ヴィクトリア朝と屋敷とメイドさん

家事使用人研究者の久我真樹のブログです。主に英国ヴィクトリア朝の屋敷と、そこで働くメイドや執事などを紹介します。

書店で本を売る現状認識と著者が提案可能なアクション

本コラムは出版した本に1日でも長く生きてもらうため、著者に出来ることの第3回目です。本を出した著者が何を出来るのかを考えていくテキストです。



第1回目:出版した本に1日でも長く生きてもらうため、著者に出来ること(2011/01/16)

第2回目:本を書店で初めて売る体験から気づいたこと(2011/01/26)



初見の方は、上記リンクを先にお読みください。


目次

  • 1.はじめに〜前回の続きも兼ねて
  • 2.書店で本を売る感覚
    • 2-1.長期・書店の数の多さ
    • 2-2.返本率
  • 3.書店が一冊の本にかけられるコスト
  • 4.書店の方に提案可能な「私」の取り組み
    • 4-1.POPは店員の方々によることを前提
    • 4-2.書籍フェア・棚つくりへの著者リソース利用の提案
    • 4-3.POPと書籍フェアの実例
  • 5.まとめ
    • 5-1.文脈を作る・関連性を描く
    • 5-2.情報を伝える「ウェブ」の窓口を著者が持つ


1.はじめに〜前回の続きも兼ねて

これからは書店で本を売ることを前提に話を進めます。



前回、はてぶでご指摘いただいたように、いわゆるAIDMA(Attention、Interest、Desire、Memory、Action)に基づく着想は重なります。著者の知名度が高ければ本も売れる、書店の方も喜ぶというのは理想ですが、現実的になかなかそうもいきません。「本が面白ければ評判になって売れる」というのも真理ですが、面白いかどうかは見つけてもらい、読まれなければわかりません。実現できていれば、きっとこのようなテキストは書いていないでしょう。つまり、これを書いている時点で、私の持つ土台は、違っています。



今、劇的に知名度が上がっても「ゼロから興味を持って買う」には高すぎますし、買っていただいても、不満足が生まれるだけに思えます。私にとって好ましいのは、「この本に、実は興味がある人たち」と出会うことです。



「ウェブで行えばいい」との見解は前提ですが、ネットと書店では動きが違うと思います。たとえば私の本、『英国メイドの世界』はネット書店のbk1全体で「3日間、本全体で1位」を記録する売り上げを出しました。一定期間はAMAZONの「歴史・地理」でも上位10位以内に入っていましたし、本全体でもベスト100以内にしばらく入り続けました。しかし、書店では、私の本がネットほど評価を受けるように感じられません。これは、ネットでの客層や買われ方、既存メディアの露出が無いことによる違いだと考えられます。



私が出版化で期待したのは、認知の機会の広さ、新しい出会いです。書店との取り組みで私の関与できる余地がほとんどなく、また私が得られる情報も不足し、推測や憶測でしか物をいえませんが、まず自分の置かれた状況と相手の立場を考え、「本を売る」ことについて整理しました。



その前に、ご参考までに、ウェブで公開されたブログ記事をまとめた『20歳を過ぎてから英語を学ぼうと決めた人たちへ』を執筆されたHAL_Jさんが公開された、「本の認知を高める方策」をご紹介します。(文脈としてはTwitterがメインの話です)




例えば、Twitterにある考えが現実に伝わる経路を一つここで紹介する。
(中略)
5. AmazonなどのNet書店で書籍が注目されてランキング入りする。
6. Net書店で注目されている事実を現実にある書店に伝えて、書店で重点的に扱ってもらえるように営業する。
7. 現実の書店でランキング入りしたら、その事実をTVや新聞といった影響力のあるMass Mediaで取り扱ってもらえるように宣伝する。

「私のTwitter社会論」 Twitterは変化を起こす最初の一歩には成りうる。けれどその力はまだまだ小さい。より引用



選びえる選択肢は書籍の領域、出版部数で異なります。6として取り上げられている「書店営業」を私は選べません。残念ながら、私の本では「書店を動かすほど、1店舗に入荷されていない」からです。



では今の段階で何ができるかといえば、はてぶで以下のようにご指摘いただいた通り、「ジャンル・カテゴリ」に興味のある人と書店で出会うようにすること、になります。




asakura-t 露出が多さよりも「ジャンル・カテゴリに興味のある人」のほうが買う可能性が高いとは思う。// ジャンルが曖昧な本はいろんな書店に置かれたほうがいいかもね(置き方も書店の傾向に合わせて変わるので)。 2011/01/26

http://b.hatena.ne.jp/entry/d.hatena.ne.jp/spqr/20110126/p1



著者が「知名度による本の認知」以外で取り組めることは、専門性を発揮して「書店や売り場に適した売り方の提案を行う」ことだと思います。提案を直接行うことが営業だとすれば、提案をウェブに記載して間接的に行うことが私の行えることになります。



一応、以下の情報には接しています。


本を売る現場でなにが起こっているのか!?

本を売る現場でなにが起こっているのか!?





本の現場

『石塚さん、書店営業にきました。』


2.書店で本を売る感覚

書店に「どこまで著者(あるいは営業さん)が介在できるか」という難しい問題があります。著者が「売りたい」と意気込んでも、入荷部数が少なければ、一店舗当たりの売り上げは低く、手間をかける価値がないとみなされるからです。その意味で書店さんとの関係も、こちらが一方的に提案して済むものではありません。



素人考えとして、私は「ある本屋で売れているデータや傾向を営業さんに見つけてもらい、それを反映して書店の方々に実行してもらえたら」と思いましたが、そもそも私の本は冊数が少なく、それを実行するにも「書店という対象」が多すぎ、また本が売れる速度は私が思う以上に「時間をかけるもの」という、認識の差がありました。


2-1.長期・書店の数の多さ

まず気づいたことは、書店で本が売れる速度は、これまで私が同人で体験したものと大きく異なることです。当たり前といえば当たり前ですが、同人は「同人イベント」という閉鎖環境で数時間の中で頒布を行い、書店は広い窓口で長期的に時間をかけて売るスタイル、というのでしょうか。結果が出る時間軸に大きな違いがあります。



同人イベントのピーク時には新刊と既刊で500〜600冊を1日(6時間)で頒布できました。超巨大サークルともなれば、1万冊といわれています。しかし、あくまでも「同人誌」(その瞬間に買わないと二度と出会えないかもしれない・そこでしか買えない)の話で、さらにこの規模は年2回のコミケだけなど、機会は限られています。(同人を扱う書店の話は、ここではしません)



同人イベントではサークルスペース上のディスプレイや来場される方との会話まで含めて、すべて自己完結できます。自分が努力して本の魅力を伝えたり、分かりやすように工夫をしたりすることは楽しく、一定の効果もあります。



一方、書店は規模と時間軸が違います。全国には書店が1.5万店舗あるといわれています。(朝日新聞社記事2010/01/26・消える書店、10年間で29%減 和歌山県ではほぼ半減) 仮に全店舗に1冊ずつ本が配本された場合、6ヶ月に1冊売れるだけでも1.5万冊です。1万冊売れれば成功といわれる中、「本を売る」考え方が異なります。



私の本は重版し、発売から2か月半が経過した時点で第3版まで出ましたが、売れ行きに差があり、まだ初版が残る店舗も多々あります。返本されていないのは、この3か月が経過した今も、売れるかもしれない可能性を期待されるからでしょう。



もちろん、「全国の書店に一律1冊配布」は現実的にありません。人口が多い地域の大書店とそうでない地域の書店とでは配本数に差が出ますし、私の本は全国一律に配本するほど数がありません。1店舗に占める「私の本」の冊数は少なく、必然的に売上は相当低く、手間をかけるコストに見合わない、というのが私が発売してから認識した事象です。


2-2.返本率

書店が配本に関与できる余地が少なく(返品の山と戦う書店員や、wikipedia:書店:流通経路など)、書店が望まない本が来る可能性もあります。



上記ブログでも指摘されているように「新刊と既刊」は常に面積を奪い合います。私は大学生の頃、小さな書店でバイトをしたことがありますが、返本をよくしました。返本をしないと新しい本を陳列する棚が確保できないからです。(資金繰りの観点はここでは言及しません)



私が初動で結果を出さなければならないと思った理由は、この「返本のサイクル」で早期に店頭から去ることを避けるためです。売れない本は、陳列スペースに余裕が無い限り、撤去されます。撤去されれば書店全体での強みとなる「面」が減り、出会いの機会を失います。



書店に適した売り方が「短期」ではなく「長期」ならば尚のこと、「返本されないようにする」努力や、売れることで「補充され続ける」結果を出さなければならず、そのためには「書店員の方の視界に入る」必要があると思いますが、そこではウェブでの話題性や、「売れた」という数字が鍵になるでしょう。


3.書店が一冊の本にかけられるコストとのバランス

毎日、数多くの書籍が入荷される中、どの本が売れるかは書店の方には分かりにくいでしょう。まして、刊行する出版社でさえ、よほどのブランド力がある作家で無ければ、売れる・売れないは分からないはずです。最初から分かっていれば、「増刷」は行われないのですから。



そして手間に見合う効果を出すには、相当な冊数が売れなければなりません。マーケットの規模の大きさの違いもありますが、私の本では、私が営業をかけて書店に手間をかけてもらったとして、利益を返せません。



仮に私の本が10冊入荷したとして、書店の取り分を20%だとした場合、2800円×20%×10冊=5600円の利益です。売るためにPOPを作ったり、本の配置を考えて置き換えたりする人件費を、仮に時間単価1500円として30分費やした場合、750円のコストです。10冊全部売れたとしても利益から約13%、人件費分がマイナスされます。1冊しか売れなければ赤字です。



こう考えると、書店の利益を最大化するには「配本数が多く、話題性がある」売れる本に傾斜すると、私は思います。同じ値段で、10冊入荷される本と100冊入荷される本がある場合、当然、後者の方が人気がある・売れる見込みがあるからその冊数になっているので、10%買う人が増えるかもしれない手間をかけるならば、後者を選びます。



販促は売れる小説に書けます(作家の書店営業について)と、作家の方の記述にもありますが、その通りだと思います。そうでない本はどうやって書店と接点を持ちえるのか、というところが次の話になります。


4.書店の方に提案可能な「私」の取り組み

これまでのテキストは私が把握する情報を羅列したのみで、嘆く感情はありません。同人誌よりは遥かに気が楽ですし、著者には契約上、一切リスクがありません。同人では自分の判断で増刷を行い、委託やイベントの在庫搬入も相当大変でした。



今、私がしたいことは、出版でしか体験できないことです。私はこの本を通じて、私が好きな世界をシェアする人が広まることや、作品が増えることを願っています。また、本を出版して売って下さる方たちに何を返せるか、というところを考えつつ、無理がない提案を探しています。



書店を軸に考えると、手段は絞られます。書店員の方によるアクションとしては、POPによるレコメンドやブックフェア、品揃えの工夫、「本屋大賞」のような書店発の話題性を生む試みなど、様々な展開も行われていますし、書店員の方による陳列棚作りが行われ、POSや経験に基づいて精度が上がっているところもあると伝え聞きます。



そこに重なる形で自分が役立てる領域があるかを踏まえ、自著の認知を店頭で向上させる手段としては、穏当に「POPとブックフェア(本のラインナップ情報)」の提案になると思います。いずれも私は自分の事例として体験しておりますが、売り上げについては把握しておりませんので、そこは差し引いて聞いていただければと。


4-1.POPは店員の方々によることを前提

著者や出版社がPOPを主体的に作って売り込んでいくかは、コストや現場での作業の手間などを含め、本の種類によると思います。大部数の販売が見込めるならば著者の手書きPOPは話題性を持つでしょう。



しかし、POPに関しては、「使いたいと思った時、使える素材が目に入る」ぐらいが現実的だと思います。POPを使うかは店舗の面積や構成によります。また、POP を配るのはやめろという、整理されているテキストでは、POPが多すぎたり、意図が不明確なものではノイズになる、と指摘されています。



この辺りは時代も変わってきているのか、ウェブでのダウンロード方式も見受けられ、「書店の方が選択できる」方式が好まれているように感じます。あくまでも感覚に過ぎませんが、新潮社では編集部が書店POPを作り、ダウンロード可能にしています。



私の本の場合、POPという発想がなかったので、著者のアクションはありませんでした。ただ、運良く、書店の方が動いて下さったことで、複数の事例があります。



1つ目は書店員の方に自発的にPOPを作っていただけたケースです。すべての事例を把握してはいませんが、秋葉原有隣堂ヨドバシAKIBA店、とらのあなメロンブックスなど、様々な店舗で行っていただけました。



2つ目は編集部との連携です。大目に部数を仕入れてフェアを行って下さる啓文堂書店三鷹店様に、私の担当編集さんは『英国メイドの世界』の帯をベースにしたイラスト+手書きスペースのあるPOPを準備してくれました。以下が、実際にPOPを使っていただいた時のものです。







その後、他の書店でも使えるかもということで、編集部に問い合わせをしていただき、送付する運用となりました。告知は編集部ブログと私のブログで行うに留まっていますが、変形的なダウンロード方式になるでしょうか。



いずれにせよ、POPの効果は実際の現場で配置を行う店員の方々にかかっているので、「店員の方々に」本が持つ話題性や魅力、コンテクストを事前にどれだけ伝えられるか、伝えたいと感じていただけるかというところによりそうです。



私の本の場合はどういう経緯で書店の方に伝わったかわかりませんが、秋葉原では「メイド」という話題性とPOP自体がネタになる土地柄、一般書店では店員の方が同人誌の頃から見て下さっていたのかなぁと考えています。


4-2.書籍フェア・棚つくりへの著者リソース利用の提案

「私の本を売る」発想を捨てれば、書店が得る利益を大きくできる提案をできます。「書店フェア」と、その為の「著者リソース利用の提案」です。



当たり前の結論で面白みがないかもしれませんが、「私の本を売って欲しいから、私の本を売るフェアをして欲しい」ではなく、「世の中のトレンドに沿ったコンテクストを著者が提案し、その中に自分の本も含める」ことができれば、読者にとっては「話題性がある発見」、書店にとっては「売上」、著者にとっては「自著の売上」と「フェアで扱う領域のジャンル活性化」が期待されます。



丸善と取り組む松岡正剛さんレベルの「世界観で魅せる」フェアには遠く及びませんが、少なくとも、学術書ではない範囲で日本で刊行されるメイドや執事、ヴィクトリア朝の歴史本・小説など諸々含めた私の関心領域は広く、また「読者」に近いです。その領域にどっぷり浸かっていますので、幅広い提案が可能だと思います。



私は「自分の本と近しい本」を見つけ、また補い合えることを前提に「本を一人しない」提案をできるのではないかと思います。ある領域に特化した著者は、相手に応じて本のラインナップを提案する感覚を持つはずです。書店は併売データとして持ち得ると思うので、その辺りをうまく一緒にできないものかなぁと考えています。


4-3.POPと書籍フェアの実例

以下、実例(結果データは把握せず)を交えて取り組みをご紹介します。



2010年11月の発売時、啓文堂書店三鷹店様で多く本を仕入れて下さり、先ほど事例として挙げたように、担当編集さんから「鶴田謙二さんのイラストがある帯をモチーフにしたPOP」を同書店に送って下さいました。



その後、「書店フェア」を行って下さっていることから、「私の方でラインナップを提案しましょうか」と関連書籍リストの候補とその理由(時事ネタや関連性の強さなど)を編集部に送りました。それから書店の担当の方が選定を行い、その本を紹介する短いコメントを私が考える、という流れで話が進みました。



英国メイドの世界へようこそ啓文堂書店三鷹店様:2011/11/17〜)



すべてが同時に行われたわけではありませんが、結果として、11月に始まったフェアが1月中は続き、こっそり、11月、12月にうかがった時には本のラインナップも都度変わっていました。1月になってからネットで知ったのは、「私のレコメンド」を編集部が本のデザインに合わせたペーパーを作ってくれていたことです。1月の時点で、このフェアを紹介して下さったブログがありました。



書原、啓文堂書店、平安堂……続・書店のいろいろ



詳細は是非、リンクを読んでいただきたいのですが、「関連書籍があることで、本の文脈の広さを伝えられること」(メイド=萌え、という認識が強く、それと異なる本であることを「周辺の本」が伝えてくれる=著者にメリット)、「書店独自のフェアが面白い、との感想」(書店のブランディングにメリット)があったように感じられます。



実際のところ「全体での本の売り上げ」という結果を出せているかは分かりませんが、著者の心情として取り組んでいただいたことが嬉しかったですし、少しでも援護射撃をしたいとこのようにウェブでテキストを書いています。


5.まとめ

これら2つの経緯から、私は著者ができることはウェブを通じて、「POPがある」ことや、「この領域は今、こうしたトレンドがある」ことを示したり、「私の本は、実はこうした側面があり、このいま話題の本と関連性がある」と伝えることなのかと、思う次第です。


5-1.文脈を作る・関連性を描く

たとえば、2010年の直木賞受賞作『小さいおうち』は女中の話でしたが、日本の女中の歴史を扱った『<女中>イメージの文化史』という本をご存知でしょうか? 1800円ぐらいで、メイドが好きな人にも意外と知られていません。昨年は講談社から『一〇〇年前の女の子』という本が書評で扱われましたが、この3つを結びつけたり、そこから比較して、ではその同じくらいの頃を生きたイギリスのメイドは、という「メイド軸」での話もできるでしょう。



小さいおうち

小さいおうち



“女中”イメージの家庭文化史

“女中”イメージの家庭文化史



一〇〇年前の女の子

一〇〇年前の女の子





家事労働者としてのメイドを観点にすれば、日本経済新聞2010/12/05付で紹介され、最近ブログでも取り上げた『お母さんは忙しくなるばかり』という本も関連します。同書はアメリカの家事労働と家電の歴史を扱った本で、「家事労働」をメイドに行わせたイギリスとの比較も面白いでしょう。



私の本が新刊であるうちは、同一テーマの領域のアクティベーションに繋がります。『ヴィクトリアン・サーヴァント』(2005年)という学術書は、私の本が刊行してからAMAZONで11月のうちに在庫切れになりました。私のAMAZONアフィリエイトIDでも、何冊か買われていました。当然、単価が高い本は売れにくく、買いにくいので書店フェアの中心としては扱いにくいとうかがっていますので、あまりニッチ過ぎると興味軸で動くネットの方が向いているかもしれません。



ヴィクトリアン・サーヴァント―階下の世界

ヴィクトリアン・サーヴァント―階下の世界





とはいえ、『英国メイドの世界』で紹介した『荊の城』を読まれる読者の方も登場し始めていますし、海外ミステリといえば、最近読書メーター『海外ミステリ好きだが英国の階級制度のややこしさには辟易していたが、この本を読んでかなりすっきりした。』といったコメントを頂きましたようにミステリとも親和性があります。「相互に読者を送りあう」ことも、書店フェアができることなのではないでしょうか。



英国メイドの世界

英国メイドの世界



荊[いばら]の城 上 (創元推理文庫)

荊[いばら]の城 上 (創元推理文庫)





最近よく書いていますが、今、映画化で話題となっている『わたしを離さないで』でカズオ・イシグロに興味を持った人は、たぶん、かなりの確率で『日の名残り』を読むはずです。(AMAZONでも、私が確認した時点でよく一緒に購入されている商品に挙がっています)



わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)

わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)



日の名残り (ハヤカワepi文庫)

日の名残り (ハヤカワepi文庫)





こうした点から、『日の名残り』に再び光が当たれば、映像や、『日の名残り』で照らす執事への関心も高まることが予想されます。それが直接私の本に結びつくかはわかりませんが、執事や貴族の屋敷に興味を持つ人が増えるのは嬉しいことです。さらに、過去に『日の名残り』の映画を見た人、あるいは小説を読んだ人にとって、『英国メイドの世界』は作品をもう一度楽しむための、新しい視点となりえます。[コラム]屋敷に仕えた執事に求められた4つの能力というコラムを書きましたが、『英国メイドの世界』は今時点で、日本一、英国執事に詳しい資料だからです。



執事つながりといえば、最近、『謎解きはディナーのあとで』の著者の方のフェアの中に、『英国メイドの世界』を混ぜてくださった書店もありました。こういう本の繋がりを考えるのは、とても楽しいです。



謎解きはディナーのあとで

謎解きはディナーのあとで




5-2.情報を伝える「ウェブ」の窓口を著者が持つ

書店フェアやPOPの取り組みは、本来、著者が知る必要のない情報かもしれません。著者は次回作を、良い作品を作り続けるのが本分で、それこそが作者に求められることだと。



ただ、私の場合、「自分の多くの作品の中の一冊」とするほどには、本を作れると思っていません。出産ぐらい大変な思いをしましたから、大切に育てるつもりですし、親バカなればこそ、子供が置かれる環境を「出来るだけいい場所」「輝く場所で」整えたいエゴもあります。



書店での特定領域の書籍選定に私も加えてください、というところが、今時点の私が「してきたこと」を含めた結論です。著者は読者と繋がるだけではなく、書店の方々と、もっと繋がってもいいのではないかなぁと思います。去年12月に佐々木俊尚さんの以下の呟きを拝見しましたが、そこに著者も入っていいのではと思った次第です。







実際に取り組むとなると相互に時間もかかるので、今時点ではPOPダウンロード同様、ウェブに私が情報を置き、書店の方が必要と思った際に参考にしてもらう方向が現実的な落としどころだと考えます。特別面白い話ではなく、応用できるのかも分かりませんが、これが私が初めて本を出した体験(発売から3か月経過)を通じて、今後に何ができるかを考えた、今のところの答えです。とにかく何をするにも、著者が何かを行うならば、私はウェブを使うことがすべての前提だと思っています。



利用されるかは分かりませんが、特にコストもかからないので、近いうちに書店の方に向けた情報を掲載したカテゴリを、資料紹介サイトに作るつもりです。より深いコミットが必要な場合は、編集部に問い合わせていただくことになります。



(※2011/02/16 書店・店員の皆様へカテゴリを新設し、情報をまとめました。フェアの提案は後日行う予定ですが、いざ作ろうとすると難しいものですね)



今回記したテキストは「取り組み」が行える書店や、本の領域を極めて限定した話です。アクションを行えない書店に向けては、引き続き、本の認知度を高める方向にてウェブでの活動を続けるつもりです。



余談ですが、最近目を引いたウェブでの試みは、星海社『最前線セレクションズ』のPOP印刷機能についてです。著名な方々が交代制で毎日オススメのアイテムを紹介する企画自体は「クリエーターの原点・個性」を知る上で面白く、さらには出版社が自社メディアで自社以外のアイテムを宣伝し、なおかつ、そのクリエーターによるレコメンドを様々な店舗でPOPとして使えるようにする試みは、販売の現場にネタを提供するツールになるでしょう。



次回はウェブを含めて、刊行前からどのようなアクションをしてきたのかを書きます。こちらの方が、より具体的な体験談になります。