ヴィクトリア朝と屋敷とメイドさん

家事使用人研究者の久我真樹のブログです。主に英国ヴィクトリア朝の屋敷と、そこで働くメイドや執事などを紹介します。

『フェローズ総集編 乙嫁語り&乱と灰色の世界』感想

なぜか総集編関連のワードでGoogle検索1位になってしまったようで、感想を書いていない過去の日記に流入が集中していました。感想ないのに、すみません。はてな力だと思います。



一緒に買った『Fellows!』と「メイドフェローズ」を先に読んだのでそちらを先に書きましたが、総集編も読み終わったので、感想を記します。



Fellows! 総集編 乙嫁語り&乱と灰色の世界 (BEAM COMIX)

Fellows! 総集編 乙嫁語り&乱と灰色の世界 (BEAM COMIX)





総集編は森薫先生の創作ノートと、入江亜季さんの同人誌の再掲原稿が自分には響き、買ってよかったです。そうした『Fellows!』既出の原稿以外の作品を好きかどうかで、購入判断を行い、単行本まで待てる人は待ってよいのではないかと思えます。立ち読みできるならば、したほうが良いと思います。



仮に立ち読みしたとしても、今回、自分はこの総集編を「所持したい」と思いました。一期一会の作品、この総集編が出なければ接することが出来なかっただろう作品に、出会えましたから。



それが、入江さんの同人時代の作品、『しろい雪くろい雪』です。



好みの度合いで言うと、最高にきました。



病弱な姉と弟、という設定にはとても弱く、打たれ弱く、脆弱で、まぁ、なんというか数多い弱点の中でも、選りすぐられた弱点、弱点の中の弱点といえます。



これまでにスポットで似た構図の作品を見てきましたし、自分でもそういうのが好きなので作ったことはありますが、繊細でお姉さんの存在感と弟の距離感、それに弟の友人の関係が、短いページの中で、きれいに描かれています。



こういう作品は悲壮感や、病弱設定の詳細な説明で冗長になってしまいそうなのですが、そこには陥らず、無駄を省き、すっきりと仕上げていて、大好きです。



映像化しても、小説化しても伝わらない。この「入江さんが描いた漫画」という条件での構図だけが、ここまで簡潔に、そして完成度を高く、物語を作り出せたのだなぁと。



同人イベントにはこういうクオリティの作品は存在し、自分が出会えていないだけですが、プロになる方の原点の作品は、「ただ描きたいだけで生まれた」だけに、表現技術(森薫先生が思って出来なかったことが出来て、幅が増えたというようなことをあとがきでおっしゃっていましたが)を超えて、その時にしか描けなかった、ものが伝わってきます。



誰かに何かを伝えたい、これを表現したい、そういう気持ちがなければ作品は生まれませんし、形にもなりませんし、プロにもなれないでしょう。その時にしか描けない、その時にしか産まれないこういう作品は、その時にしか伝えられない気持ちも、伝えてくれます。



同人誌に名作は多くありますが、多くの人に届きません。それが時間を経て、こうして姿を見せてくれたのは、嬉しいです。『シャーリー』もその点では、あの時にしか生まれなかったもの、だと思います。



「作家の世界の見方・描き方」を好きになって、好みの作家が自分の中で生まれていくものですし、ひとつの作品に接すると過去の作品すべてを見たくなるものですが、不思議なもので、その延長線上の今の作品を、自分が対象読者ではないと感じるのは、残念でもあります。



とはいえ、一時でもこの作品に出会えて、よかったです。作品を生み出した方々と、そしてよき出会いに、この総集編を作る決断をした編集部に、感謝します。