ヴィクトリア朝と屋敷とメイドさん

家事使用人研究者の久我真樹のブログです。主に英国ヴィクトリア朝の屋敷と、そこで働くメイドや執事などを紹介します。

スペシャルゲストは、メイドと結婚した紳士

今回の新刊はスペシャルゲストをお招きします。



と書くとそれっぽいですが、すみません、見栄はりました。



百年前にメイドと結婚した紳士(兼法律家兼詩人兼メイドスキー兼働く女性研究家)、Arthur Munbyの詩を翻訳したものをご紹介するつもりです。『MAID HACKS』で微妙に盛り上がったArthur熱がぶり返し、今回の本も実はArthur本なのです。



使用人の生と死を描く基礎資料も、既にご存知の方もいるかと思いますが、Arthur Munbyが刊行した資料『Faithful Servants』のことです。『ヴィクトリア朝の暮らし7巻』を刊行する直前ぐらいにこの本の存在を知り、タイトルに『忠実な使用人』という言葉を借用しましたが、実際に本を入手出来たのは、今年の8月でした。



以前別の本でご紹介した変態ぶり(馬糞や藁が付いたようなブーツをメイドに舐めさせたり、主人が不在の折にメイドの勤める屋敷に行き、メイドに主人の服を着させるご無体)が際立つ紳士ですが、フォローと言うか、その他の観点もあるよということで。



実に数百人の使用人の生と死の記録。



友人の手を借りたとは言え、英国各地の墓地を訪問して収集すると言うのは、並大抵のことでは出来ません。本当に、「使用人という生き方」に深い関心と愛情を抱いていたのではないかと思わされる、テキストです。



残念ながら、墓碑銘そのものは数があるものの、非常に淡々としているものが90%〜98%ぐらいを占めており、それでちょっとどのように扱うかに苦戦している次第です。


過去に暴かれたArthur Munbyさんの諸々

『Love & Dirt: The Marriage of Arthur Munby and Hannah Cullwick』その1

『Love & Dirt: The Marriage of Arthur Munby and Hannah Cullwick』その2



『MAID HACKS』でも、訪問先のお嬢様よりも屋敷にいたパーラーメードに注目し、彼女のことを日記に残した、というエピソードを紹介しています。


意外と興味深くなりそうです(21:00)

今日を除くと、もはや実稼働日は2日しかないのですが、ようやく資料整理率が80%になりました。明日以降の平日を使い、残り20%を満たします。以下、これから同人誌のネタにしていく要素と言うか、メモ書きです。



墓碑銘自体に感動するようなものは少ないままですが、「二極化」というのでしょうか、若くして亡くなる使用人と、七十歳過ぎたような使用人の墓碑が多いです。使用人を続けている人だからこそ、裕福な主人によって墓碑を残してもらえるのではないかと思います。



英国が帝国主義・植民地を占領した歴史を色濃く残す記述も混ざっています。黒人奴隷と思える墓が2つ(fromアフリカ)、さらにもうひとつは「10歳の頃、ベンガルからイギリスに連れてこられた少女」(fromインド)って、奴隷として買ったのですかと聞きたくなるような話も載っています。



他にも幾つか新鮮な発見もありますが、主人の子供をかばって死んだ使用人や、池に落ちて死んだ使用人の少年など、死因自体も多種多様です(特異な事例のみあえて墓碑に載っているので、ほとんど載っていないのですが)



書いてあるのはいずれにせよ「誰が」「いつ」死んだ、ばかりですが、年齢や性別、職業によってその背景を想像したり、数字を組み合わせると別の形が見えたり、かなり興味深い資料であると判明したので、かなりのテキストを書けそうです。



あと、「friend」と墓碑銘に刻んでくれる主人がどれぐらいいたのか、というのも気になっているところです。書いてくれていることが意外でしたが、あるものです。



自分と同い年だったり、自分より若かったり、死亡日がクリスマスや大晦日や元旦やだったりと、数字を見ているとその向こう側、当時の光景が少なからず感じられます。



Faithful Servants: Being Epitaphs and Obituaries Recording Their Names and Services

Faithful Servants: Being Epitaphs and Obituaries Recording Their Names and Services




年内の委託はもうすぐ終了します

『とらのあな』に『英国メイドの世界』を100部追加で委託しましたが、再開から10日程度で無くなりました。



これまでだいたい1〜2日程度で瞬殺していた頃と状況も変わり、欲しい方には手に入れやすい状況が作れたとも思います。



現時点で「数が読めない」コミケを前に控えており、来年以降のイベント頒布でも持って行こうと思っているので、一旦、年内の再頒布は次の20部(委託先が引き受けてくれた場合)を最後に、行いません。しばらくはそれで間に合うとも思いますが……



既刊についても同様です。8巻と補充予定の『MAID HACKS』以外は数が減ってきたこともあり(特に7巻)、イベント頒布をメインにしていきます。



今手元に新刊の再販分はそこそこありますが、これ以上の増刷は規模が読めず、行うのが難しい状況です。イベント最優先主義なので、その点はご了承下さい。委託はあくまでも遠方に在住し、イベント会場に来られない方のフォローとして位置づけております。