何かこう、気が付いたらNHKの朝の連ドラ『おひさま』が「エス」(女学校における「姉」と「妹」のsister)的な描写を行っていて、驚いてる昨今です。明治から戦前のお嬢様事情(=女中事情)を学んでいるので、その辺の資料を少し紹介します。
「どうして女中が必要なの?」と思われる方には、NHK朝の連続ドラマ『おひさま』と昭和の家事をオススメしています。日本家屋での家事は大変な作業でした。
女学校に行けるのは少数
戦前の教育制度がかなり複雑で日本の学校制度の変遷:wikipediaにまとまっていますが、『おひさま』の時代となる昭和初期にあって、女学生となるにはかなり経済的に裕福でかつ学力も必要とされました。
初等教育は尋常小学校(小学校尋常科)にて行われていましたが、中等教育を受ける道は今の「中学校」のような道筋が多岐に及びました。女性の場合は高等小学校(小学校高等科)、そして高等女学校などがありました。全校での校数も限られ、進学率も低く、この点では『おひさま』の構図が分かりやすいかもしれません。
主役・須藤陽子は父が工場長をしており、中流階級レベルと思われます。この経済力ならば家に女中はいると思いますが、兄の春樹と茂樹は共に高校へ、そして陽子も進学しています。同級生の筒井育子は本屋さん、相馬真知子は資産家と、ある程度の経済力を持つ層として構成されています。
女中奉公は教育機関としての役割も
一方、小学校時代の友人・田中ユキは親の都合で女中奉公に出されました。女性に教育は必要がないとの戦前までの価値観や、家庭の経済的事情も関連しました。子供に高い教育を受けさせるには「学費」だけではなく、「教育を受けている時間を支える経済力」が必要でした。早く勤めに出せば生活費も浮きました。
日本の場合は女中奉公の「嫁入り修業」的な側面が強く残りました。たとえば田中ユキのような少女が学校に通いながら家事労働をしたり、上記で言えば高等小学校まで教育を受けた人が女中になる率が、同じ時期の女工より高かったり、さらには志望動機が「経済的事情」よりも「修行」の方が高いなど、日本的な特徴を持ちました。
英国ではメイドになることは学問的な教育の機会の喪失となりましたが、日本では少数とはいえ、学校への通学や夜学への支援なども見られました。「修行」であるが故に、雇用主には「教育」することが求められたからです。
このような教育的側面は江戸時代にも成立し、武家や商家の女性も奉公に出ていました。しかし、こうした経済的に裕福な人々は明治時代以降に教育環境が整っていくと、前述したような女学校などの教育機関に学びの機会を見出し、奉公の世界から身を引いていきます。
女学校出身者と女中奉公
日本的な奉公で興味深いのは華族、特に「旧大名家」の家政です。明治時代になって大名家は領地を失いましたが、旧領地との繋がりは残り続け、旧家臣団は旧大名家の家政運営に参画しました。家の切り盛りを行う家令や、その下につく家従、家扶などは旧家臣の一族で構成されることもありましたし、女中も例外ではありませんでした。
私が読んだ事例では、前田侯爵家には地元・加賀の女学校を出た女性が、「お付き」(身辺の世話をする侍女やヴァレットのような役目)として奉公に出てきています。縁故採用も強く、代々仕えるといった使用人イメージは、このような富裕な階級にあって成立するものでしょう。
この辺り、墨東公安委員会様のサイトで女中類従の一連のテキストが紹介されています。
女学生メディアの時代
最後に、当時の女学生はある意味、目立つ存在でした。戦前の女性が洋服を着る機会は非常に少ない中、昭和前期の女学生はセーラー服を着用して通学をしました。また、少女向けの雑誌が数多く刊行されており、その中には冒頭で取り上げた「エス」的な要素を織り込んだ小説やイラストも掲載されていました。
この領域も奥深く、簡単に述べるに留めますが、今でいうところの「学生」とは随分と違いつつも、似たところもあって、調べていくと面白いです。

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