サラ・ウォーターズの『荊の城』を読み始めました。ヴィクトリア朝の下層社会で窃盗・盗品売買を稼業とする人々のところで育てられた少女が主人公です。言葉遣いも乱暴、育ちも良くありません。そんな彼女が同じく、人を騙して生きていく『紳士』に持ちかけられて、あるお屋敷の侍女になり、お嬢様に仕える、というのが冒頭部分での流れです。
少女スーザンの一人称で描かれ、彼女の価値観で物を見るので、日の当たらない稼業の彼女がメイドや使用人をどう見ているか、彼らの衣服をどう思っているのかなど、かなり珍しい視点です。侍女として働くので「侍女の仕事を叩き込まれる」シーンや、実際に侍女となって屋敷に上がり、上級使用人として生活をする風景は『侍女』にも似て、或いはそれ以上に、面白いかもしれません。『侍女』は使用人の視点でしたが、彼女は「部外者」であり、使用人を軽蔑しているような人間です。その彼女が「人に仕える『役目』を演じることで、どう変わっていくのか、楽しみです。
人間はその役割に、物の考え方を縛られてしまう傾向にありますので……エドワード朝の屋敷での暮らしを現代に再現したドキュメンタリー、『MANOR HOUSE』でもその辺りの傾向が見られました。
サラ・ウォーターズの『荊の城』は文章が巧い・読みやすい(翻訳が巧い?)のであっさりと進んでいけますし、いろいろな情報が詰め込まれていて面白いです。メイドさんが好きな人、ヴィクトリア朝が好きな人は十二分に楽しめるのではないかと。前作ほどには、いまのところ「おどろおどろしい雰囲気」はありません。
『荊の城』感想続き
『VICTORIAN AND EDWARDIAN COUNTRY-HOUSE LIFE』
久々に買いました。『VICTORIAN AND EDWARDIAN COUNTRY-HOUSE LIFE』という、この2つの時代のカントリーハウスでの暮らしを撮影した写真集です。だいたい1ページに1枚当時の写真があり、暮らしや髪型、衣装は参考になるのではないかと。当時の写真を収蔵した本はいろいろとありますが、かなりの本が「文章主体」です。この本はその写真のキャプションぐらいしかないので、「眺める」楽しさがあります。