ヴィクトリア朝と屋敷とメイドさん

家事使用人研究者の久我真樹のブログです。主に英国ヴィクトリア朝の屋敷と、そこで働くメイドや執事などを紹介します。

『英国メイドの世界』発売8か月経過報告と電子書籍のアクションなど

久しぶりの経過報告となります。『英国メイドの世界』は2010/11/11の発売から、先日の2011/07/11で遂に8か月を経過(9か月目に突入・もうすぐ10か月へ……)しました。発売から半年で返本期間を迎えると、基本的に本は在庫となって出版社に戻ってきます。半年が経過しても尚、書店の棚に残り続けられる本は、わずかです。



半年が経過した5月に書いた『英国メイドの世界』刊行から半年経過と振り返り(2011/05/13)時点では「これから、返本ラッシュが始まる」と書きましたので、その辺りの続きとなります。



そうは言いつつ、自分で出来ることはしようと、書店の方に「この本は残せる」「他の本との併売ができる」との見込みを持ってもらおうとしたり、様々な角度で伝えて本の売り上げをなんとか伸ばせないかと努力したりしました。そうした様々なアクションの振り返りもします。



結論を最初に書くと、初期のインパクト以降、それに匹敵する山や話題性は、個人の努力で作れませんでした。本自体の販売数はお陰様で、「この手の本(歴史資料・2800円)にしては、かなり売れた方」となりますので、私がアクションしたこと自体に意味はありましたし、多くの方に出会えました。アクションを何もしなければ「3版」という2回増刷の結果は出なかったでしょう。



なので、この8か月で出来なかったのは、「この手の本」という但し書きをとるに至らなかった、この点です。選択と集中をし切れなかったというのもありますし、メディア露出も一切聞き及んでいません。取り上げてもらえる存在として認知されなかったようですね。多くの人を巻き込める、興味を持ってもらえるような伝え方をできませんでした、というのが現状です。



このテキストの最後に、今後の話として、『英国メイドの世界』電子書籍化に向けた話(具体的には何も進んでいません)や自分の気持ちを書いています。



何はともあれ、自分で「自分の本を殺す」(忘れる・諦める)ことだけはしないように、これからも魅力を伝え、語りかけ、大切に育てていくことは続けます。


目次

  • 1.書店からの返本は始まっている
    • 1-1.シリーズの強みを得られなかった
    • 1-2.歴史本としての認知は得られている
  • 2.著者によるネットでのアクション・提案は中途半端に
    • 2-1.著者によるコンテクスト作り
    • 2-2.感想の共有
    • 2-3.Facebookの活用
    • 2-4.異なる接点での伝え方
    • 2-5.『英国メイドの世界』第一章PDF・見本誌の効果について
  • 3.電子書籍化を相談中・自分でできるものは自分で進める
  • 4.終わりに


1.書店からの返本は始まっている

結論から言えば、2か月経過した時点で一定数の返本が行われています。実際の印刷部数や返本率は公開しませんが、幸いなことに新刊書籍・雑誌出版点数や返本率推移をグラフ化してみる(Garbagenews.com)に記載されている約40%という数字は大きく下回っています。それでも、もう一度、増刷がかかるような残り部数ではありません。



元々、『英国メイドの世界』は初期に幅広い書店へ行き届かせる配本を行ったので、一冊だけ書店に送り込まれるようなこともありました。こうした書店からの返本が多数を占めるのか確認をしていませんが、個人的には文脈を作りにくい状況に配置されると(たとえば歴史ジャンルや、シャーロック・ホームズ『エマ』の近くのようなコンテンツのテーマが近い領域)、売りにくかったと思います。



また、一過性のネタとして仕入れてもらえたかもしれないコミック系やオタク系のショップで「定常的な在庫」として置かれているのかも不明です。私がふらっと訪問した『とらのあな秋葉原店では、見当たりませんでした。平積みで売って下さったメロンブックス秋葉原店でも、その後、「どのコーナーに配置されているか」を追跡していません。



観察の結果ですが、ベストセラーでもない限り、書店に残る確率が高まるのは、下記2点の要素だと思います。


1-1.シリーズの強みを得られなかった

本は、「自分が所属できる場所」があると、書店に残りやすいです。『英国メイドの世界』の後に刊行された『図説 英国メイドの日常』の書店での扱われ方を見て確認できたことですが、「図説シリーズ」として近所の書店にも入っています。



「シリーズ」に所属していない、カテゴリーエラー的な『英国メイドの世界』は、時間がかなり経過してからの書店での生存率が低いのではないでしょうか。



同ジャンルの『図解メイド』も新紀元社の「図解シリーズ」に入り、見かける機会は多いです。シリーズに所属する本は書店での配置面が分かりやすく、そのうちの一冊として残りやすくなるはずです(書店での観察や、後者の場合は図書館への入庫を含めて)。



一応、『英国メイドの世界』は「講談社BOXピース」のカテゴリに所属していますが、同シリーズだけを集めた書店をほとんど見たことがありませんし、「ピース」の中でも異質な本である現状、集合してレーベルの力を借りるに至っていません。



本が一番売れる宣伝手段は「新刊を出し続けること」だと思いますので、仮に、自分でもう一冊、類書を刊行できれば「自分でジャンル・シリーズを形成する」ことも可能ですが、そうそう機会があるものではありませんし、誰もが選びえるものではありません。


1-2.歴史本としての認知は得られている

とはいえ、嬉しい出来事も体験しました。ベンチマークとしていくつかの大書店を見る中、紀伊国屋書店新宿本店と新宿南店、それにジュンク堂新宿店で、ようやく「歴史コーナー」に配備されました。紀伊国屋書店では『図説 英国メイドの日常』と並んで平積み、ジュンク堂新宿店でも平積み的な置き方になっていました。



紀伊国屋書店は好きなのでこまめに足を運ぶ場所です。私の観察という但し書き付ですが、販売後は『英国メイドの世界』は新宿南店にしかありませんでした。在庫が尽きてから補充されませんでしたが、その後、新宿本店の講談社BOXコーナーと、マンガ・ゲーム攻略本のエリアに配置されました。



しかし、最近になって紀伊国屋書店新宿本店と新宿南店の歴史コーナーに配備された次第です。ジュンク堂新宿店の場合は、「マンガ技法」というコーナーに配備されていましたが、こちらも歴史コーナーと、大きめの書店で配置され始めていたのは希望を感じました。


2.著者によるネットでのアクション・提案は中途半端に

ネットでのアクションはいろいろとやってきましたが、五月雨式になってしまいました。振り返り、という趣旨に照らし合わせて、自分のアクションを見てみましょう。



難しいのは、完全に効果を把握しきれない点です。ネットで存在を知って本を買ったのか、他のサイトで本を買ったのか。担当編集の方より流通面(リアル書店やネット書店等のどこに渡ったか)の比率概要をいただき、その数字や自分個人のAMAZONアフィリエイトIDを見る限りはネットでのアクションに意味はあったと思います。



しかしそれでもなお、書店の偉大さを再認識したところも大きいです。



前置きが長くなりましたが、以下、アクションです。


2-1.著者によるコンテクスト作り

出版状況の振り返りを行い、まだ私の本を知らない人に出会うため、ネットで情報を発信し続けよう、その方たちの目に入るような伝え方を考えようと、いろいろとコラムにもしてきました。



第1回目:出版した本に1日でも長く生きてもらうため、著者に出来ること(2011/01/16)

第2回目:本を書店で初めて売る体験から気づいたこと(2011/01/26)



そして、第3回目として書店で本を売る現状認識と著者が提案可能なアクション(2011/02/07)を書き、具体策として書店・店員様向けの案内を告知するカテゴリを、サイトに新設(2011/02/16)と行動し、自分の本(『英国メイドの世界』)と重なりを持ち得る本の紹介を行い、コンテクストを共有しようと結論付けました。



ところが、他の作業や同人活動の準備で忙しく、更新が止まっています。いろいろと面白いコンテクストは存在しているのですが、自分の処理能力が追い付かない状況で、更新の優先順位を下げています。


2-2.感想の共有

『英国メイドの世界』を読んでいるのはどんな人なのだろう、どういう観点でこの本に興味を持ったのだろうと、ネット上での感想をいろいろと読んでいました。梅田望夫さんレベルには到底届きませんが、可能な限り、読もうとしました。



その中で、「他の人がどう読んでいるのか、読者にとっても興味がある」との話をうかがい、ひとまずTwitterの感想を紹介しつつ、自分が補足を行うアクションを行ってみました。



『英国メイドの世界』ネット上での感想のまとめ:その1(2011/05/07)

『英国メイドの世界』ネット上での感想のまとめ:その2(2011/05/15)



ただ、これが意外と大変で、あんまりやりすぎてもどうかなぁと迷いがあり、徹底したアクションに繋がりませんでした。実際に自分のアクションに意味があったのか、というところも可視化できていません。



他にもブログでの感想読書メーターなどでいただいている感想を取り上げたいと思うものの、なかなか出来ていません。


2-3.Facebookの活用

Facebookにファンページを作りました。認知度の問題だと思いますが、あまり見つけてもらえていません。とはいえ、これは自分でも積極的に宣伝していないので、当たり前の帰結です。



Facebook/英国メイドの世界



あと、世の中的にマスメディアで報じられる「萌え」に特化した「メイド」認知を見る限り、この辺りをプッシュするのは難しいのではないかと思われます。


2-4.異なる接点での伝え方

自分が好きなテーマでブログをいろいろと書いて、それぞれが入り口となってこのジャンルに興味を持つ人が増えるといいなぁと思っています。ただ、ブログではあくまでも自分が好きなことを好きなように書き、考えをまとめることの方が多く、特に本に興味を持ってもらえるような内容にしていません。



たとえば、ここ最近、なんとなく考えをまとめるために書いた「2つの使用人問題」を巡る19世紀末時点での女主人の見解(2011/06/26)は、本当に「なんとなく」書いたので、多くのブックマークを集めて閲覧されたので驚きました。そういうレベルなので、そこから著者である私や『英国メイドの世界』に興味を持ってもらう、などという発想はありませんでした。



とはいえ、今回接点を持つことで、また何かがあった時に、思い出してもらえたらありがたいですし、その中に興味を持つ人がいたらいいなぁと思っています。まったく興味がない人に買ってもらえるとまでは思っていませんので、興味を持ち得る人とどう出会えるかは永遠の課題です。


2-5.『英国メイドの世界』第一章PDF・見本誌の効果について

ページ数が多いので事前に中身を知りたいだろうと、担当編集の方にお願いをして『英国メイドの世界』第一章「英国使用人の世界」PDF公開開始(2011/05/30)を行いました。これが五月末なのでだいたい7週間を経過しました。



まず、PDFへのリンクがある[参考資料]英国メイドの世界(著者による紹介)の閲覧数(PV)と、PDFのダウンロード数を見てみます。


年月 PV ダウンロード数
2011/05(02日) 224 70
2011/06(30日) 227 179
2011/07(28日) 165 73



5月が2日でこの数字なのは、TwitterでRTいただいた効果ですが、以降はそれほど集まっていません。ダウンロード数はPVに比して非常に高いですが、これはPDFを台湾系のSNSやダウンロードツールらしきブラウザから直接リンクをされたのが要因のようでした。



いずれにせよ、322ダウンロードに対してどれだけ売れたのか、というのは一切わかりません。PDFの最終ページに、JコミのようにアフィリエイトIDを含んだ商品へのリンクを貼っておけば違ったかもしれませんが、そこまで頭が回りませんでした。



PDF化自体によって、知人に出版の報告をする際、以前よりも伝えやすく、また読まれやすくなったかなぁとは思います。以前は直接会わない限りは、AMAZONのURLをメールで案内するだけでしたが、今はPDFである程度読めるようになっています。また、『英国メイドの世界』を気に入った読者の方が、知人の方に紹介するときに使っていただけているならば、意味はあったと思います。



本当、最初に設計しておかないと難しいです。


3.電子書籍化を相談中・自分でできるものは自分で進める

これは中期的なところで、電子出版領域の発展を見据え、担当編集の方と『英国メイドの世界』の電子書籍化の相談を始めました。まだまだ相談レベルで具体的な進捗はありませんが、私の出版経験として電子書籍を体験したい気持ちがあります。


3-1.『英国メイドの世界』の電子書籍

本を書店で初めて売る体験から気づいたこと(2011/01/26)で書いたように、書店で本を売ることから見えることがありました。同時に、本を売る前から分かっていること(電子書籍化しても、人が通らない「書店の本棚」に並ぶだけで、何もしなければ売れるはずもない)もあります。「売れない」と言われるものがどの程度のレベルなのか、売るには何ができるのかを経験したい気持ちもあって、始めるつもりです。



個人的には『英国メイドの世界』はそのタイトル故に、「メイド本だけ」と思う方々もいます。しかし、実は、執事やフットマン、ガーデナー・ゲームキーパーといった男性使用人の解説が、非常に多く掲載されています。それが伝わっていない実情があり、電子書籍化のタイミングで、こちらを強く打ち出せないかと考えています。



入れ込めなかった索引もなんとかしたいと思っていますが、果たして作業コストが見合うのか、というところも考える次第です。「売れない・赤字」となる見込みのものを出版社にお願いするわけにもいかず、出来るだけ、数字を保証できる材料は揃えたいところです。



今のところ、担当編集の方とやり取りをしていますが、実現可能性は分かりません。ただ、方向性として紙でできることは紙でやれば良くて、紙でリーチ出来ていない読者層にアプローチする方向になるのではないかと。


3-2.同人誌の電子書籍

電子書籍経験を積みたいのは、商業版だけではありません。元々、私は「個人が好きな表現を行い、読者と出会ってやりがいを得て、その上で何かしらの代価を得て、表現に費やす時間を増やしていける・幅を広げられる」環境に興味を持つようになりました。



同人誌即売会で得られる「創作を続けやすい環境」(2010/04/17)や、同人活動の継続性を高める手段としての「利益(2009/09/11)に書きましたように、同人誌即売会への参加を経て、「好きなことで食べられるレベルに行かないまでも、好きな領域の活動を続けられる」ことに肯定的です。



電子書籍元年」と言われた去年よりも遥か前から同人では取り組んでいる方々もいますので、大げさに語るものではありませんし、電子書籍は「コミケ」「コミティア」になりえるのか、というところでは違うと思いますが(ニコニコ動画やpixiv的なコミュニティ・メディアがそれほど見えないので)、「電子書籍」を通じて、今まで出会えなかった読者にどれぐらい出会えるのかに興味があります。



さらに、今度の夏コミで刊行予定の同人誌『英国メイドがいた時代』は、講談社版『英国メイドの世界』で描けなかった、いわば「続き」です。商業化に至らなかったテーマや内容でも、自分で好きなように作れるのが同人誌です。そして、商業版を読んだ方にこの本を届ける機会を広げたい意図もあり(同人だけではなく)、同人誌の電子書籍化に力を入れ始めました。



今のところ、2009年の夏に作った『英国執事の流儀』、2010年夏の『英国メイドにまつわる7つの話と展望』を公開しました。



公開場所のパブーについては、メディア化が進んでいるようで閲覧数自体は集まっています。ただ、販売数は非常に少ないです。値段の影響も大きそうですね。


タイトル 定価 閲覧数 販売数
英国メイドにまつわる7つの話 100 352 3
英国執事の流儀 500 1669 3



一番驚きなのは、自分で宣伝を続けてきた『英国メイドの世界』PDFダウンロードページよりも、閲覧数が大きいことです。



もう少し様子を見て、面を広げていこうと思います。DLSiteでは、『英国メイドにまつわる7つの話』の公開をしていますが、こちらは43ダウンロードと10倍近いです。閲覧数や閲覧機関の相違もありますが、近々、『英国執事の流儀』もDLSiteで公開してみます。


4.終わりに

こうして振り返ってみると、散発的と言うか、効果が見えないことにリソースを使い、また適切な効果検証を行えていないのではないかと思える結果になりました。書店での販売も含めるのでネット上だけで販売の変化を追いきれるものではありませんが、更新し続ける必要があるものは腰を据えて、長期的にやっていかないとダメですね。



とはいえ、逆に、そろそろ自分が「子離れ」してもいい時期かと思いもします。『英国メイドの世界』に捕らわれてしまっている気がしなくもありません。あくまでも出版は「手段」です。それでも、わが子可愛さや、「伝え方を適切に行えれば、もっと多くの読者に出会える」との確信はあるので、うまい距離の取り方を考えたいものです。



また、本を出した時、「小説・物語として本を作らないの?」と以前の職場の社長と同僚1名に言われました。より広範な層に届けていくには、こうした方向に進むことも必要なのではないかと。元々、創作のために作っていた本なので、こちらにも力を入れたいところです。



今回は数字面をテーマにした話でしたが、同人時代には出会えなかった多くの感想や反響に出会えているのも、個人としてはとても大きな体験でした。読者の顔が見え、声を聞けるのは、良い時代だと思います。