ヴィクトリア朝と屋敷とメイドさん

家事使用人研究者の久我真樹のブログです。主に英国ヴィクトリア朝の屋敷と、そこで働くメイドや執事などを紹介します。

電子書籍・出版業界についての私的なメモ帳

最近、AMAZONKindleで著者印税70%の話や、先日発表されたAppleiPadなどへの期待から、電子書籍に関する話題が盛り上がっています。また、今月には出版社21社による業界団体設立や、下記記事では「ソニー電子書籍端末の国内再参入を検討」するとの話も書かれています。



大手出版21社、電子書籍の業界団体を設立ITmedia:2010/01/14)



自分自身は「同人をやってきている(自分での出版)」「今年、本を出す準備中(出版社から紙で出版)」立場で、こうしたトピックに無関心ではいられませんし、出版業界の動向や現状も理解しておきたいところです。そこで、頭を整理するためにメモを書いていきます。



出版業界専門ではないことと「気づいたこと」のメモなので、後で修正したり、書き足したりします。



電子書籍普及の端緒となりえる電子媒体の話が盛り上がることで、マーケットが拡大することへの期待がまず電子書籍の文脈にあると感じますが、この中にはリアルの書店がどうなっていくかの話はあまり含まれていません。個人としてまったく未知の領域なので、この話の中では扱いません。


[はじめに]文脈の整理

自分でいろいろと考えつつウェブで意見を見ていましたが、自分の目に入る主に発言者は「出版業界関係者」「プロの製作者」です。その文脈として大別すると、2つになると思います。


1:[出版業界関係者]出版業界のビジネスモデル改変への期待

雑感として出版社の売り上げ減少は雑誌の広告収入の減少、部数減少(私が定期購読していた新潮社の雑誌『Foresight』休刊のように)や広告収入に依存しないマンガ雑誌の苦戦、、読者数の減少による部数の伸び悩み、そして昨年目立ったような出版社の倒産、そして返本が膨大な量になっている現実への危機感の中に生まれた議論だと思います。



本の販売2兆円割れ 170誌休刊・書籍少ないヒット作朝日新聞:2009/12/12)



音楽配信などでクリエーターが直接作品を配信する機会を得たり、ユーザの消費行動の変化で売り上げが減少したりした音楽業界との類似構造も指摘されます。また、物理的な本であることから生じる流通や配本、返本もニュースとなりました。



【なぜ本は売れないのか】(上)着いたその日に返本産経新聞:2009/09/20)

日販とトーハン、2大取次が寡占する日本の出版流通事情(Business Media 誠:2009/08/26)



上記エントリへの出版社による流通構造の補足・解説は出版に展望はあるが、○○な出版社に展望はない 出版書店業界事情 ●干場(ディスカヴァー社長室blog:2009/08/27)が詳しいです。



現場の声や広告ビジネスモデル的な話では、以下のようなエントリがあります。



「週刊誌の編集長たちが集まって、週刊誌のこれからを考えるシンポジウム」レポート(さまざまなめりっと:2009/05/16)

メディア化するポータルが瀕死の雑誌を飲み込もうとしているCNET Japan:2008/09/30)



もちろん、構造的な問題が指摘される中、小悪魔ageha」編集長にインタビュー、世の中には「かわいい」か「かわいくない」の2つしか無いGIGAZINE)や、ゲスト:永江朗 第2回「今の出版界でも出来ること」ポット出版)のように、現状で活動する方々の声も興味深いものがあります。


2:[製作者]「発表の場の創出」と「マーケット」

現時点で盛り上がっているのは、「発表の場が出来ること(作品のアップロード)」と、「その作品でマーケットができ、お金を得られること」、この2点だと考えます。



今回、KindleiPadの発表で期待されているのは、第一に「作品の作り手が自分の意思で作品を発表できる」(現在は出版社のフィルタリング:方針や質的な側面と、ビジネス的に「売れないものは作りにくい」)機会ができることです。



今までは印刷手段や物理的な流通網、そのコストで行えなかったことが、製作者自身の手で行えるようになる。これは表現者が経済的に自立し、自分の好きなように表現を行いやすくなる環境へ繋がります。



また印刷代や流通の諸経費が減少することから著者が作品を通じて得る報酬が上昇することへの期待が指摘されます。報酬が得られれば、最近では、AMAZONKindleで著者の取り分を70%とすることが報じられました。



Amazon、Kindleのコンテンツ印税を7割にするオプションを発表(ITmedia:2010/01/21)



通常、著者印税は売り上げの10%とされていますので、その点で製作者が期待するところが多いとの考え方ですが。AMAZONの戦略の分析についてはAmazon印税率を70%に大幅引き上げ、焦土戦に突入。概要と雑感。Amazon70%印税ルールの各条項を深読みする(いずれもfladdict)が詳しいです。



Kindle対応した出版社としてコミックスでは日本から世界に発信:書籍端末『Kindle』にハーレクイン・コミックス(WIRED VISION:2009/10/30)の英語版(元々PC版・携帯版で海外対応していた)がニュースになりましたが、日本語・個人では漫画家のうめさんが販売までの流れと制作の話を、日本初? kindleで日本語漫画を出してみよう企画(難民チャンプ)として公開し、販売を実現されています。



ただ、画像処理されるコミックスに対して、Kindleでの日本語テキストは扱いが異なるようです。Twitter小説/日本語を出版しようとされた方の下記一連のエントリが非常に興味深いです。



Kindle 出版顛末記 その1 Uploadまで

Kindle 出版顛末記 その2 日本では買えない!

Kindle 出版顛末記 その3 出版完了!

初のKindle上のコミック配信完了によせて #kindlejp(以上、活字中毒者の小冒険2:気まぐれ書評で本の海を漂う)



こちらでは「日本語はPDF表示される」(PDF入稿:文字の拡大・縮小負荷)、また「英語で出すこと」(日本語のみテキストコンテンツは駄目)でありながらも、「日本語をそのまま残している」、つまり英語本文+日本語本文では受け付けているようです。この場合、英語読者への対応が第一条件、日本語は「イラスト」的な扱いなのかもしれません。



ライトノベル作家の木本雅彦さんも挑戦されていますが、こちらは日本語のみで、申請を却下されているとのことです。(こちらも画像として入稿しています)



Kindle Storeで小説を出版

Kindle Storeで小説を出版・その後(以上、EARTHLIGHT TECHNOLOGY)



今のところ、日本語対応していないので「日本語と英語を併記」しない限り、日本語小説の受付は難しそうです。ただ、PDF・画像対応であるので、電子書籍のメリットが生きていないのも事実で、ここは対応が待たれるところです。



個人的に、むしろ「英語でテキストを書く」可能性に広がりを感じました。AMAZONの世界中の読者に接する機会を得られる、しかも本を販売できる。この機会は、通常の書籍では考えにくいです。英文を書ける作家は、非常に強くなるんではないでしょうか。



著者の取り分の話とは別に、「印刷しなくなるのだからコストが下がるのではないか」「これまでは基本的に発行部数で印税が生じたが、売り上げ部数になる」ことは大きな変化です。しかし、電子媒体が安くなるかは、まだ制作経験がないので私には分かりません。コミックス、書籍(書籍の種類・内容)で大きく変わるはずです。



Amazon.com: Digital Text PlatformAMAZON内のDTPのFAQを見る限り、HTMLフォーマットレベルです。また、How to Publish a Book on Kindleというところを見ると、Adobe PDF, Word file, plain text file or HTML documentとなっていて、同人経験者には極めて敷居が低いです。本格的なデザインにこだわらなければ障壁は言語のみです。(この言語が一番大きな問題ですが、日本の電子書籍プラットフォームとの大きな違い:個人の出版しやすさへの意識はここにあると感じます。サイトの有料コンテンツ課金・決済システムとして機能しそうでもあります)



値段については電子ブックの配信は紙媒体よりコストが高い、という話/と、そもそも誰が買うのか、アメリカとの出版事情の相違を指摘する電子ブック端末を買うのは誰だろう?(浅倉卓司@blog風味?)のエントリが、参考になります。


[電子書籍市場]存在しているけれど爆発的に普及はしていない

専門ではないのでこの項目は主にリンク集的にですが、元々、電子書籍自体は日本でもビジネスとして起こっています。文庫本や一般書籍、携帯電話やウェブで絶版となったコミックスを読めますし、オンラインだけの雑誌を販売している雑誌社もあります。



ただ、特にコミックス系ではオンラインで作品を発表するものの、ビジネスモデルとしては今まで雑誌が担った役割をウェブに任せるレベルで、課金そのものは実際のコミックス化で行っているところが多いです。コピーからの保護、現在の決済手段や対象との組み合わせ、システム的なコストがあってか、簡易なプラットフォームに欠けています。



wiki電子書籍

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%9B%BB%E5%AD%90%E6%9B%B8%E7%B1%8D



大手出版社が電子書籍化に大きく進みにくい事情は日本の出版社が直面するイノベーションのジレンマ(My Life in MIT Sloan)の解説が、分かりやすかったです。



以下、偏りがあるのは個人の方向性・調査の限界です。いろんなところが既にやっているように思えるので、「出版社」「コンテンツ種類」「配信形式」「端末」「課金形態」を誰かにリスト化して欲しいこの頃です。



問題点としてwikiにあるような複製やメーカーごとによる読み取り規格の相違、コピーコンテンツ、そして課金形態が問題になっていて、ユーザにとっては分かりにくい状況でもあります。


オンラインコンテンツへの課金

Webコミック:GENZO:幻冬舎(『Under the Rose』オススメです)

→コミックスは印刷。所属過去の作品を電子媒体のみでの販売あり。



Under the Rose (1) 冬の物語 バースコミックスデラックス

Under the Rose (1) 冬の物語 バースコミックスデラックス





「Honey Rose」/ダウンロード限定



MAGASTOREiPhoneへの雑誌有料配信)

新潮社/デジタルコンテンツ

講談社[Moura]

コミックス/無償+コミックス化

ガンガンONLINE

クラブサンデー

ファミ通コミッククリア

追記


b:id:asakura-t コメントできないようなのでここで。配信ではないけどオンデマンド出版で旧作を展開している「コミックパークhttp://www.comicpark.net/ がある。また、小学館は「ソク読みhttp://sokuyomi.shogakukan.co.jp/ で課金してる。 2010/01/30

http://b.hatena.ne.jp/asakura-t/20100130#bookmark-18946182


ご指摘ありがとうございました。また、電子ブックに興味があるなら『デジタルコンテンツをめぐる現状報告』くらいは読んでおこう。、こちらで指摘のあった書籍も購入しました。


作品販売

電子書店パピレス

eBookJapan



今回盛り上がっているのは、まずこうした分散した市場があり、一般読者が電子書籍を買いにくい状況があり、そこをiTuneが突破したような形で書籍のマーケットが生まれることへの期待、というのが文脈だと思います。



業界は「巨大なマーケットの誕生を携帯端末普及」に期待し、作家個人は「携帯端末のAMAZONAppleは個人の配信・参入障壁が低いので好機」を期待しているとの理解をしています。(表現技術の広がりは後日)



ただ、「読者が電子書籍を望むか」「プロではない作家・同人との境目」「海外主体で日本語対応の遅れ」など、いろいろと道は長そうです。とはいえ、日本は携帯電話の課金には慣れているので、携帯端末での課金セットは普及しそうな気がします。携帯GPSや着メロなどはサービスが存在し、利用しやすかったから使われている面がありますので。



長いので、書き分けます。書き分けると完結しないことが多いですが……



次は、書き手として、同人の立場として書きます。Kindleで売り上げ70%といっても、同人誌、同人の委託、ダウンロードコンテンツ販売の仕組みで既に実現している面がありますので、そのあたりを含めて考えます。あと、既存のアフィリエイトをやっているサイトは、AMAZONが乗り出さないと「電子書籍のみ」配信時、メリットが得られないと思います。



誰がしゃべっているのか、自分がどの立場なのかが明確でないと、いろいろと混ざってしまう話題です。


ヒントになりそうなコンテンツ

非常にタイムリーですが、竹熊さんがそれでも出版社が「生き残る」としたら: たけくまメモというエントリを上げました。自分は同人誌の出版を通じた経験と出版で多くの方にかかわった点で「出版社に生き残って欲しい」と考える立場ですが、だいたい言いたいことは記されています。



出版社から出すことと、自費出版の相違は、デジタル時代の「自費出版」の意味(EBook2.0 Forum)が専門的見地で分かりやすいです。



あとは個人レベルの出版的なものと、音楽業界との対比・類似ということで。



「町のパン屋さん」のような出版社: たけくまメモ

音楽業界がいかに危ないか俺が優しく教えるスレ


定常的な考察

浅倉卓司@blog風味?