ヴィクトリア朝と屋敷とメイドさん

家事使用人研究者の久我真樹のブログです。主に英国ヴィクトリア朝の屋敷と、そこで働くメイドや執事などを紹介します。

『黒博物館スプリンガルド』とメイドの手記

数日前に、『黒博物館スプリンガルド』の感想で、はてなスターをいただきました。その翌日ぐらい、眠る前に「執事の本読み終わったし、DVDを見るには時間も無いし、何か気軽に読める本無いかなぁ」と本棚を見ていると、買ったまま放置していたメイドの手記を見つけました。



そのメイドは、久我の同人誌やこのブログではおなじみのMargaret Powellです。彼女は手記を出して成功した後、文才を認められた女性で、何冊も本を書いていますが、そのうちの一冊に「母親」について触れた手記があります。



ヴィクトリア朝に生まれたMargaretの母の幼少の頃に「切り裂きジャック」事件が発生し、父親が読み上げる新聞からそのニュースを知ったとのことでした。その直後のテキストに、『黒博物館スプリンガルド』の題材になった、「バネ足ジャック」についての言及があったのです。



マンガの題材として扱われる当時の世界を、自分が読んでいた資料の中に見つけるとは予想外でした。以下、引用します。




『「切り裂きジャック」事件が母を怯えさせた当時、もうひとつ、母を恐怖させた伝説的な存在がいます。それが、'Spring-Heeled Jack'(ばね足ジャック)です。母はばね足ジャックのことを、Jack the Ripperと同年代の人物のように語りました。実際は違います。



'Spring-Heeled Jack'の正体であるWaterford侯爵はジャンプするばねを使った器具で人々を怖がらせましたが、十九世紀初頭に生きた人物です。その後、彼を真似した人々がその名を引き継ぎました。



私の母を恐怖させた'Spring-Heeled Jack'はロンドンの盗賊で、彼はそのジャンプ力で壁や垣根を飛び越えました。警察は彼を捕まえることが出来ませんでした。私の母の中で彼への恐怖は過剰になっていて、高い壁やフェンスに沿って歩く時、いつ襲われるかに怯え、安心したためしがなかったそうです。



『My Mother and I』Margaret Powell P.15〜16より翻訳・引用


全く予想しない題材に出会うと面白いですね。これだから資料収集という「旅」は止められません。



黒博物館 スプリンガルド (モーニング KC)

黒博物館 スプリンガルド (モーニング KC)