ヴィクトリア朝と屋敷とメイドさん

家事使用人研究者の久我真樹のブログです。主に英国ヴィクトリア朝の屋敷と、そこで働くメイドや執事などを紹介します。

『Of Carriages and Kings』

使用人の生活関連の資料を読んでいると、頻出の人物がいるのに気づきます。ひとりは、詩人と結婚したメイドさんのハナ・カルウィック。彼女の名前を出さないヴィクトリア朝使用人の歴史家は存在しません。



もうひとりは、★★★★★資料『THE RISE AND FALL OF THE VICTORIAN SERVANT』や、同じく★★★★★資料『NOT IN FRONT OF SERNVANTS』、そして自分の好きな歴史研究家・Pamela Sambrook女史の著作物といった、ほとんどの本に出てくるフットマン(従僕)のフレデリック・ゴースト(Frederic Gorst)。



両者に共通するのは、「手記」を残したことです。



ハナ・カルウィックの資料は、夏の同人誌新刊で紹介しましたが(70万円で買えません。買える値段のも出ていますが、考慮中)、「フレデリックの手記って、普通に売っていないのかな?」ということで、捜していました。



このフレデリック、侯爵→公爵だったか忘れましたが、いずれにせよ当代随一の金持ち貴族「たち」に仕えています。順番は忘れましたが、1900年ぐらいで、フットマンという下級使用人ながら、年収はなんと100ポンド。彼の視点で描かれた使用人ホールの描写は鮮やかで華やかです。使用人の生活と、仕えている貴族の暮らしを見られるならば、他の「研究本」よりも、よほど説得力があります。



そこで見つけたのが、この本です。







"Of Carriages and Kings"(AMAZON.CO.UK)




刊行は1956年、今から約50年前の本で、自分が所持している本では最古のものになるかもしれません。値段は10ポンドしなかったと思います。同人誌のメイドさん資料本を作るという作業ながら、「当時の人による手記」に基づいて研究するところにまで至り、オーソドックスな学問のスタイルを貫いています。常に歴史に残った大きな声がすべてとも限りませんが、この道は果てしなく、奥深いです。