシンプルで、タイトルにある「ヴォルフスムント(狼の口)」という城塞・関所を通過することにあります。



この観点がいいなぁと思うのは、ひとつに移動そのものが制限されていた時代の不自由さを感じること、です。その時代背景でなければ成立しない、自由に移動できない辛さが、伝わってきます。



その上で、この物語がいつまで続くか分かりませんが、城塞を通過した時のカタルシスは、相当すごいだろうなぁと感じることです。まさに鉄壁、容赦なく残酷に通過しようとするものの喉笛を食いちぎる狼、その関門を突破した時、読者は気持ちいいでしょう。



ただ、そこは物語です。あくまでも関所の通過は目的ではなく、圧制者打倒への手段です。その辺りを今後どのように描いていくのか、楽しみです。



そしてそこに君臨する象徴的な人物でさえも、ある意味では単なる駒に過ぎません。通過しようとするものも目的が違うだけで、「善玉」でもありません。視点を変えることで、物語が魅力を増す舞台設定になっているなぁと、思います。


『ROLL OVER BEETHOVEN』(長澤真さん)

今回のすべての作品の中で最も完成度が高く、自分が大好きだったのは『ROLL OVER BEETHOVEN』(長沢真さん)』でした。読みきり、おじいちゃんがRock、孫娘との交流、そして、見開きのあのカット。



ギターをやっている友人に連れられて飛び入り演奏できるバーに行ったことがありますが、その時のイメージに重なります。普通の会社員や重役に思える人たちがギターやドラム叩いて、輝いている姿を思い出します。



細かい描写・台詞回しがいい意味で少し日本的ではない感じもしますし、ハリウッド映画にありそうな気もしますが(大きなスケール感がありますね)、それも含めて、絵のタッチと造詣とがマッチしていて、出会えてよかった作品です。



さらに、音楽は世代も超えて、想いは受け継がれていくんだなぁと、本当にあれだけ短い作品の中で、よく描けたなぁと思います。読み切りという限定条件ならば、自分の中では永久保存として切り分けておきます。



見開きの物語を読みたいですし、この方の他の作品も読んでみたいです。絵もきれいですし、話がうまい、とてもバランスが良いです。



今回、『Fellows!』を買ってよかったと思います。



あとがき読んだら、「想いが受け継がれる」というところが書いてあって、この方の他の作品をますます読みたくなりました。



長澤真さんのホームページあるんですね。これから作品チェックします。コミケにも出られるみたいなので、追っかけてみようかと。



Fellows! 2009-JUNE volume 5 (BEAM COMIX)

Fellows! 2009-JUNE volume 5 (BEAM COMIX)