20世紀初頭に生まれたメイドJean Rennieの手記『Every Other Sunday』を再度読み直して、彼女が出会った使用人たちを抽出していますが、読んでいて辛いです。
Jeanは成功したメイドではなく、人間的に正直でありすぎますし、理解できないことも多いのです。
これまで読んできた使用人たちは上を目指す気持ちがあり、また自分の置かれた環境において出会った人たちに関心を持ち、どんな形であれ、その姿を伝えてくれました。
しかし、Jeanの話は以下の要素が欠けています。
・魅力的な同僚のエピソードたち
・仕事に対するプライド
・達成感
ひどい上司や上級使用人に出会うこともありますから、そこでの体験を描くのはわかりますが、それしかないのです。そういう人にしか出会えなければ不運ですが、魅力的な仲間や理解してくれる人に出会ってもいるのに、読者に細かい説明もないまま、「辞めてしまう」のです。
・散々苦労して得た環境を、あっさり放棄して、失敗する
・尊敬できる人たちの好意を無にしている
・仕事以外(歌)への関心が強く、夢を見ている
行動の理由がわかりませんし、学習しないのです。
最初こそ「家庭環境の都合で大学にいけなかった事」がコンプレックスになっているのかと思いましたが、「歌手になれなかった」ことが根幹にあり、「魅力的な歌い手である自分」を夢見すぎている、のです。
・家庭環境がひどい(父が稼がない・自分が稼ぎ手になる必要)
・体が弱い(何度も倒れる・仕事を失う)
これは、事実です。しかし、彼女が成功しなかったのはそれだけではありません。
ある種、自分の中の夢見がちな要素を見るようで辛いのかもとも思えますが、あまりにも周囲に流されすぎて、そのことに無自覚すぎ、自分で出来ることを増やそうとしていません。運が悪いかどうかで言えば、運が悪いと一度目は思いました。
しかし、二度読むと、明らかにJeanの側に「運の悪い方向へ通じる選択肢を選んでいる」責任もあります。
その上、どうも頭が根本的に悪いのか、「何度も男に騙され、ひどい目に遭わされそうになる」のです。この辺りは本当に意味がわからないぐらい、学習しないのです。
残酷な言い方ですが、彼女の場合、苦労には理由があり、自分が原因になって苦難の道を歩んでいるとしか思えないのです。客観的に見るとそうなのでしょうが、あとがきやその後を読む限り、彼女自身がそのことに気づいた様子は、無いのではないでしょうか?
それが、同じキッチンメイド出身のMargaret Powellが有名になり、彼女が有名ではない理由だと思います。こういうのばかり読んでいたら、気持ちがネガティブになります……
キッチンメイドの苦労を知るには格好の本です。しかし、メイドの人生を学ぶ上では、「反面教師」と言わざるを得ない本です。本に描けないような出来事がきっと山ほどあって、それがあればこそ、読者置き去りの決断をしているのだとは思いますが、こんなメイド雇いたくないです。
で、実はまだ読み終わっていないのです。あと8ページが重たい……
「Margaret Powellは使用人の目で見えた世界に少なからず魅力を感じ、自分の見た世界を伝えようとしている」「Jean Rennieは魅力を感じているかわからず、その世界に翻弄された自分しか描いていない」
手記を書いた他の使用人との決定的な差はそこですね。魅力を感じて描くものと、そうでないものとでは、読者に伝わってきます。彼女は「使用人の世界を魅力的だと『思い込んでいる』人々に対して(久我のような)、現実を見せ付ける」存在として、あまりにリアルな姿だから、受け入れにくいのでしょう。
文章が下手なのかもしれませんが、後半は本当、辛いです。
と言うのを書いてから、ようやく最後まで到達しました。最後は公爵家の娘の元で働きましたが、戦争が始まり、またLadyの夫が死んだことでLadyの心理が乱れていき、仕えきれずに、辞職しました。
彼女が「成功」したのは、使用人を辞めてからでした。どのように成功したかは、そのあとがきでわかりません。ちょっと消化不良ですが、比較的脚色されない現実、なのでしょう。