ヴィクトリア朝と屋敷とメイドさん

家事使用人研究者の久我真樹のブログです。主に英国ヴィクトリア朝の屋敷と、そこで働くメイドや執事などを紹介します。

小説版『エマ』

小説 エマ (1) (ファミ通文庫)
二度ほど、読み直しました。



第一に思うのは、「ヴィクトリア朝の再現に強くこだわる」ことが、「本末転倒」ではないか、ということです。過去に『梟の城』を原作とした映画がありましたが、「オリンピック級の身体能力を持つ忍者が、駆使する忍術」のリアリティを表現することに重きを置き過ぎ、まったくつまらない作品になっていました。アニメ版の『エマ』が、同じ轍を踏まないことを願います。



小説『エマ』においても、どうしてここまでヴィクトリア朝が再現されなければならなかったのかわかりませんし、だから自分には『エマ』本来の持ち味が出ていなかったように思えたのでしょう。



第二に、久我の勝手な推測に過ぎませんが、「原作をほとんどいじった様子が無い(推測:制約が強かった)」「ヴィクトリア朝の忠実な再現にプレッシャーがあった(推測:間違わないようにする気持ちが先行)」「かなり編集にも相談していた(推測:船頭多くして)」などなど、創作に望ましい条件があるように思えず、筆者の方は職業的な描写に徹したように思えます。



文章から「筆者がこの世界を好き」というのを感じなかったのも、描写が研ぎ澄まされすぎていたのも、「『エマ』を表現する演奏家」にしてしまったせいなのかなと。



唯一、筆者の方のお茶目さ(?)が出ていたのは、原作では「ロバート」としか名前の無かった(多分)人の姓を、「ハルフォード」にしたことでしょうか。ロバート・ハルフォード、言い換えれば「ロブ・ハルフォード」。イギリスを代表するバンド、『ジューダス・プリースト』のボーカルです。



もしかしたらまだネタが仕込んであるのかもしれません。それとも、あの人名を決めたのは森薫先生なのでしょうか? ブリティッシュ・ロック、小説『エマ』の中に生きています、こっそりと。