ヴィクトリア朝と屋敷とメイドさん

家事使用人研究者の久我真樹のブログです。主に英国ヴィクトリア朝の屋敷と、そこで働くメイドや執事などを紹介します。

『ヴィクトリアン・サーヴァント―階下の世界』発売

本サイトで何度も取り上げていた、使用人研究の最高の文献の一冊であり、『エマ ヴィクトリアンガイド』の主要参考文献でもある本『THE RISE AND FALL OF THE VICTORIAN SERVANT』(ASIN:0750937173)が、和書で発売されました。ニュースソースは『電脳メイドしづ子20GB』さんの掲示板での、小手鞠さんの記述です。(WEB拍手でも別の方から情報をいただきました。ありがとうございます)



『ヴィクトリアン・サーヴァント―階下の世界』(ASIN:4269820144



同書はヴィクトリア朝使用人の起源(この箇所は『路地裏の大英帝国』で要約して使われる)、メイドさんを雇う側、雇われる側、そして男女使用人の仕事、使用人の社交生活、主人との関係、事件いろいろ、そして二十世紀に入った使用人世界の転換などを扱い、1冊で完成しています。



今までに何度も本を薦めてきましたが、絶対に買うべき、と自信を持って言える本です。



ヴィクトリア朝使用人を好きな人にとって、歴史的な一冊になるのは間違いないですし、イギリス文学の社会背景(クリスティやディケンズ、ハーディ、それに最近扱った『比類なきジーブス』)に興味のある人も、読んでおくと作品の面白さが広がります。



英書の初版は1975年、今からちょうど30年前です。




■英語版目次
Chapter 1 The Origins of Domestic Service
Chapter 2 The Servant-keeping Classes and their Problems
Chapter 3 Getting a Place
Chapter 4 The Daily Round:Female Srevants
Chapter 5 The Daily Round:Male Srevants
Chapter 6 Social Life 'Below Stairs'
Chapter 7 Employer-Servant Relations
Chapter 8 Misdoings and Misdemeanours
Chapter 9 The Winds of Change , 1900-14
Chapter10 The Final Phase

同人誌・メイド資料本ジャンルへの大きな衝撃

インターネットが初めて出現したがごとく、これによって、メイド研究の扉は大きく開かれました。衝撃の度合いでは、個人的にですが、『エマ ヴィクトリアンガイド』(ASIN:4757716435)を凌駕しました。



『エマ ヴィクトリアンガイド』を第一の衝撃とすれば、間違いなく第二の衝撃です。同人誌でメイド資料本を作る時代が、終わりを迎えつつあるのかもしれません。それほど、完成度が高く、これ一冊で完結してしまえる総合書です。



久我の同人活動に与える影響ですが、今のところ、それほど大きくは無いです。元々同書だけに依存しておらず、同書で紹介されている本や参考文献に手を出すことも多かったので。むしろ、足場固めや復習に使っていたので、翻訳は大きなプラスです。



とはいえ、正直に言います。



久我の同人誌を買うならば、まず、この本を買ってください。



それで物足りなければ、久我の同人誌を読んでください、と。



久我の同人誌を今までに買ってくださっている人にも、総合書としてバランスのとれている同書を、強くオススメします。なぜならば、久我が切り捨てた情報や、うっかりミスでの誤解(最近気づいたのはJuniper Hillを、Jupiter Hillと思い込む)・誤訳を知る上でも、重要ではないのかと。今までは、「比較」さえ出来ませんでした。それが可能になった、というのは大きいです。



厳密に本同人誌との差異を言うと、構図としては『エマ ヴィクトリアンガイド』の時と似ています。総合書として完成している分、紙面の都合で、本当に細かいところは割愛されています。例えば、「ランドリーメイド」「スティルルームメイド」「デイリーメイド」については、参考にした資料が異なる分、その情報量では本同人誌が上回っています。



棲み分けはなされていますが、いずれにせよ、本当にこの本を読んでください。ここまで完成度が高い本は、今まで日本に無かったのですから。使用人を知りたいのに、それについての専門書ではなく、ヴィクトリア朝関連書籍(それも一章あればいい方)を読むしかなかった時代が、終わりました。



まだ中身を読んではいないので和書についての言及は後日に譲ります。『エマ』を見ている人にも、ぜひ、知っていただきたいです。如何に『エマ』が「本物」にこだわっているのか、森薫先生と村上リコさんの凄さが伝わることと思います。



今無いものを作りたい、という気持ちで始めていた同人誌制作。その敷居が、より高くなってきました。『エマ ヴィクトリアンガイド』といい、今回の翻訳本といい、同人誌としての底力が試されています。



ヴィクトリアン・サーヴァント―階下の世界

ヴィクトリアン・サーヴァント―階下の世界





過去に書いたもの

英書『THE RISE AND FALL OF THE VICTORIAN SERVANT』の書評

1万円ぐらいで始めるヴィクトリア朝&メイドさん勉強向け資料本


出版社の資料:英宝社:『ヴィクトリアン・サーヴァント―階下の世界』の索引・紹介