ヴィクトリア朝と屋敷とメイドさん

家事使用人研究者の久我真樹のブログです。主に英国ヴィクトリア朝の屋敷と、そこで働くメイドや執事などを紹介します。

「個人のコレクション」から「公開する博物館」へ

出版準備はいくつかの作業に分かれて、並行して進んでいます。


ゼロからの書き起こし

もっとも自分の作業分量が多いのはこの部分です。以前調べ切れなかったことや、20世紀の使用人事情を正確性高く理解するため、貴族の衰退に関する資料や、労働者階級の女性が選べた他の仕事や労働条件にも広げています。



ここの部分は来年以降の同人活動でも調べたい領域でもあるので、そのための足場作りも兼ねています。これまであまり読んでこなかったジャンルの資料にも広げているので、そこそこ時間はかかりますが、「使用人」「屋敷」という元々の軸があるので、他の部分をその角度で照らせるので、理解しやすくなっています。


基準統一

今回、原稿を書き足していて、好きなように書いてしまったので原稿用紙2000枚相当に膨れ上がってしまいました。当然、すべてを掲載することはできませんし、原稿としてのクオリティ、読みやすさの面では優れていません。



また、自分が同人活動を通じて長く身に着けてきた視点も、商業出版では適していないものも含まれています。そこで、校正のプロセスで相互の視点を揃えるべく、ひとつの職種を軸に担当編集の方が気になる部分を指摘していただきました。



分類としては、次のようなものです。



1:テクニカルな問題点(言い回しや言葉の選び方)

2:個人的観点(主観・疑問・答えの出し切れものを曖昧なまま掲載)

3:伝わりにくさ(重複や、要約しようとして失敗)

4:読者不在(資料そのものへの感想や、研究の共有が強い)



他の同人から出版される方のプロセスは分かりませんが、こうした部分があるのも時間のかかる要因ではないかと。今は、この部分の認識を揃えることで、アウトプットの質を上げるように動いています。


デザイン

一旦、様々なコンテンツのパターンを洗い出し、個々に最小単位での完成形を思い描けるように、調整をお願いしています。メインの原稿以外の、オススメ書籍や用語集などのコンテンツも、これにあわせて原稿量やバランスを調整していく感じです。



また、どの図版をどこに入れてみたいかの希望も出すことになっています。


「個人のコレクション」から「公開する博物館」へ

今回のやり取りを通じて思ったのが、同人版でやっていたのは「個人のコレクション」なのではないかということです。各地から集めた知識を網羅する、そのレベル自体は今も誇れるものですが、個人の部屋の棚に好きに突っ込んでいたのではないかと。


そのコレクションを見た方にとっては、同じ種類の物が別の場所に並んでいたり、通路が見えなくなっていたり、迷子になってしまったりしたのかもしれません。時間的な制約と個人の限界もあって、「コレクションの共有」で終わってしまったかもしれない、というのが『英国メイドの世界』同人版の反省点です。(適切な目次・索引も作れませんでした)



その意味では、「コレクションがすごい」と驚かせることはできても、その情報がどれだけ使えて、どれだけ役に立ったか、何を残せたのかが弱く、「まだ読破できません」との感想をいただく結果なのだと思います。



商業版はその是正を目指します。



同人版で行った個人の膨大なコレクションを、博物館として公開するために分類を行い、似たものを省き、整理して道筋をクリアにしていくプロセスに似ています。今回の校正のやり取りを通じて、その思いが強くなりました。



棚が見えやすくなり、ノイズになるかもしれない収蔵品は奥にしまう。読者がどこにいるのかを理解しやすく、何が欲しいのかも、そして「何が手元に残ったのか」も記憶に残りやすい、そうした環境を担当編集の方と一緒に作れるのではないか、そんなふうに感じています。



今回は自分にとっても成長の機会だと思います。今もなお、「コレクション」自体は続けていますから、今回の視点、「何が伝わりやすいのか」、そのノウハウや視点を自分に取り込むことで、より読者の方に伝わりやすいものを作れるようになれる、そんなふうに考えています。そうすれば、これ以降の「テキストを書く」精度もあがります。



指摘を受けているいくつかは、「自分ではそれが正しい」と思ってやっているものもありました。そういう「自分が正しいと思って、結果として伝わっていないもの」を洗い出す時期が今です。



大切なのは、テーマが伝わることです。自分の言葉がノイズとなって、本当に伝えたいことが伝わらないのは問題です。最高のコンテンツを目指すためならば、何でもやります。



良い方に出会えました。



というのを今回の同人誌にも追記したかったですね……この視点に出会ったのが今週、この作業を始めてからなので。メイドの世界における博物館となれるよう、インフラとなれるよう、引き続き、がんばります。