余談ついでに。最近、資料サイトで紹介していた『英国ヴィクトリア朝のキッチン』のページビューが高いなぁと思っていたら(あくまでも相対的にですが)、大英帝国・メシマズのルーツというTogetterにて、紹介されていました。
この考察も面白いので、興味ある方は上記リンクをどうぞ(はてぶのコメントも面白いです)。
上流階級にあっては、子供時代から食事の習慣はナースに躾けられますが、「残さず文句言わず食べる」、時に「偏食」の傾向も見られもしました。また、たとえばキッチンから離れている屋敷(記憶では世界遺産のブレナム宮殿)では「冷めた料理が来る」こともあります。コメントにあるような、「文句を言ってはいけない」的な雰囲気では、向上が促されませんね。
『英国メイドの世界』で紹介したエピソードのひとつに、ウェリントン公爵に仕えたあるフランス人シェフが、前職の主人に泣きついて「もう一度、あなたに仕えさせて欲しい」という場面があります。公爵が料理の感想を何も言わない、というのが辞めたい理由でした。
「あの方は最も親切で寛大な主人です。しかし、当代の名シェフが嫉妬しそうなぐらいに素晴らしい料理を私が作っても、あのお方はなにもおっしゃらないのです。私がどんな服装で給仕の脇にいても、公爵は私に一言も声をかけて下さらないのです。たとえ千倍も英雄だとしても、私はあのようなお方の下で働きたくありません」『英国メイドの世界』P.230より引用
今回話になっているのは庶民レベルで食事がまずい、と言う所だと思いますが、都市部の水事情が悪い時代には、料理に使える水が「ありえない」レベルだったとの話を読んだ記憶があります。また、前述した『英国ヴィクトリア朝のキッチン』で再現される料理を見ても、リンク先のコメントにあるように煮沸的に「煮過ぎだろ」や、「手をかけ過ぎだろ、無駄に。裏漉し必要?」と突っ込みたくなります。
調理法が悪いのか、素材が悪いのか、調理環境が悪いのか、要因はいろいろとありますし、以前『近代イギリス労働者と食品流通―マーケット・街路商人・店舗』を言う本を読んだとき、下層まで含めた庶民で買える値段になる頃(売れ残り)になると、相当鮮度が悪かったとのことです。
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また、石炭ストーブは料理の温度調整も難しく、庶民が入手しえた調理器具・調理環境というところでどんな料理ができたのか? 労働者階級の家庭の場合は妻が働きに出ていたら料理に時間を割きにくいでしょうし、生活レベルによる環境の違いが多きすぎます。上流階級、中流階級、そして当時の多数を占める労働者階級のメニュー(1週間分)が出ている有名な資料がありましたが、労働者階級はとてもシンプルなはずです。
中流階級でも雇用するメイドの腕が悪ければメシマズです。メイドが料理の教育を受けられるかどうかは環境次第で、料理を教えてくれる同僚や上司がいるのは、ある程度の経済力の家庭に限られます。また、メイドは労働者階級出身なので、出身家庭で学べる料理は推して知るべしです。ひとりしかメイドを雇えない経済力の家庭では、女主人がメイドを鍛えられたか、あるいは自分で『ミセス・ビートンの家政読本』を使いこなせたかどうか。書き出してみると、マイナス要因は多いですね。
ボーア戦争ぐらいの頃に兵員の体格が悪い→家庭生活(食事)が原因?→労働者家庭の生活環境を何とかしよう、という話をどこかで読んだ気がしますが、記憶で書いているのでところどころ間違いがあるかもしれません。気が向いたら、自分で書いたことについては文献に当たります。
『世紀末までの大英帝国』は食事のメニュー(前述した3階級分)、産業革命と民衆は、労働者の一日と食生活も書かれていたかと。