ヴィクトリア朝と屋敷とメイドさん

家事使用人研究者の久我真樹のブログです。主に英国ヴィクトリア朝の屋敷と、そこで働くメイドや執事などを紹介します。

共通点を「創作する」(ストーリーを作る)ことで繋がっていく

以前『とらのあな』で品切れした7巻の委託在庫追加を依頼した際は断られたのですが、今回はコミティアでの頒布実績を見て、「フットマン需要あり」「伝え方を変えればOK?」「池袋ならばいけるのでは?」という提案をしたところ、引き受けてもらえました。



こういうところが同人の楽しさというか、ちょっとでも興味や関連があるものの、どこにあるかわからない人に対してのアプローチは欠かしたくないと思っています。自分が好きなものは多くの人に伝えたいですし、興味があるならば、接して欲しいのです。



読まれなければ、価値がありません。価値を評価される場に立てないのですから。



読まれたからといって価値があるとも限らないのが辛い実情ですが、この前のコミティアで限られた時間で接したのは85人です。それ以前のコミティアではもっと少ない人数でした。評価される以前の問題になっているならば、「見つけられやすい」ようにすることが必要だと思うのです。



作品に力があれば、勝手に人を引き寄せ、口コミで広がります。残念ながらまだその域には達していません。しかし、努力である程度、改善できるところもあります。



久我の場合は創作同人小説+解説本ということで、純粋な面白さに依存するよりも、「好き嫌いが少ない、役に立つか」の要素が大きく、幸いにも間口が広いですが、ターゲット読者については、自分の体験から、意識的に広げています。



決して、メイドが好きな人「だけ」の為には、作っていません。



2003年夏に作った同人誌は映画や文学と絡めてメイドを書きましたが、そこで本を読んでくれた方・興味を持ってくれた方は、意外にも「メイドが大好き」という方たちばかりではありませんでした。イギリスに興味があったり、旅行をしたり、大学で文学を勉強していたり、という接点で、来てくれていたのです。(『エマ ヴィクトリアンガイド』発売前でしたし、当時は『エマ』の話をする人も少なかったです)



そうした方たちとの出会いを経て、「関連性を持たせる・関連性を伝える」ことで、多くの人に興味を持ってもらえる接点作りが大事なんだと学びました。その方が楽しいのだと思い至って、現在も活動を続けています。



メイドを伝える要素として今最も大きなテーマが、「働く」ことです。当時の使用人が置かれた環境は、意外と組織で働く現代人に似ています。転職事情を調べたらエージェンシー(人材バンクに類似)があったり、キャリアの描き方も現代的でした。



そこを明確にすることで、久我の資料本の読者は「メイドが好きな人」だけではなく、「組織で働く人たち」にも広げられます。



これって「共通点を見つけるゲーム」(『Under the Rose』5巻)ですね。



この前から書いている「繋がっていく感覚・心地よさ」も、自分で関連性を見つける習性がついてきているからかもしれません。同じ体験をしても、同じ経験にならないように。



就職の履歴書書きに似ているかもしれません。働きたい企業があったとき、自分のこれまでの体験と企業の方向性やこれからの業務で関連しそうな体験を、自分の中から見つけ出し、ストーリー付けしていく。志望動機を、明確に「語れる」。嘘はよくないですが、嘘にならない範囲で、幾つもの体験を共通化していくプロセス。



またそんな感じで長々と書いてしまいました。作業に戻ります。


面接とか採用とかスチュワードとか(10:35)

とりあえず面接と採用などについて整理しています。現代にも似通った部分があるので面白いですね。昔書いたものの書き直しが多いですが、資料が増えているので書きやすく、事例を多く出せるのでわかりやすくなっています。



面白いのが、同じ資料を見ても、過去と着眼点が違うことです。『ミセス・ビートンの家政読本』を実に五年ぶりぐらいに掘り起こしていますが、過去に見落としていた言葉が響きます。やっぱりベストセラーになるのには理由がありますね。見ただけでは単なる情報ですが、それを自分の中の引き出しと結びつけて、関連させて、価値に変えていく。



これが自分にとっては、資料本と言うジャンルにおける「創作」だと思います。あくまでも仮説やひとつの視点に過ぎませんので、鵜呑みにされると困ることもありますが、「どの角度で光を当てるか」かが、資料本作成の楽しみのすべでではないかと。



一方、ハウススチュワードはどのように話を膨らませるかの方向性は決まっていますが、マニアックすぎるのでどうしようか考え中です。資料の整理に高度の抽象化が必要で、時間がそこそこかかりそうです。情報を集めるだけ集めて、並べて、わかりやすくする為のストーリーを作るというのでしょうか、これを個人的には「資料を蒸留する」と言っています。



執事の解説から切り離した「領地運営・管理」観点で書くつもりですが、そのレベルで手記を残した人は手元の資料に見当たりません。わかる範囲で書きつつ、ここは後学の余地を残しておく感じですね。



ハウスキーパーが終わらないので困っていますが。


面接は終了、紹介状のところで(23:00)

午後一でデザイナーの方に概要をお伝えし、その後、資料を作っていました。また、テキストの進捗としては結局資料が多く書きやすい採用の辺りを中心に掘り下げていました。紹介状で悲惨な目に遭ったJean Rennie(ニュースサイトで失敗だらけのメイドの手記は辛い……を取り上げていただき、ドジっ娘メイドと紹介されましたが、人生レベルでのドジっ娘には「何で学習しないのか」と腹が立ちます)のエピソードを翻訳すれば、完了です。



紹介状を悪く書かれてしまい、書き直しを要求したと言うエピソードの持ち主です。女主人の側用人的な使用人を敵に回した結果なのですが、彼女が生きた1930年代においても紹介状は効力を発揮していたと言えるエピソードです。



他にも、当時やり取りされた紹介状を幾つか翻訳してご紹介できそうです。内容としては離職理由を聞いているのが印象的ですね。今の面接でも、「何で辞めたか」は突っ込まれます。ミセス・ビートンもその点、前職の主人に会えるならば会えとも言ってます。



そこそこ『ヴィクトリアン・サーヴァント』色は抜けてきましたが、やはり基本中の基本書だけあって、完全な「離」は難しいですね。



個人的には、フットマンの最終面接を公爵夫妻が行う光景が好きです。そういうのが好きなマニアックな方は是非、ご期待下さい。



来週も仕様調整で人に会う約束がありますが、だいぶ過熱しすぎたエンジンが冷えてきて、徐々に走り出しています。スケジュール見たらやばいじゃん、的な流れですよ?