はじめに
今年も恒例、これまでの活動を振り返ります。
1年前:2013年の振り返り(2014/01/01)
2年前:2012年の振り返り(2013/01/01)
2013年は年初から自分が所属する組織・チームの立て直しに終始しつつも、「メイドイメージ研究」では一定の同人での発表を行えた年で、危ないバランスながらもそこそこ充実しており、2014年に行うべきことが明確でした。ところが、2014年はその延長で進もうと思ったものの、大きなプロジェクトや組織変更等の外的要因でなかなか安定せず、仕事の火消しに時間を費やしました。さらに、会社員人生で達成したいひとつの目標があり、半年以上、その目標達成に向けて動きました。
意識的に仕事を最優先し、ひとつずつ解決して安定稼働を目指す中で、様々な状況の改善も行われ、かつ半年を経て目標達成できたことも踏まえて、仕事の優先順位を下げる方向で動けるようになりました、というのが現在の状況ではあります。
そうした点で、同人活動で満たされていた部分までも仕事で満たされました。会社業務に費やした時間は、この3年間でいわゆる「1万時間の法則」を満たすぐらいになっていたので、当然、仕事以外のインプットは減り、その分、研究のアウトプットはプアになりました。その状況に焦りもあって、資料を買う頻度が異常に高くなるも、消化できず、家の中がカオスに。本棚の収納限界も超えて、トランクルームを借りるも、今度は必要な本が手元にない事態に。検索性と業務効率を高めるためには、広い空間の確保が必要です。
さらに、風邪を引きやすく、休日もぐったりしていた時間が多くなりました。以前は仕事が忙しくても同人活動を出来たのですが、四十も間近に迫る中で、体力低下が著しくなりました。そこで体力の安定を企図してトレーナーがつくジムに通いましたが、一年に一度は生じる腰痛で離脱を余儀なくされました。かつ、仕事で使う機会が増えた英会話の再開も仕事のピークと被って中座するなど、習い事はほぼ全滅でした。特に、『ダウントン・アビー』シーズン1放送の5月頃は、抱えていた業務上の課題が全方位で過去最大レベルの状況だったので、待ち望んでいたあのドラマをビッグウェーブに乗って楽しむ気力も、実況できる余力も生じませんでした。
とはいえ、2014年は残業時間は大幅に減り、求められる役割の変化と新しいことへの挑戦が増えて、そこにリソースが消費されたので疲れたともいえます。やりがいと達成感は凄まじく大きく、多分、人生でここまで充実できる機会はそうそうない状況です。
とは思うものの、11〜12月に同人活動とコラムを書くために時間を確保し、表現することの楽しさに回帰することで、「2015年もこの状況が続くのでは?」と危機感も強まりました。2013年に振り返った点と状況が変わっていない点で、ここで大きく行動を変える必要があると判断するに至った次第です。
まず、体力。そして出版の実現と、研究の充実を。
ということがありつつも、実は充実していたのではないか、というのが2014年でした。
2014年の出来事
1. ドラマ『名探偵ポワロ』が25年を経て完結
私が英国貴族の屋敷に興味を持った、つまりはこの道に踏み込む入り口となったのは、中学生の頃から見始めたドラマ『名探偵ポワロ』の影響です。そのポワロのドラマが、2014年に完結しました。『名探偵ポワロ』本放送が1989年で、25年を経過しました。ひとりの主演がドラマで「ポワロ」作品を演じ切るのは世界初の快挙です。
このポワロの感想は別の機会に書きますが、最終話『カーテン』を見終えた時、万感の思いがありました。そして、この『名探偵ポワロ』の最終シーズンはAmazon UKでDVDを購入しました。NHKの放送でドラマを見た中学生だった自分が、いろいろとあって英語DVDを見るようになったというのも、感慨深いことでした。
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2. 『ダウントン・アビー』のシーズン1と2のNHK総合・地上波での放送
『Downton Abbey』(ダウントン・アビー)は「屋敷と使用人」の史上最高レベルの映像作品(2010/12/02)と、2010年の英国での放送開始から、相当、この作品には期待していました。
ただ、時間が経過しても、日本での放送が有料放送に限定されていたり、DVD化がされていなかったりと、同じ作品を楽しめる環境にある人が少なく、話題に出来ませんでした。しかし、2014年にNHKが地上波で放送を開始することとなり、期待が高まりました。
思えば、前述の『名探偵ポワロ』や『シャーロック・ホームズの冒険』、『高慢と偏見』、(アメリカではありますが)『大草原の小さな家』『ドクタークイン』など、100年以上前の時代を扱ったコスチューム・ドラマを、NHKは地上波で放送していました。初期のクラシックなメイド愛好者には、こうしたドラマを好む方が、或いはこうしたドラマの世界を好きだからこそ英国メイドに関心を広げた、との側面もあったことでしょう。
『ダウントン・アビー』放送はそうした「地上波の英米クラシックドラマ」の黄金時代を再現し、あの時代に興味を持つ人が増えるきっかけになるのではないかと、期待しました。ただ、実際のところ、今時点では「日曜日の午後11時放送」と、翌日に会社がある人間には厳しい放送時間、登場人物の多さ、そして見る側にコンテクストの理解(英国の歴史や上流階級・屋敷のルール)を求める点で、それほど私の身近な周囲の人々(=メイドに興味が無い)にも、まだ届いていない印象です。
とはいえ、Twitterで呟くことで、少しずつ広げていけそうな実感もありますので、ここは来年も楽しんでみたいと思います。
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ダウントン・アビー 華麗なる英国貴族の館:シーズン1・2公式ガイド
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3. 『英国メイドの世界』4周年&増刷決定(第六刷)
『英国メイドの世界』は絶版になることもなく、『英国メイドの世界』刊行から1周年を振り返る、『英国メイドの世界』から2周年・振り返り途中、そして『英国メイドの世界』講談社から刊行して4周年&12月に重版・第六刷!に記した時を経て、4年間を無事に迎えることが出来ました。
英国メイド関連本が出た時に書店で一緒に並べて売ってもらえるポジションとしてウェブのように認識されていないように思えるのは残念ですが、著者が努力し続けることで自分の本の寿命を延ばし、埋没することなく生き続けた結果として、新しい読者の方々とも出会う機会を得るという結果を出せています。これは、当初思い描いた通りにできたことです。
4. 『シャーリー』が11年ぶりの新刊(2巻)&シャッツキステのイベントへ協力
森薫さんの新刊が『シャーリー』2巻である、ということで震撼しました。元々、『シャーリー』の「続編」は何度も雑誌で発表されており、都度、チェックはしていました。
メイドの神様が『シャーリー』を連れて帰ってきた!(2006/10/28)
森薫さんの『シャーリー』新作が『ハルタ』2014-MAYに掲載 メイドの神様が再降臨(2014/05/17)
それが一定のボリュームとなり、発表され、刊行されることは、非常に嬉しい出来事でした。その辺りの感想は『シャーリー』2巻・11年ぶりの新刊発売と、そこから思う自分のメイド研究活動(2014/09/13)に記しました。メイドスキーの最先端を突っ走っていた森薫さんが今もまだメイドを描き続けているその姿は「ライフワーク」であり、そこで表現される世界の広がりと深まりは、同じ時代にメイドを好きである自分にとって、刺激的でした。
ただ、そこに嬉しい出来事も重なりました。『英国メイドの世界』出版イベントを行った私設図書館「シャッツキステ」が、『シャーリー』2巻の刊行を記念して原画展を行うこと、その原画展に英国メイドにまつわる資料を「本棚」として提供して欲しいとの提案をいただいたのです。
シャッツキステの『シャーリー』2巻発売記念・森薫先生原画展に資料展示協力(2014/09/01)
間接的にせよ、森薫さんと場を同じく出来たのは、とても幸運なことでした。
4. ワンダーパーラーカフェのメイド部屋訪問&コラボ同人誌『屋根裏の少女たち』刊行
前述のように仕事が慌ただしい状況にあり、それが予見できていたがために、2014年夏コミには申し込みませんでした。新刊を作れる時間も、作りたい意欲もなかったためです。しかし、今までサークルを手伝ってくれていた友人が夏コミに参加し、会場でその手伝いをすることで熱気にふれ、「自分も創作をしたい」と思いました。
そんな折に、池袋の「ワンダーパーラーカフェ」からお声がけいただき、店長の鳥居さんが再現されようとした「メイド部屋」に接して、何か一緒に作りたいと思いました。
ワンダーパーラーによる「メイド部屋」再現の試みと訪問(2014年9月)
そして生まれたのが、冬コミ新刊『屋根裏の少女たち Behind the green baize door』(ワンダーパーラーカフェとのコラボ)告知でした。自身としては初の試みでしたが、創作を久しぶりに行いました。元々、創作をするために研究を始めたので、原点回帰にの創作に時間を使えたことで、随分と気持ちがすっきりしました。
5. 『ミステリマガジン』2015年2月号「ダウントン・アビー」特集に原稿寄稿・2年ぶり
そうして、同人活動に邁進している途中に、『ミステリマガジン』より「ダウントン・アビー」の特集を企画しており、使用人の解説記事の原稿依頼がありました。コミケの原稿で慌ただしい状況ではありましたが、とても面白い話だったので、すぐに引き受けて、原稿に取り組みました。
ミステリマガジン』2015年2月号「ダウントン・アビー特集」に寄稿しました
『ミステリマガジン』への寄稿は2度目で、前回は『ハヤカワミステリマガジン』2012年12月号にコラム「ゴシック小説の家事使用人からメイド喫茶へ」を寄稿しました。
2014年に出来ていないこと
2013年に記したことと同じです。
・近代ヨーロッパにおける女性史の中での家事労働の研究
・現代社会における家事労働者の境遇(たとえば家事労働者に関する国際労働基準とILOの活動)
・『監獄の誕生 監視と処罰』からの家事使用人の考察
・『シャドウ・ワーク―生活のあり方を問う』からの派生
・家事労働に伴う偏見の形成について
・現代中国における家事労働者のあり方
・近代フランスの家事使用人の状況
かつ、「日本のメイドイメージ」の集大成となる本の刊行が出来ていません。これは、2015年の最優先課題です。
2015年のロードマップ
2015年の目標は、理想を実現するための手段を書くことにします。あまりに現実的で、目標と言えるか分かりませんが。
1.体力回復・増強
まず体力をつけて、一日の時間を有効活用できるようにします。仕事の残業時間はベンチャー企業に勤めた頃に比べると遥かに少ないものの、仕事で求められるプレッシャーの増大もあってか、土日にぐったりすることも増えました。
そこで、大学まで続けていた自転車に乗る趣味を再開しようと思います。といっても、普通に自転車に乗るだけでロードバイク的なものではありません。去年の夏に軽井沢で20年ぶりに自転車に乗って気持ちよかったことも影響しています。
2.研究環境の物理的構築
とにかく、自室に本が多くなりすぎました。そこでトランクルームを借りたものの、今度は本が散逸し、不意に必要となる情報を引き出すのに時間がかかる環境に。今時点でも積んでいる本が増えたので、一度、すべての所持する本が本棚に格納できる環境を確保することにしました。
3.2014年の目標の実現
・興味が無い人が読んで理解できる「メイドイメージ」の集大成を作る
・現代の家事労働者との接点
4.世界を広げる
これは個人的なことですが、もう少し、今年は外に世界を広げます。この前、久しぶりに自分と同じ領域に強い興味を持つ人に出会い、会話をする楽しさを再確認したからです。そうした人々がいる場所へ、自分から出て行かなければ、と。ジェーン・オースティンの話を久しぶりにしたり、作品『モーリス』を口に出したりとしましたが、自分の周囲にはほとんどそういう会話を出来る人がいません。思えば、自分が接してきた作品群の感想を話し合える相手は、貴重です。オタク同士の会話が気持ちいい理由は分かりますし、そういうコミュニティを形成したいところです。
興味を持って作品・対象領域にはまり、幅を広げて時間を費やせば費やすほど、方向によっては、誰とも話せなくなることは面白い事象です。だからこそ、ほんのわずかでも共通点・重なり合って話し合える対象を持てていると、そのこと自体が嬉しく思えるのでしょう。
深めれば深めるほどに「誰とも話せなくなる」という描写は、『3月のライオン』での「全力を出して殴り合える」的な棋士同士の関係性に重なるものがあるかもしれません。深めれば深めるほど理解し合いたくないことに気がつきやすくなってしまうところもあるとは思いますが。
終わりに
まず、アウトプットを行えるための「自分自身の環境を整える」、そのことがすべてです。
本年も、よろしくお願いいたします。