ヴィクトリア朝と屋敷とメイドさん

家事使用人研究者の久我真樹のブログです。主に英国ヴィクトリア朝の屋敷と、そこで働くメイドや執事などを紹介します。

英国メイドの手記『Every Other Sunday』読了

ちょっとドライブをかけて、今日「20世紀前半にイギリスでメイドとして働いた女性」の手記を読み終えました。ざっくりと流し読みでしたが、今までのとちょっと違う系統で、戸惑いました。



待望のメイドさんの手記『Every Other Sunday』届く(2007/12/12日記)



貧しさゆえに大学へ進学できなかった頭のいい女の子Jean Rennieが、メイドになる。この限定された環境で彼女は持ち前の機転を発揮し、才能を伸ばし、周囲に認められていくかと思いきや、挫折の連続が物語となっていました。



読んでいて、凹みました。



その点では非常にリアルです。



Jeanはスカラリーメイドとしてキャリアを始め、何度も貴族の屋敷に勤める機会を得ました。一度はジョージ五世が招かれたディナーの手伝いを、一度は自身がコックを勤める屋敷でスウェーデンの王女を賓客として。



しかし、彼女はどうにも周囲からはじき出されます。



素晴らしい屋敷に勤めたかと思いきや、あっさり周囲と喧嘩して辞めてしまう。いい屋敷に勤めたと思ったら、上司が急に変わって厳しい目に遭い、苦しんでしまう。さらに、健康に不安があり、信用を得たと思ったらハードワークでリタイア……



ダンスがうまく、歌もうまく、美しかったのか、よく男性使用人にもてました。さらに、一時期は「ナイトガール」として客相手の商売(ショーパブのようなもの)をしたものの、性格的に真面目なところがあり、男にお金を求める図々しさを持てず、「効率よく稼ぐ」のに失敗します。



コックに戻り、小さな屋敷に勤めたところ、同僚の嫉妬を招き、紹介状ではひどいことを書かれて、使用人登録所に紹介を拒まれ、女主人の元へ怒鳴り込んだり、なんでこんなに周囲からはじき出されるのか、という失敗の連続です。



協調性が無かったのか、「大学にいけたのに」という想いが強すぎたのか、「階下の世界」を腰掛けと考え、その点で無意識に、様々な軋轢を周囲との間に生み出していたと思われます。また、彼女は歌が大好きで、周囲が認める自分の「美声」に誇りを持ち、ある時などは使用人の仕事をしながら、音楽のレッスンにも通います。



心ここにあらず。



「他の世界で活躍したい」

「けれど、使用人として生きなければならない」

「でも、使用人は腰掛けにしたい」



この点で彼女はコックとしてのスキルを完全に伸ばしきれず、また周囲から見て「仲間」とは思えない雰囲気を出してしまうのでしょう。



たとえば、Margaret Powellはメイドの仕事を通じて、自主独立の気概を得ましたし、リスペクトできる対象にも出会いました。たとえばFrederic Gorstは数多くの「洗練された世界」を渡り歩き、「華やかな世界」を伝えてくれました。たとえば、Rosina Harrisonは「生涯を共にする女主人」と出会いました。



しかし、Jean Rennieが使用人の仕事を通じて「読者に伝てくれた」のは、大変な仕事の様子がほとんどです。彼女の大変な仕事、スカラリーメイドの「地獄」に似た環境は十分すぎるほど描かれていて、コックの独裁のひどさも深く理解できました。(人を失敗させる物事の指示の出し方)



そしてその独裁を受けたが故に周囲に甘くしてマネジメントに失敗した姿も、なんとも言えません。その環境で彼女が学び、どのように育ち、克服していったかを知りたかったのですが、そういう「成功物語」ではありませんでした。



学校の勉強は出来たけれど、自分の人生にとって何が必要だったかを考えなかったが故に、周囲に目を閉ざしたが故に、Jeanは「使用人の世界」から弾き出されたのだと思います。本を出版する人たちは何かしら「最終的には成功しました」というのを売りにするはずですが、Jeanは特に大きな何かを得た感じがしません。



ただ、いずれの場合も彼女は「家族を支えなければならない」義務を抱えており、非常に辛い生き方を強いられていました。選択肢が無く、身体を休めるゆとりももてませんでした。しかし、いい環境を得たと思ったら、「自分で捨ててしまう」こともありました。



「就職」→「無職」→「再就職」→「うまくいったり、いかなかったり」と言う繰り返しが、リアルで現代に通じるものがあり、彼女が直面した問題は自分自身の身に起こっても不思議ではないものだと感じました。



この後、「その後、大学に進んだJean」の本を読む予定ですが、この本単体では明らかに「負けている」ので、何か希望を見せて欲しいものです。一応、別の本によると「地方の赤十字組織のマネージャになった」とあったと思うので、社会的な成功は収めたはずなのですが、そうした結末は、この本にありませんでした。



とはいえ、結局のところ、読んでいて凹んだのは、「他人のような気がしない」等身大な姿だからなんでしょうね。Jeanは正直です。自分自身にも彼女のような部分が一部はありますし、失敗で心がつぶれていく様子、コックに否定され、スキルに自信を失っていく様子は、なんとも言えません。



面白かったものの、いろいろな意味で、重たかったです。


Jeanの見た世界

スカラリーメイド、キッチンメイド、コックの仕事。大きな屋敷のクリスマス。紹介状、使用人登録所。王族をゲストに。倫敦の屋敷とカントリーハウス。キッチンスタッフの孤立(使用人ホールで一緒に食事をしない)。自由時間の使い方。