ヴィクトリア朝と屋敷とメイドさん

家事使用人研究者の久我真樹のブログです。主に英国ヴィクトリア朝の屋敷と、そこで働くメイドや執事などを紹介します。

秋葉原のカフェ『月夜のサアカス』での蔵書公開とタイトル一覧(169+2種)

2012/04/01より、秋葉原のカフェ『月夜のサアカス』の本棚をお借りして、私の蔵書の一部を公開します。『月夜のサアカス』はコンセプト系のカフェで自分も利用者として使っていて、居心地のいいお店です。



月夜のサアカス:公式サイト



公開の背景としては、2012年04月より秋葉原のカフェ『月夜のサアカス』で蔵書を一部公開に記したように、自分で読み切れない本を死蔵させたくないこと、そしてアクセスしやすい場所に公開することで「メイド情報のインフラ」としての役割を果たす2点が中心です。



秋葉原のカフェ『月夜のサアカス』で2012/04/01から公開される私の蔵書の一部です。簡単な蔵書ラインナップの解説を行っ... on Twitpic



企画の意義を付け加えるならば、『月夜のサアカス』はコンセプト系のカフェで、かつ平日は周辺の会社の方々が普通にランチで使えるような雰囲気のお店です。そうした「強い関心を持たない方々」と接点を持ち、「家事使用人やヴィクトリア朝、屋敷へ関心を持ってもらう」試みは、私にとって大きな意義を持つアクションです。



さらに、私自身がメイドブームによって同人時代から多くの読者に出会い、またその恩恵を受けて出版を実現しえた立場だと思えるので、メイドブームの中心として成立する秋葉原のカルチャーに何か恩返しをしたい気持ちもありました。



たまたま『月夜のサアカス』のオーナーのはるきさんにお声掛けいただいたことと、また同店が2012/04/01より土日の営業期間にクラシカルなメイド服を採用することもあり(新しい季節と、時計のお話し)、そうしたところで「英国メイド」的な世界とも縁があって始まります。



メイド研究に適した喫茶があっても、面白いでしょう。



公開中の蔵書の見どころは『月夜のサアカス』でのメイド・ヴィクトリア朝・屋敷関連書籍の公開企画紹介にまとめました。定期的に一部を入れ替えて、テーマを持たせていくつもりです。



書籍一覧表は暫定版で、そのうち見やすくします。



お楽しみいただければ、そしてお店自体の魅力を味わっていただければ、同店の一ファンとして幸いです。


上から1段目

分類・テーマ No. タイトル
新書 1 茶の世界史 緑茶の文化と紅茶の社会
新書 2 エロティックな大英帝国 紳士アシュビーの秘密の生涯
新書 3 砂糖の世界史
新書 4 ダービー卿のイギリス
新書 5 ヴィクトリア朝の性と結婚
新書 6 不機嫌なメアリー・ポピンズ
新書 7 階級にとりつかれた人びと
新書 8 イギリス近代史講義
新書 9 ヴィクトリア女王 大英帝国の戦う女王
新書 10 イギリス貴族
新書 11 女たちの大英帝国
新書 12 ガヴァネス
新書 13 ロンドン
新書 14 農場に暮らして
文庫 15 アガサ・クリスティー自伝上
文庫 16 サキ短編集
文庫 17 テス上
文庫 18 夜明けのメイジー
文庫 19 荊の城上
文庫 20 日の名残り
文庫 21 台所太平記
文庫 22 ヘルプ上
文庫 23 どん底の人びと
文庫 24 倫敦!倫敦?
コミックス 25 黒博物館スプリンガルド
コミックス 26 プリーズジーブス1巻
コミックス 27 レディーズメイド螺子とランタン
コミックス 28 Under the Rose
コミックス 29 ご主人様に甘いりんごのお菓子
コミックス 30 わたしのお嬢様 株取引のお嬢様編
コミックス 31 エマ1〜10
コミックス 32 チム・チム・チェリー1〜3


上から2段目:『家事使用人』(メイドと女中)

分類・テーマ No. タイトル
女中・自伝 33 女中奉公と女工生活
女中・自伝 34 女中奉公ひと筋に生きて
女中 35 女中がいた昭和
女中 36 女中イメージの家庭文化史
女中/小説 37 小さいおうち
使用人/小説 38 リヴァトン館
使用人/小説 39 ラークライズ
使用人/自伝 40 なんとかしなくちゃ
使用人/自伝 41 イギリスのある女中の生涯
使用人/自伝 42 英国メイド マーガレットの回想
使用人/自伝 43 従僕ウィリアム・テイラーの日記
使用人/自伝 44 Below Stairs
使用人/自伝 45 Every Other Sunday
使用人 46 ヴィクトリアン・サーヴァント
使用人 47 英国メイドの世界
使用人 48 図説 英国メイドの日常
使用人 49 執事とメイドの裏表 イギリス文化における使用人のイメージ
使用人 50 FEMALE OCCUPATIONS
使用人 51 THE DUTIES OF SERVANTS
使用人 52 THe Victorian Domestic Servant
使用人 53 a day in the life of a VICTORIAN DOMESTIC SERVANT
使用人 54 THE COUNTRY HOUSE SERVANT
使用人 55 Avoid being a Victorian Servant!
使用人 56 THE COMPLETE SERVANT
使用人 57 Below Stairs 400 years of servant's portraits
使用人 58 MANGLES, MOPS and FEATHER BRUSHES
使用人 59 Life as a Victorian Lady
使用人 60 Life in a Victorian Household
使用人 61 英国カントリー・ハウス物語
屋敷 62 図説 英国貴族の暮らし
屋敷 63 英国貴族の邸宅
屋敷 64 英国貴族の城館
屋敷 65 図説 英国庭園物語
屋敷 66 Laundry Bygones
屋敷 67 Domestic Bygones
屋敷 68 Horse Cabs
屋敷 69 英国家具の愉しみ その歴史とマナハウスの家具を訪ねて
屋敷 70 The VICTORIAN KITCHEN GARDEN
屋敷 71 THE Victorian Flower Garden
屋敷 72 The Victorian Kitchen
ロンドン 73 図説 ロンドン都市物語 パブとコーヒーハウス
女性・児童文学 74 ヴィクトリア時代の女性たち フェミニズムと家族計画
生活史 75 COINS OF ENGLAND & THE UNITED KINGDOM 43RD EDITION
生活史 76 お母さんは忙しくなるばかり
生活史 77 大英帝国下 ある英国紳士の生き方
文化・歴史 78 英国紳士の子供
文化・歴史 79 英国紳士の奥方
文化・歴史 80 英国紳士のお妾さん
文化・歴史 81 図説 イギリスの歴史
文化・歴史 82 図説 ヴィクトリア朝百科事典
イラスト・美術 83 夜想 ゴシック
イラスト・美術 84 夜想 ヴィクトリアン


上から3段目:イラスト・美術とドラマ、屋敷

分類・テーマ No. タイトル
データ 85 WAGES AMD ERNINGS OF THE WORKING CLASSES: REPORT TO SIR ARTHUR BASS, M.P.
データ 86 17 ABSTRACT OF BRITISH HISTORICAL STATISTICS
イラスト・美術 87 騎士道とジェントルマン
イラスト・美術 88 DESIGN & THE DECORATIVEARTS VICTORIAN BRITAIN 1837-1901
イラスト・美術 89 ヴィクトリア朝の栄光 繁栄の時代の英国の生活文化
イラスト・美術 90 THE VICTORIAN SCRAPBOOK
イラスト・美術 91 THE ILLUSTRATED LONDON NEWS
イラスト・美術 92 ドレ画ヴィクトリア朝時代のロンドン
イラスト・美術 93 GREAT DRAWING AND ILLUSTRATIONS FROM PUNCH 1841-1901
イラスト・美術 94 Selection from The Girl's Own Paper, 1880-1907
イラスト・美術 95 Victorian Shopping: Harrods 1895 Catalogue
生活史 96 VICTORIAN FARM
地図 97 Booth's descriptive maps of Lodon POVERTY 1889
地図 98 大英帝国歴史地図
制服・衣装 99 WOMEN IN UNIFORM
制服・衣装 100 DRESSED FOR THE JOB
制服・衣装 101 OCCUPATIONAL COSTUME IN ENGLAND
制服・衣装 102 THE MUSEUM OF COSTUME ASEMBLY ROOMS BATH
ガイドブック/映像 103 THE WORLD OF DOWNTON ABBEY
ガイドブック/映像 104 MANOR HOUSE Life in an Edwardian Country House
ガイドブック/映像 105 1900 HOUSE
ガイドブック/映像 106 シャーロック・ホームズの世界
ガイドブック/映像 107 テレビ版名探偵ポワロ
ガイドブック/映像 108 8 femmes 8人の女たちフォトアルバム
ガイドブック/映像 109 KENSINGTON PALACE
ガイドブック/映像 110 バッキンガム宮殿公式ガイドブック
ガイドブック/屋敷 111 Lyme Park
ガイドブック/屋敷 112 Osterley Park
ガイドブック/屋敷 113 Erdig
ガイドブック/屋敷 114 Kedleston Hall
ガイドブック/屋敷 115 Uppark
ガイドブック/屋敷 116 KENWOOD HOUSE
ガイドブック/屋敷 117 Dyraham Park
ガイドブック/屋敷 118 Petworth A souvenir guide
ガイドブック/屋敷 119 Saltram
女性・児童文学 120 THE VICTORIAN WOMEN
屋敷 121 Round ABout CHATSWORTH
屋敷 122 THE GENIUS OF ROBERT ADAM His Interior
屋敷 123 建築絵本 世界の住まい6000年 ?西洋の都市住居
屋敷 124 絵で見るイギリス人の住まい 1 ハウス
屋敷 125 LOST VICTORIAN BRITAIN
屋敷 126 England's Lost Houses FROM THE ARCHIVES OF COUNTRY HOUSE
屋敷 127 THE BRITISH STABLE
屋敷 128 英国貴族の館


上から4段目:生活史・児童文学・裏面史

分類・テーマ No. タイトル
児童文学 129 本へのとびら 岩波少年文庫を語る
イラスト・美術 130 ヴィクトリア朝万華鏡
イラスト・美術 131 倒錯の偶像
クリスティ 132 アガサ・クリスティーの食卓
クリスティ 133 名探偵ポワロの華麗なる生涯
児童文学 134 少女小説から世界が見える
児童文学 135 アリスの服が着たい ヴィクトリア朝児童文学と子供服の誕生
児童文学 136 世界名作劇場大全
生活史 137 世紀末までの大英帝国
生活史 138 十九世紀イギリスの日常生活
生活史 139 イギリス手づくりの生活誌
生活史 140 イギリス田園生活誌
生活史 141 英国生活物語
生活史 142 イギリス社会と文化200年の歩み
生活史 143 19世紀のロンドンはどんな匂いがしたのだろう
生活史 144 ディケンズの毛皮のコート/シャーロットの片思いの手紙
生活史 145 暖房の文化史
生活史 146 シャーロック・ホームズ家の料理読本
生活史 147 ロンドン 食の歴史物語
生活史 148 台所の文化史
生活史 149 ヴィクトリア朝時代のインターネット
生活史 150 路地裏の大英帝国
犯罪・裏面 151 世紀末異貌
犯罪・裏面 152 十九世紀ロンドン生活の光と影
犯罪・裏面 153 最初の刑事
犯罪・裏面 154 ヴィクトリア朝の下層社会
犯罪・裏面 155 ドラキュラの世紀末
犯罪・裏面 156 もう一つのヴィクトリア時代 性と享楽の英国裏面史
犯罪・裏面 157 イギリス近代警察の誕生
犯罪・裏面 158 神を殺した男
犯罪・裏面 159 ヴィクトリア朝の緋色の研究
犯罪・裏面 160 鍵穴から覗いたロンドン
犯罪・裏面 161 19世紀の絵入り新聞が伝えるヴィクトリア朝珍事件簿
文化・歴史 162 ヴィクトリア朝の人と思想
文化・歴史 163 オックスフォードブリテン諸島の歴史9
文化・歴史 164 ヴィクトリア朝文化研究3〜9
文化・歴史 165 十九世紀イギリスの小説と社会事情
ロンドン 166 自転車に乗る漱石 百年前のロンドン
ロンドン 167 霧のロンドン 日本人画家滞英記
ロンドン 168 牧野義雄のロンドン
ロンドン 169 ホームズのヴィクトリア朝ロンドン案内
ロンドン 170 ロンドン庶民生活史
ロンドン 171 ヴィクトリア時代のロンドン

2012年04月より秋葉原のカフェ『月夜のサアカス』で蔵書を一部公開

2011年の年末ぐらいにTwitter上で「自分の本棚を公開できる場所が欲しいなぁ」とつぶやきました。これまでに何度もその呟きをしていたのですが、たまたま私が好きで利用しているカフェ『月夜のサアカス』のはるきさんから、「本棚の企画、どうでしょうか?」とお誘いを受けました。すぐに、「是非、お願いします!」と答えました。



この企画の告知が、昨日2012/02/26に行われました。以下、はるきさんと私のTwitterでの呟きとなります。































2010年11月に、私は『英国メイドの世界』出版記念企画として秋葉原・シャッツキステにて『英国メイドの世界』出版記念コラボイベント(11/24〜28まで)を行いました。その時もやはり私が好きなお店で、かつオーナーの有井エリスさんにお声掛けいただき、実現しました。



その時にいろいろと学んだものもありましたし、では次にどうするか、というところで、「恒常的に本を置ける場所が欲しい」との気持ちが募りました。イベント期間限定の公開から進んで、今回は可能な限り長期に場所を確保することを一つの主眼としました。



『英国メイドの世界』はメイド界の「高速道路」を目指す(2010/11/02)に記したように、私は「高速道路」の建築にも興味を持っており、「出版した本・同人誌」に加えて、その本を生み出した「リソース」の公開を通じて、「高速道路」の資材にしたいと考えています。



また、私は今、「日本で語りえるメイド」を調べていて、そのコンテクストの多様さに打ちのめされています。英国メイドだけでもまだまだ知りたいこと、学ぶことが多すぎるのですが、日本の事情についても私一人では到底学びえません。だから、私は自分が持つリソースの一部を解放し、同時に、私自身が学ぶ機会を得られる「きっかけの場」を探していました。ご紹介したはるきさんの言葉で言えば、「同好会的に、メイドさんを語り合い研究する場としてのメイド喫茶。大学の研究室のような雰囲気」であることを願っていますし、私自身、その中では「好きなレコードを持ってくる参加者の一人」に過ぎません。



他にも、私がなぜ「日本で語りえるメイド」を学ぶかについて、そしてカフェの現場にこだわるかの理由は、また別の機会にお伝えするつもりです。この活動と、メイド研究は私の中で明確に繋がっています。



最後に、今日Twitterで見かけた、私に響いた言葉です。







自分にとって、メイド研究はmissionです。


メイド研究本・2011年11〜12月で続けて刊行

仕事が本格的に忙しくなる雰囲気で(来年のアクション整理)、かつ同人誌の原稿書きという状況の中、マインド的にキャッチアップできていませんが、つい先日は『執事とメイドの裏表 ─ イギリス文化における使用人のイメージ』が刊行され、来月には村上リコさん翻訳による「メイドの自伝」ベストセラー、『Below Stairs』の翻訳版『英国メイド マーガレットの回想』が出ます。



表紙は森薫さんとのことです。





英国メイド マーガレットの回想

英国メイド マーガレットの回想





メイドの自伝では最も有名な一冊で(もう一冊はたぶんRosina Harrison)、家事使用人という境遇を力強く、反骨精神を持って生き抜いたメイドの視点で描かれています。個人的にいいなと思うのは、彼女は働く中で「尊敬する人を評価している」点です。観察力が優れているので、彼女と同じキッチンメイド→コック経験者のJean Rennieの手記よりも、「自己肯定」が少なく、主人との距離も自分の人生についてもニュートラルな感じで、私は好きです。



最近、英国では『ダウントン・アビー』の効果で再版されています。



Below Stairs: The Classic Kitchen Maid's Memoir That Inspired Upstairs, Downstairs and Downton Abbey

Below Stairs: The Classic Kitchen Maid's Memoir That Inspired Upstairs, Downstairs and Downton Abbey





諸々の感想はそのうちに書きます。イメージの中のメイド/メイドが「いて」「いない」現代日本の風景(2011/10/23)では、こうして刊行が続く状況を踏まえつつ、テレビCMにメイドが出る「今」を紹介する内容を触れました。


『英国メイドがいた時代』DLSiteでも公開開始

ということで、パブーでの公開に続き、DLSiteでも『英国メイドがいた時代』を公開しました。



http://www.dlsite.com/home/work/=/product_id/RJ085377.html



電子書籍版の補足は、『英国メイドがいた時代』をパブーで公開中<で行っています。



『英国メイドの世界』を読んだ方にはオススメですし、同書で十分に扱いきれなかった19世紀末、20世紀半ばのWW2を経て、現代に至る道筋にも言及しています。


イメージの中のメイド/メイドが「いて」「いない」現代日本の風景

目次

・メイドイメージの広がり

・日本のメイドイメージと、「英国メイド本」の相次ぐ刊行

・『執事とメイドの裏表 ─ イギリス文化における使用人のイメージ』

・終わりに:メイドイメージを「消費」する時代への興味



※執事ブームがピークに思えるのですが、その辺は後々。


メイドイメージの広がり

ここ最近、テレビCMでメイド(メイド服)を見る機会が増えました。



黒木メイサさん:EPSON:プリンタ・カラリオ

仲間由紀恵さん:森永製菓・小さなチョコビスケットシリーズ

少女時代:味覚糖::e-ma

岡田将生さん「ラ・ピッツァ」新CMご紹介!



先駆けては【萌え戦略】TOYOTA SOCIAL APP AWARD 公式応援ページにメイドさんなどの美少女たちが大集合(2011/06/14)との記事もありましたが、テレビCMに登場するぐらいの存在になっている、というのが現在のメイドイメージの実情ではないでしょうか。



そのメイドイメージ自体が、日本では多様化・混在しています。




「成年向けPCゲーム」(第一次)→主従関係・SM・従属
「コスプレ」(第二次)→かわいらしさ+属性化
「喫茶化・メイド喫茶的独自展開の深化」(第三次)→独自
秋葉原電車男・流行語対象・『エマ』アニメ化」(第四次・ブームのピーク)→萌え+観光化+英国回帰
「創作でのメイド喫茶・メイド服(+アキバ)イメージ再生産」(第五次)→定着

日本で描かれたメイドイメージとブームを考えた1年(2010/12/31)

だいたいこの類型に当てはまると思いますが、メイドブームの終焉は「衰退」か、「定着」かで言えば、「吸血鬼」のように、様々な創作や表現で描かれる中で磨かれてきたのではないか、と感じています。


日本のメイドイメージと、「英国メイド本」の相次ぐ刊行

アキバ系が強かったメイドブームを経た日本では、メイドブーム自体が「終わった」と認識されている向きもありますが、秋葉原のメイド・コスプレ喫茶&リフレの店舗数推移でtakatoraさんが集計されたように、店舗数自体は増加にあります。そして様々な現在放送中のアニメでも、「メイド」は風景の一部として日常化しています。(『ハヤテのごとく!』的世界。直前まで放送していた『セイクリッドセブン』では、「メイド隊」という言葉が回帰。執事に率いられている点で執事ブームも反映しているかと)



そのブームを照らす軸のひとつに、「本が出版される」ことがあります。たとえば、現代英国でのヴィクトリア朝エドワード朝といった「屋敷コンテンツの消費」は、日本でも10月から放送されているドラマ『ダウントン・アビー』のブームによって、イギリスで屋敷・メイド研究本や関連書籍の刊行ラッシュ、『ダウントン・アビー』効果かで記したように、出版にも反映されています。



日本でのメイド研究は、同人からスタートしたと言っていいでしょう。同人を軸としたメイドブームの中で、メイドへの関心が高まり、研究を行うサークルが(少数とはいえ)増加した経緯があるからです。

そしてメイド喫茶ブームの頃(2005-2006年)に、『ヴィクトリアン・サーヴァント』『召使いの大英帝国』『図解メイド』が刊行されました。では「2010-2011年という今はどうなのか」というと、実は面白い状況なのではないか、というのが今回のエントリを書くきっかけとなった、『執事とメイドの裏表 ─ イギリス文化における使用人のイメージ』です。



2010年11月から2011年11月までの間に、私が書いた『英国メイドの世界』、村上リコさんの『図説 英国メイドの日常』、そして『執事とメイドの裏表 ─ イギリス文化における使用人のイメージ』が2011年11月に刊行される予定なので、わずか1年でメイド資料本が3冊も刊行されることは「事件」に思えます。



英国メイドの世界

英国メイドの世界



図説 英国メイドの日常 (ふくろうの本/世界の文化)

図説 英国メイドの日常 (ふくろうの本/世界の文化)







この刊行ラッシュを、10年後の人はどう振り返るでしょうか?



10年後に読んでくれる人がいることを願って(2011/01/29)で書いたように、私はこの事象の当事者として、なるべく今の風景を残しておきたいと思います。


『執事とメイドの裏表 ─ イギリス文化における使用人のイメージ』


日本人の想像する執事はイギリスとどう違う? 文学や映画でおなじみ、イギリスの執事やメイドなどの使用人。これらの職種に対する社会的イメージと実情を、19世紀~現代を中心に、文学や諷刺、各種記録から考察する。
Amazon上記URL:内容紹介より引用)


2010年の日本ヴィクトリア朝文化研究学会でお会いした際、新井先生からメイド関連の本を執筆中とうかがっていました。個人的に、日本のアカデミック領域にメイド「だけ」を専門研究する方はいないと思います。日本の教育の場に存在理由がないと思えるからです。



私見を続けますが、このため、日本のメイド(や執事も含めた家事使用人)関連情報が出ている本は、女性史や労働史、文学、貴族とのかかわり、当時の料理や文化の中の「一つの要素」としてしか刊行されておらず、それがメイドブームによる一連のトレンドで「単著」として商業出版にて刊行されるようになったと理解しています。



私は「他の学問を通じて断片的に描かれるメイド」ではなく、「その時代に働いていた使用人全体」を知りたかったので、和書では満足できず、英書に手を出しました。(ヴィクトリア朝メイドを語ること・『エマ』に思うことと2005年に記したことの根幹は変わっていません)



その中で、新井先生はメイドに最も近い研究領域に立ち、その著書を『英国メイドの世界』でも参考文献として使わせていただきました。ここ数年は、使用人関連の考察も深められています。私が寄稿した日本ヴィクトリア朝文化研究学会の会報にコラム掲載の同じ会報誌や、『ギャスケルで読むヴィクトリア朝前半の社会と文化』でも、次のように階級を軸に、その中間領域(ワーキング・クラスから、「自助」によってたとえば上級使用人の執事やハウスキーパーとなって、出身階級を超えて社会的地位を上昇させていく姿)を扱っています。


ギャスケルで読むヴィクトリア朝前半の社会と文化―生誕二百年記念

ギャスケルで読むヴィクトリア朝前半の社会と文化―生誕二百年記念

第3章 階級――理想と現実(新井潤美
 第1節 複雑な階級制度
 第2節 さまざまなワーキング・クラス
 第3節 使用人という階級
 第4節 上昇志向のもたらす脅威



元々、新井先生は階級についての著書を置く記されており、使用人にも光を当ててこられました。階級にとりつかれた人びと(2001年)が階級を軸にした切り口で英国を描き出し、メイドの主たる雇用主となった下層中流階級がなぜメイド雇用にこだわったのかを、そして、不機嫌なメアリー・ポピンズ(2005年)では、様々な創作(小説や映画など)で描かれる使用人イメージを通じて、英国を扱いました。今回の著書も「イメージ」を副題に持ち、5年前の著書とどう違い、また現代日本のメイドブームや執事ブーム、そして現代英国でのヴィクトリア朝エドワード朝コンテンツ消費も踏まえた考察となっていると思いますので、楽しみです。



この本の出版が興味深いのは、そのタイトルに含む「イメージ」の言葉です。日本の大学研究者の方が「日本の女中」を研究した著書のタイトルが、">『女中イメージの家庭文化史』との言葉を含んでいます。イメージによって、その当時の姿を浮かび上がらせていく方向では、『倒錯の偶像―世紀末幻想としての女性悪-ブラム・ダイクストラ』『ドラキュラの世紀末―ヴィクトリア朝外国恐怖症の文化研究』などありますが、メイドの領域では新井先生の『不機嫌なメアリー・ポピンズ』、同人の領域で墨東公安委員会様がヴィクトリア朝の著名な雑誌『パンチ』のメイドイメージを集めた『「英国絵入諷刺雑誌『パンチ』メイドさん的画像コレクション 1891〜1900 【改訂版】」』を刊行しています。実在のメイドの膨大な写真コレクションも含めたもので、メイドイメージの白眉的存在は村上リコさんの『図説 英国メイドの日常』でしょう。



その一方で、家事使用人の領域は当時実際に働き、「イメージされた」実在の人々の言葉が多数残っています。『ヴィクトリアン・サーヴァント』、私の『英国メイドの世界』、そして『図説 英国メイドの日常』もこの方向です。その「実在する人々」の言葉も、「イメージされたい自分」の姿が描かれている可能性も否定できませんが、「多様なイメージ」で語られる存在として研究対象となりえるのも、いかに当時のメイドが日常に溶け込んでいたかを物語ります。


終わりに:メイドイメージを「消費」する時代への興味

私は現代日本のメイドイメージに、興味を持っています。20世紀末の日本にあって、本来、「メイド」は普通に暮らしては遭遇しえない「フィクション」でした。しかし、メイドブームに代表されるコンテンツ軸(創作:ゲーム、コミックス、小説、アニメ)での盛り上がりと、コスプレブームとアキバブームの融合して「メイド喫茶ブーム」のトレンドを生み出し、さらには並行してロリータファッション属性にも重なりを持つ「カワイイ」とも重なり合って、2011年の今となっては、「コンテンツ」の中では日常化し、直近でも冒頭で取り上げたテレビCMにその姿が見られるなど、認知が広がっています。



そう考えると、メイドが日常に存在しない日本で、1990年代後半から現在に至るまでメイドイメージが拡散していく状況(メイドブームの考察でこの辺は年代別に調べています)、そして今回のようにわずか1年で「英国メイド」イメージを巡る本が刊行される状況は、何を映しているのかを、俯瞰してみたくなります。



英国趣味自体は日本でも一定の土壌を持つもので、その延長にある消費として捉えることもできる一方で、メイド雇用が社会全体で広がる状況は経済格差を抜きには成立しえないものです。格差社会を経て福祉社会への転換を果たしつつも再び格差社会へと回帰する英国への眼差しを持つならば、そこに、日本の未来図は重なりを見出すことは出来ます。



同時に、NHKが『東京カワイイTV』の中でアキバのメイドを取り上げたように(6-0.メイド服を見るまなざしについて)、メイド服デザインをカワイイとみるトレンドの一端や、メイド喫茶が海外で「コスプレ」として受け入れられているのも、メイドイメージの多様化を示し、またこの領域が最もメディア性や牽引力を持っている点は、無視できません。



さらにメイド服とドレス・パフスリーブを巡るイメージの重なりや、宮崎駿監督アニメの服装とメイド服イメージについてを踏まえると、現在の女性ファッションにおけるパフスリーブの流行に驚きがあります。ファッション軸でヒントとして、最近、『闘う衣服』(闘う衣服の山形浩生さんによるコメント)を読んでいますので、ゴスロリファッションとの重なりについては後日、機会を作って深めようと思います。



付け加えれば、私が水樹奈々さんのラジオに呼ばれる(2011/10/09)こと自体、メイドブームの広がりや定着を示すものではないかと。その意味で、1年前に書いたメイドブームの終焉は「衰退」か、「定着」かとの結論として選んだ「定着」は、テレビCMに進出するだけの「定着」に至ったと考える次第です。



ただ、ここで言う「メイド」の広がりの主体・ブームの枢軸を担ったのは「英国メイド」ではなく、あくまでも「メイド服コスプレ」です。メイド服コスプレであればこそ広がりを持ちえた可能性が極めて高く、その辺りは第2期メイドブーム〜制服ブームから派生したメイド服リアル化・「コスプレ」喫茶成立まで(1990年代)に整理しています。この辺の実感は、世の中に伝わる「メイド・イメージ」の強さと、執事軸の伝え方に記しましたし、それ以外ではAmazonで「メイド」と検索してみてください。上位に出るコンテンツが、日本の実情の一端です。



一応、冒頭の話にはつながりましたかね? 本来は『執事とメイドの裏表 ─ イギリス文化における使用人のイメージ』刊行記念に何か書こうと思ったテキストだったのですが、思ったより広がりました。


『英国メイドがいた時代』をアキバBlog様にてご紹介いただく

メイド同人誌 英国メイドがいた時代 「家事使用人の繁栄から衰退までを解説」(2011/08/20)と、アキバBlog様でご紹介いただきました。



ありがとうございます!



今のところ、「とらのあな」「COMIC ZIN」での委託をしており、店舗ではまだ買えると思いますが、通販は前者で売り切れ、後者のみで扱っています。



基本的には『英国メイドの世界』の続き的な位置づけなので今までの読者の方に読んでいただきたいと思いつつも、今回の新刊だけでもメイド雇用の構造がある程度分かるように作っていますので初見の方でも興味を持てる内容となっています。



関連してAmazon講談社『英国メイドの世界』も売り切れていますが、在庫はありますので、本屋さん経由のご注文か、しばらく(1〜2週間)待っていただくと徐々に在庫が回復していくはずです。


現代英国の格差を照らし、現代日本の労働環境も相対化する『英国メイドがいた時代』

Twitter上で、【karoshi 過労死の国・日本(3)繰り返される悲劇】先進国なのに…24時間働かせても合法+(1/2ページ) - MSN産経ニュースという記事を知りました。



偶然ですが、『英国メイドがいた時代』の中で、日本の36協定・ILOの話に触れています。英国メイドは労働時間制限なし、労働法の保護なしでした。何かこう、「メイド」というと過去の職業のように思えたり、現代の海外事情のように思えたりするかもしれませんが、「労働条件」という観点で見ると、「どこが変化して、どこが変わっていないか」と現代の状況を相対化できます。



今を生きているので、「働きやすい理想的な環境はなんなのだろうか」と考えたり、「なぜ、変わらないのか」と思うところと向き合ったりと、過去を学ぶことは現代に役立つと思う次第です。



その中で今回の夏の新刊『英国メイドがいた時代』は、今の日本を振り返り、現代英国の一面を知り、将来の日本を考えるときに、お役に立てるのではないかと思います。



現代事情の専門家ではないので、まだまだ学ばなければならないところや足りないところもありますので、この本に「答え」があるというわけではなく、「自分で答えを出す機会として、座禅をする場を提供」するようなイメージです。



新刊『英国メイドがいた時代』



あと、『中流社会を捨てた国 格差先進国イギリスの教訓』も、非常にオススメです。経済格差への各階層ごとの認識の相違や、教育支援、就業支援の現場といった社会福祉への観点が広がります。とても丁寧で多面的、かつ分かりやすく作られています。



中流社会を捨てた国―格差先進国イギリスの教訓

中流社会を捨てた国―格差先進国イギリスの教訓





ブログでは、こうしたテーマについて、今まで次のような話をしてきました。



メイドや執事の労働環境と、階級の違いによる差異

「2つの使用人問題」を巡る19世紀末時点での女主人の見解

『英国メイドがいた時代』が繋がっていくテーマの補足



最近ではほかに『現代中国の移住家事労働者』を読み始めたところ、冒頭で「使用人」ではなく、「家事労働者」と表記する理由を説明していました。この呼び方は、第二次世界大戦後の英国で見られた呼称の変化の影響を受けたものでしょう。同書に出たglobal circuit(Saskia Sassen)の概念も、どこかで読んだ気がしますので、これも読みたいところです。



中国は万博を開催したり、格差が広がっていたりと大英帝国的な要素が再現しつつ、仮に中国10億人の生活レベルが均質に向上すると、世界の資源は無くなる、との点で大英帝国の発展と違った帰結をもたらす可能性を持ちます。そんなトピックの本を読んだことや20世紀のメイド不足による「生活様式の変更」と重ねてみる で書いたような石油資源の奪い合い、そしてグローバリゼーションへの関心が、自分の中ではメイドを軸に繋がっています。(『まおゆう』で描かれた近代化も、その分野への関心を急速に強めて自分の言葉にしたい一因ともなりました)



『イギリス近代史講義』の著者で英国史の研究家・川北稔先生の関心事として、「グローバリゼーション」と、経済発展の帰結としての「資源枯渇・環境破壊に直面する生活」が挙げられていますが、何気なく、メイド研究はその方向へ向かっているのではないかと思う次第ですし、今の時代だからこそ、扱える領域は広がって、多くのテーマと繋がっていけると思う次第です。



『イギリス近代史講義』〜現代を照らす一冊(2010/12/15)