ヴィクトリア朝と屋敷とメイドさん

家事使用人研究者の久我真樹のブログです。主に英国ヴィクトリア朝の屋敷と、そこで働くメイドや執事などを紹介します。

使用人の世界

ヴィクトリア朝や文学について自分より詳しい人は大勢いるかと思いますが、メイドや使用人というジャンルは、日本の学者か研究者にとってほとんど未踏の領域です。和書の少なさがそれを物語っています。



日本においてこうした研究のほとんどは文学や女性史、社会史との関わりでしか語られませんが、そうした「別の分野」のテキストで読むのではなく、「使用人という文化/生活風景」として読むことが大切だと思います。



なぜなら、それ専門で書かれていない本は情報を読み取る際に、「こちらから、使用人のテキストを読み取ろうとしなければならない」ことがあったり、「迂遠」だからです。さらに、その筆者に使用人についての適切な理解が無ければ、あまり面白い本にはなりません。



「餅は餅屋」

「使用人の知識は、専門の研究家に」



和書への依存を捨てただけで、世界は限りなく広がりました。イギリスでは、本当に驚くほどの「使用人だけで成立する」研究書が発行されています。



どんな生き方があったのか、どんな言葉が残っているのか、生きていた人間、残っている生活の道具から描き出される、世界が素直に存在していることは、誰か他の研究者の言葉の引用で成り立つ研究書と、一線を画しています。



そこにあるのは、「意見/思想/観念」ではなく、生活の姿です。



人間への興味が、まずあるのです。



誰かの言葉で語るのではなく、そうした世界に関心を持った自分の姿を作品に反映しようとしている森薫先生や『エマ ヴィクトリアンガイド』の村上リコさんを、自分は尊敬していますし、自分自身もそうありたいとは思っています。