ヴィクトリア朝と屋敷とメイドさん

家事使用人研究者の久我真樹のブログです。主に英国ヴィクトリア朝の屋敷と、そこで働くメイドや執事などを紹介します。

「使用人の歴史」の書き直し中

『英国メイドの世界』の最初の方の章、「使用人の歴史」を見直しています。同人誌ということと、「人がやっていることはしたくない」こともあったので、この章は『エマ ヴィクトリアンガイド』『図解メイド』『ヴィクトリアン・サーヴァント』を読んでね、というトーンで、極端に深く掘り下げませんでした。



そもそも、自分が何かを特別に掘り下げるだけの仮説や情報を持っていなかったからです。



現時点では条件が幾つかクリアされました。



過去に買った資料(和書)を読み直していると、かなり載っているんですね。新しい英書も増えています。何よりも重要なのは、18世紀の資料です。言葉の魔力というか、ヴィクトリア朝に最盛期(女性の労働人口で第1位)を迎えたからといって、その時代より前に人口が少なかったわけでもないですし、その後の時代がヴィクトリア朝より少なかったわけではないのです。(国勢調査資料が残っていませんので推計値を専門家が算出するレベルですが)



正確な数字と年代を忘れましたが、20世紀に入って女性使用人の「総数」は国勢調査上、ヴィクトリア朝を超える記録があったはずです。ただ選択できる仕事が増えていき、相対的に労働人口に占める比率が下がっていった、というところが事実です。また、第一次世界大戦後は経済不況もあり、使用人の仕事を選んだ人が多かったことも忘れてはなりません。本当に産業が壊滅的な打撃を受けるのは第二次世界大戦によるものです。



「使用人の歴史」の終わりを、同人誌としてまとめるために資料を集めてもいますが(終わりに関しては書籍化でもクオリティ的に高いものは担保できそうにないので今時点では保留)、1920年代に出版された本によると「使用人の仕事は供給に対して、需要が大きく上回った職種」ともいわれているのが印象的です。



そんな感じではありますが、まずは19世紀へと至る道筋をもう少し明確にしたいところです。しかし、それを行うには簡単にでも英国貴族の歴史を扱わなければならず、本当にざっくりでのイギリス史を振り返っています。そもそも英書はイギリスの歴史を知っているイギリス人に書かれています。自分の同人誌もそれを前提にしていましたが、今回は前提にせず、よりライトで概要だけでも伝わりやすい形に仕上げたいのです。



「今の日本の会社組織って、どの時代に最も栄えて、どの時期から始まったの?」「社長とか部長とか課長とか係長とかっていつからあったの?」的な話と同じだと思うんですね。なので、難しいです。



何が言いたかったかといえば、当時読んだはずのものでも、重要性が理解できなかったり、視点が無かったりすることで結構取りこぼしが多いこと、です。最高の資料は存在せず、ただ自分がどれだけの仮説と視点を持って資料を読み込めるのかの方が大きいと思います。他の資料で光を当てられることで、今まで読んだ資料が別の価値を持つことは、よくあることです。



その点では、資料本制作に関しては圧倒的に時間が味方します。忘却という最大の敵もいますが、情報が増えれば増えるほど資料同士が緊密に連携しあい、タペストリのように図柄が見えてくるのです。問題は、自分でその図柄を描くこと、でしょうか。多すぎる資料を要約し、抽出し、まとめ上げるのはすさまじいエネルギーが要りますので。



今時点で過去の自分に向けた質問も多く、その確認作業に追われそうです。



あと、既に購読された皆様、繰り返しですが、冒頭からすべてを真面目に読もうとせず、「好きな職種」をひとつでも読んでみて下さい。