ヴィクトリア朝と屋敷とメイドさん

家事使用人研究者の久我真樹のブログです。主に英国ヴィクトリア朝の屋敷と、そこで働くメイドや執事などを紹介します。

田中亮三先生の訃報に接して

日本における英国カントリーハウス研究の第一人者として知られる田中亮三先生(慶応大学名誉教授)が、今年の07月29日にご逝去されたと本日知りました。



訃報:田中 亮三 法学部名誉教授



田中先生の刊行された『英国貴族の城館』『英国貴族の邸宅』『イギリスの近代文化遺産』『英国貴族の暮らし』は、英国貴族や屋敷を学ぼうとする人間にとって、間違いなく入り口を広げてくれた著作です。屋敷を舞台とする作品を好まれる方、描かれる方は手にしたことがあると思います。



私は田中先生の著作によって『Upstairs Downstairs』、『ブライヅヘッド再び』(『Brideshead Revisited』)、Castle Hawardを知り、建築家ロバート・アダムの美しい屋敷に魅了され、実際にアダムが建てた屋敷をいくつか訪問しました。屋敷への関心を深くしたのも、この魅力的な書籍があったからでした。



わずかながら、私は田中先生とご縁を持ちました。



今から1年以上前、出版が決まっていた私は、担当編集の方に田中先生にお会いできないか、無理を承知でお願いしてみました。運良く、担当編集の方の恩師の恩師が田中先生であり、さらにかつて田中先生は講談社から忘れがたい著作を出しており(『英国貴族の館』というとても立派な写真集)、ご縁があって4月にお会いできました。そこでお屋敷の話をうかがったり、屋敷関連の著作を教えていただいたり、私が影響を受けたことをお伝えしたり、今後についてのアドバイスをいただきました。



そして、早稲田大学のオープンカレッジで英国の歴史について講義されることを知り、時間を作って通いました。私にとって英国を学び直す非常に有意義な時間で、時々、田中先生の帰路に同行させていただき、お話をうかがいました。その後、今年2月に開催された田中先生によるイベント : カルチャーフォーラム 「英国貴族の暮らし」でお会いし、6月に英国の屋敷について扱った英書をメールにて教えていただいたのが最後でした。



英国文化を愛し、建物への関心とそこで人が暮らす生活の温度を好まれた田中先生からは受け取ってばかりでしたので、本が完成したら、是非読んでいただきたかったです。



謹んでご冥福をお祈りいたします。