ヴィクトリア朝と屋敷とメイドさん

家事使用人研究者の久我真樹のブログです。主に英国ヴィクトリア朝の屋敷と、そこで働くメイドや執事などを紹介します。

『Victorian Farm』と『Edwardian Farm』の感想を更新

購入したままでまとめていなかった上記番組の感想を更新しました。ヴィクトリア朝の農場の暮らしを体験する番組、『ヴィクトリアン・ファーム』はNHKでも放送されましたが、続編『エドワーディアン・ファーム』が作られていたので、こちらも合わせて。



『Victorian Farm』感想

『Edwardian Farm』感想



ちょっと感想にも書きましたが、仕事を再現する『英国ヴィクトリア朝のキッチン』の系譜から、次第に『THE 1900 HOUSE』や『MANOR HOUSE』(マナーハウス)といった視聴者参加型が2000年代に増えていき、そして専門性の高い知識を備えた人たちが生産まで含めて自給自足的に当時の暮らしを体験するのが『Victorian Farm』と『Edwardian Farm』なのかなと。



上流階級の派手な衣装劇だけではなく、こうした部分での注目が集まっているのも、英国のクラシカルブームの多様性が垣間見えるようです。


NHK朝の連続ドラマ『おひさま』と女学生と女中奉公について

何かこう、気が付いたらNHKの朝の連ドラ『おひさま』が「エス」(女学校における「姉」と「妹」のsister)的な描写を行っていて、驚いてる昨今です。明治から戦前のお嬢様事情(=女中事情)を学んでいるので、その辺の資料を少し紹介します。



「どうして女中が必要なの?」と思われる方には、NHK朝の連続ドラマ『おひさま』と昭和の家事をオススメしています。日本家屋での家事は大変な作業でした。


女学校に行けるのは少数

戦前の教育制度がかなり複雑で日本の学校制度の変遷:wikipediaにまとまっていますが、『おひさま』の時代となる昭和初期にあって、女学生となるにはかなり経済的に裕福でかつ学力も必要とされました。



初等教育尋常小学校(小学校尋常科)にて行われていましたが、中等教育を受ける道は今の「中学校」のような道筋が多岐に及びました。女性の場合は高等小学校(小学校高等科)、そして高等女学校などがありました。全校での校数も限られ、進学率も低く、この点では『おひさま』の構図が分かりやすいかもしれません。



主役・須藤陽子は父が工場長をしており、中流階級レベルと思われます。この経済力ならば家に女中はいると思いますが、兄の春樹と茂樹は共に高校へ、そして陽子も進学しています。同級生の筒井育子は本屋さん、相馬真知子は資産家と、ある程度の経済力を持つ層として構成されています。


女中奉公は教育機関としての役割も

一方、小学校時代の友人・田中ユキは親の都合で女中奉公に出されました。女性に教育は必要がないとの戦前までの価値観や、家庭の経済的事情も関連しました。子供に高い教育を受けさせるには「学費」だけではなく、「教育を受けている時間を支える経済力」が必要でした。早く勤めに出せば生活費も浮きました。



日本の場合は女中奉公の「嫁入り修業」的な側面が強く残りました。たとえば田中ユキのような少女が学校に通いながら家事労働をしたり、上記で言えば高等小学校まで教育を受けた人が女中になる率が、同じ時期の女工より高かったり、さらには志望動機が「経済的事情」よりも「修行」の方が高いなど、日本的な特徴を持ちました。



英国ではメイドになることは学問的な教育の機会の喪失となりましたが、日本では少数とはいえ、学校への通学や夜学への支援なども見られました。「修行」であるが故に、雇用主には「教育」することが求められたからです。



このような教育的側面は江戸時代にも成立し、武家や商家の女性も奉公に出ていました。しかし、こうした経済的に裕福な人々は明治時代以降に教育環境が整っていくと、前述したような女学校などの教育機関に学びの機会を見出し、奉公の世界から身を引いていきます。


女学校出身者と女中奉公

日本的な奉公で興味深いのは華族、特に「旧大名家」の家政です。明治時代になって大名家は領地を失いましたが、旧領地との繋がりは残り続け、旧家臣団は旧大名家の家政運営に参画しました。家の切り盛りを行う家令や、その下につく家従、家扶などは旧家臣の一族で構成されることもありましたし、女中も例外ではありませんでした。



私が読んだ事例では、前田侯爵家には地元・加賀の女学校を出た女性が、「お付き」(身辺の世話をする侍女やヴァレットのような役目)として奉公に出てきています。縁故採用も強く、代々仕えるといった使用人イメージは、このような富裕な階級にあって成立するものでしょう。



この辺り、墨東公安委員会様のサイトで女中類従の一連のテキストが紹介されています。


女学生メディアの時代

最後に、当時の女学生はある意味、目立つ存在でした。戦前の女性が洋服を着る機会は非常に少ない中、昭和前期の女学生はセーラー服を着用して通学をしました。また、少女向けの雑誌が数多く刊行されており、その中には冒頭で取り上げた「エス」的な要素を織り込んだ小説やイラストも掲載されていました。



この領域も奥深く、簡単に述べるに留めますが、今でいうところの「学生」とは随分と違いつつも、似たところもあって、調べていくと面白いです。



明治のお嬢さま (角川選書)

明治のお嬢さま (角川選書)

女学生手帖―大正・昭和乙女らいふ (らんぷの本)

女学生手帖―大正・昭和乙女らいふ (らんぷの本)

女学校と女学生―教養・たしなみ・モダン文化 (中公新書)

女学校と女学生―教養・たしなみ・モダン文化 (中公新書)


村上リコさん初単著・『図説 英国メイドの日常』刊行情報

図説 英国メイドの日常 (ふくろうの本/世界の文化)

図説 英国メイドの日常 (ふくろうの本/世界の文化)





以前言及した村上リコさんの初の単著・新刊情報の詳細が、ブログに出ていました(『図説 英国メイドの日常』情報更新)。2011/04/19発売予定とのことで、刊行、おめでとうございます!



初見で『英国メイドの世界』とのタイトルの類似に驚いたものの、「英国メイド」というフレーズが「ヴィクトリア朝」ぐらいの意味合いとして、世の中で広まっていくといいなぁと思います。




【目次】
序章 メイドの素顔
第1章 メイドの居場所
第2章 メイドの旅立ち
第3章 メイドの仕事
第4章 メイドと奥様
第5章 メイドと同僚
第6章 メイドの制服
第7章 メイドの財布
第8章 メイドの遊び
第9章 メイドの恋人
第10章 メイドの未来


目次を拝見したところ、自分がとても読みたい本です。300点を超えるという豊富な図版で、かつ内容も『英国メイドの世界』で読者の方からいただいていた「図版」系のリクエストが解消されるものではないかと思います。



『図説 英国メイドの日常』はメイド個人を軸に、彼女たちの目に映る日常・関係性・生き方を軸にしているようで、メイドに特化した内容です。私の本とは違って、内容とタイトルが一致しています(笑)



一方、『英国メイドの世界』は屋敷の仕事を軸に、そこで働くメイドを代表とする女性使用人と、執事やガーデナーといった男性使用人、そしてその職場から見える屋敷の暮らしを照らし出す設計です。その点で被りが少なく、また補い合っていく本に思えます。



英国メイドの世界

英国メイドの世界





『英国メイドの世界』の目次



この領域の照らし方が増えていくことで、「英国メイド」コンテンツが、より盛り上がっていくことを願っています。



感想は、入手後に書きます。


『348人の女工さんに仕事の話を聞いてみました』が描き出す「個人の言葉」と英国メイドとの共通性

ふらっとTwitterを見ていたら、嘘を嘘と見抜く方法というエントリがあり、興味があって読んでみたところ、そのブログ主の方が出版する本に興味を持ち、予約しました。本の売り方自体も非常に面白く実験的で、今後も注目します。(売り方の説明は難しいので、是非、ブログを)



348人の女工さんに仕事の話を聞いてみました

348人の女工さんに仕事の話を聞いてみました




女工の生の言葉から「実際の姿」を知る

本は大正時代の「女工」(女性の工場労働者)への聞き取り調査を刊行するもので、AMAZONで予約が始まっています。女工というと「女工哀史」の言葉が強くありますが、こちらの本では警察による聞き取り調査で、女工の人たちの「哀史」という一言では伝えきれない、「生の声」を伝えるものです。一部の専門研究者や詳しい人には届いている情報かもしれませんが、このような形で光が当たるのは興味深いことです。




1.100年以上発掘されなかった題材です

2.女工さんの素直な意見が楽しめます

3.現在の社会通念がいかに曖昧か理解できます



おまけとして配布する電子書籍は、栃木と福井の警察が、大正10年前後に女工さんへ実施したインタビューをまとめたものです。



女工さんは明るく素直、おしゃれもお金も大好きです。

女工さんたちの発言を、ぜひともお楽しみください。



公式サイトより引用


Amazon.co.jp で日本語電子書籍をおまけとして配布しますというページの半ばあたりに、内容紹介がありますし、今時点では連続して内容の紹介が出ています。まだ本そのものを読んでいないので何とも言えませんが、この光の当て方は私が共感しえるものです。


強いイメージへのカウンターとしての照らし方

女工の労働条件にも千差万別ありました。『大正期の職業婦人』では当時の雑誌『主婦之友』『婦人之友』の職業紹介の中で、「製糸・紡績・織物」の女工を取り上げていません(女中もこの雑誌では取り上げられていません)。女工が省かれた理由を、「近代的職業の条件」が欠如しているからだと、同書の著者・村上信彦氏は指摘します。




少くとも働く者がその職業を近代的職業と認めるためには必要な条件は三つある。その一つは、当事者が自己の意志でその職業についているということである。第二は、自由意志をもち、転業も廃業も自由であることである。第三は、公私の別がはっきりしていること。即ち勤めている時間は束縛されているが、それ以外の時間は私生活を享楽できること。
(中略)
ところが、このわかりきった常識が、日本の最大企業であり最も多くの辞書労働者を雇傭する製糸・紡績・織物の世界では通用しない。このことは意外と見落とされやすく、今日まであまり問題にされたことがないが、はたして近代的職業に該当するか否かを考える場合には決定的に重要な意味をもっているのである。

『大正期の職業婦人』(1983年・ドメス出版・村上信彦)P.43より引用



大正期の職業婦人 (1983年)

大正期の職業婦人 (1983年)





こうした3つの条件を崩すのが、「前借金」という制度でした。この制度では親と会社が雇用契約を交わし、その時に得られる一時金は親のものとなりました。さらに地方から工場のある地域の宿舎での居住を余儀なくされ(低賃金で自活もできない)、年季奉公のように「転職を許さない」拘束力を持ちました。逃亡にも罰則が与えられました。寮生活故に、個人の自由な時間も限定され、少なくとも公私の区別は存在しません。



このようなシステムは、工場の24時間稼働の労働力を必要とした際に進展した(明治16年に設立された大阪紡績会社の深夜業)と、同書では指摘しています。深夜業は好まれない仕事で、通勤の女工ならば逃げ道(出社拒否・安全な自宅)がありました。そこで逃げ道がないように遠方から連れてきて、寮に隔離して作業に従事させた、というのが「女工哀史」の歴史の始まりだと。(『大正期の職業婦人』(1983年・ドメス出版・村上信彦P.50-51を典拠)



こうした点で「職業婦人としての資格を奪われている」と、同書では『大正期の職業婦人』にて女工を扱っていません。



これが、今回の本の前提となる「女工哀史」で描かれる世界の一端ですが、「こうしたイメージだけがすべてではない」「労働条件が良い職場や雇用契約の異なる場所も存在し、転職を行う女工もいた」と、今回紹介している書籍では聞き取り調査の実情から描き出している、と理解しています。



強すぎる全体のイメージ(『女工哀史』)に対して、「それがすべてではない」と多様性を示すのは大事なことだと私は思います。


イギリスの「メイド」との共通項

国も職種も異なりますが、私もメイドを研究する立場として、当時の「普通の人々」の生の声を重視しています。イギリスの家事使用人の場合は、時代ごとに関心の持ち方が変わっているようですが、ある程度、メイドや執事、コックといった人々の自伝が刊行されています。今回、女工に行ったようなメイドへの聞き取り調査もイギリスでは行われています。行った背景は「使用人問題」(職の不人気による供給不足)解決のためで、第一次世界大戦中に政府が行った資料も残っています。



これら「生の声」に接すると、違った世界が見えてくるのは確かです。もちろん、メイドの場合は労働条件が本当に悪かったり、仲間と働く環境にないメイドが多数いたりと、政府による聞き取りでは明るい材料が多いわけではありませんが(「友人にこの仕事を勧めるか」との問いかけに、「労働条件が改善されるまでNO」が多い)、誇りを持って働いた人や、日々を仲間と楽しく過ごした人々も一定数いました。



私も働く人のエピソードを聞くのは好きですし、今回の本を読むのを楽しみにしています。



ところで、同じ日本の女性労働者として女工に次ぐ労働人口を占めたのは、「女中」です。数十万人レベルでいたのをご存知でしょうか? この当時、労働環境の悪化(商工業施設などと比べて)から待遇改善を求める流れが生じましたが、これも同時期のイギリスと比較すると面白いです。一応、上記「近代的職業の三条件」を、大正時代の女中はある程度、満たしていましたので、『大正期の職業婦人』にて解説もされています。



日本の女中事情は下記の本が最もよくまとまって参考になります。



“女中”イメージの家庭文化史

“女中”イメージの家庭文化史




余談:英語圏での個人史への関心は極めて高い

こういう「市井の人々」に光が当たるのは、トレンドにも感じます。英語圏では今「家族史」がブームになっていて、「先祖としての家事使用人」にまつわるデータも増えています。「メイド」が最も多い職業だった時代があるからです。メイドを扱った英国の小説『リヴァトン館』にも、そうしたトーンが感じられます。



具体的な盛り上がりの例では、メイドではないですが、同じ家事使用人の中で、私が好きなAstor子爵家で子爵付きの従者(ヴァレット)を勤めたArthur Bushellで検索をすると、Descendants of Michael Hogbenと題した、一族の系譜を扱う中に、彼の名前を見つけることができます。




ARTHUR BUSHELL, b. 1894.

Notes for ARTHUR BUSHELL:



Arthur was for some time in the Service of the Astor family of Buckinghamshire. He rose to be the personal Valet of Lord Waldorf Astor, and from time to time served as an Under Butler to Mr Edwin Lee whowas probably the foremost Butler of his day.

(中略)

More About ARTHUR BUSHELL:

Christening: 2 September 1894, Minster in Thanet Parish Church

Occupation: Butler/Valet to Lord Astor



Descendants of Michael Hogbenより引用


データはAncestry.co.ukでも見つけられます。最近では英国図書館(BL)等が家族史関係資料500万ページをデジタル化へと、政府の資料公開も後押ししています。面白いところでは、海外渡航者リストでしょうか。Arthurの仕えたAstor家の女主人Nancy Astorで検索すると、確かにアメリカ行きの船の乗船者名に登場します。



アクセスできるデータの増大で、これからの研究者は大変だなぁと感じますし、「いるはずのない人が、搭乗していたら?」といった想像力をよりかき立てられるなぁと。


終わりに

『348人の女工さんに仕事の話を聞いてみました』にはいろいろと刺激を受けましたし、私が書いた『英国メイドの世界』の方向性が時代に沿っているようにも感じられ、勇気づけられました。「本の魅力の伝え方・個人出版での売り方」でも参考になりました。これまでのウェブでの活動や面白いテキストを含めて、筆者の方の強い個性が非常に大きく、私に真似できる部分は少ないのですが、それでも学べるところはあります。



特に、この本の内容を最も読みたいであろう一人の私がこの時期まで気づかず、なおかつ、「全く違う興味の持ち方」でようやく知るに至った例は、情報の伝え方や伝わり方を知る上でも示唆に富んでいます。



私事ですが、今でも「私の同人誌を知っていつつも、私の本が出版されているのを知らない方がいる」のを知ることがあり、情報を出し続けること、そして手を変え、品を変えて、「相手に合った伝え方・興味を持ってもらう情報の描き方」が大切なのだと思います。



私個人では「何度も書いている・伝えている」つもりですが、常に同じ人が見ているわけではありません。メイドに興味を持っていながらもこれまで縁がなく、このエントリで初めて『英国メイドの世界』を知る方もいるでしょう。



ということもあって、このようなエントリを書きましたし、ついでに、学んだことを受けつつ、親和性の高い「意外性」を伝える面を増やす意味で、下記テキストも書きました。興味がある方は是非。



英国の「メイド」は待遇を改善する転職をするし、キャリアアップも行う(2011/03/08)



過去、こういう伝え方も試みていますが、硬すぎますね……。



英国貴族の屋敷の分業・専門化した業務フローを可視化する、という伝え方(2010/11/19)



なかなか軽妙洒脱にはいかないものです。


『英国レディの世界』(『英国レディになる方法』改題版)

先日、お昼休みにふと書店に立ち寄ったところ、『英国レディの世界』というタイトルの本を見つけ、驚きました。明らかに『英国メイドの世界』を意識したタイトル付けだと思ったからです。思わず微笑しました。



図説 英国レディの世界 (ふくろうの本/世界の文化)

図説 英国レディの世界 (ふくろうの本/世界の文化)





英国メイドの世界

英国メイドの世界





実際に手にとって中身を見ると、見覚えのある本でした。2004年に刊行し、今は絶版している?『英国レディになる方法』の改題版だったのです。確か同書はハードカバーで若干、通常の河出書房新社の図説シリーズよりも高かった記憶がありますが、今回はソフトカバーで値段も通常のモノになったようです。



英国レディになる方法

英国レディになる方法





同書は絶版して久しかったかもしれませんので、関心のある方は是非、今回の改題版を。また、『英国レディの世界』は「メイドを雇用した令嬢たちの在り方」を示しており、令嬢たちに雇用されたメイドを扱った『英国メイドの世界』とは対を成しますので、どちらも揃えていただくと楽しみも広がると思います。



英語タイトルも多分、『英国メイド』を意識してと思いますが、"The World Upstairs in the Victorian Household"と、これまでなかった「upstairs」(主人たち雇用主階級を指す言葉。使用人階級は「downstairs」)の文字が入っています。



いずれにせよ、この本が「メイド」のいる時代を意識して再度販売されるということは、19世紀英国あたりへの関心が高まっている一例ともいえるでしょう。ここ数年は執事ブームもあります。



私が調べたところ、執事ブーム関連の書籍では読者が執事に仕えられても恥ずかしくないよう、「お嬢様・令嬢」としてのマナーを教えるコンテンツが見られます。なので、その原型としての「英国レディ」を知る機会として、面白い一冊です。



あと、村上リコさんも近々、図版を多く使った初の単著を出すとのことです。狭い領域なので被らず、相互に補っていきつつ、読者層を広げていけるインフラが増えていくとといいなぁと思います。






『英国キッチンメイド・レミー』とメイド表現の進化

以前、酒井シズエさん(米寿)のブログで存在を知っていたものの、自分の出版で手いっぱいだった頃に重なってご紹介が遅れましたが、秋田書店の漫画雑誌『ミステリーボニータ』で、『英国キッチンメイド・レミー』という漫画が不定期で連載されています。



こちら著者の林美里さんのブログでの告知です。



英国キッチンメイド・レミー 掲載のお知らせ



「メイドの役職」がタイトルに冠せられて作品が発表されるというのは極めて珍しいことで、私が願う方向で時代が変わっているのかなぁと思います。本格的な作品を読者として楽しみたい自分にとって嬉しい出来事です。秋田書店なので、もとなおこさんのヴィクトリア朝を描く作品シリーズの影響もあるのでしょうか。



メイドを職種レベルで描くのは非常に困難です。『武士の家計簿』が「武士の事務仕事はこうなっている」と示したような、難しさを伴います。今、1970年代の少女漫画、1990年代での「メイド萌え」成立といった日本でのメイド表現の変遷・歴史を調べていますが、創作の中でメイドを描こうとすると、どうしても「知識」が求められ、表現に制約が伴います。



ある意味、1990年代後半から「日本のメイドさん」(家政婦的存在)が進化しえたのも、空白を埋める形で創作する余地が大きかったからではないかと考えています。(後は制服自体の魅力・雰囲気)



描く方の多くは、好きだから描き、また読みたいから描いていると感じますし、森薫さん、もとなおこさん、共に英書を参考に漫画を描かれているので、かなり自分で調べることが前提となっています。



何はともあれ、「キッチンメイド」で作品が描かれるまでに進化した状況は私には嬉しいですし、林美里さんのブログで貴重な資料。として『英国メイドの世界』を発売時に取り上げていただけたことを知り、光栄に思います。


コラムの更新とメイド作品の整理など

資料サイトSPQR[英国メイドとヴィクトリア朝研究]の方でまとめて更新を始めています。今月に入り、『英国メイドの世界』商業版でお蔵入りしたもの(確実な資料性よりも、考察・独自見解が強いもの)を発掘し、書き直して公開しています。



[コラム]パーラーメイドは屋敷案内をした? しなかった?

[コラム]屋敷に仕えた執事に求められた4つの能力



他に、お会いした読者の方やTwitterなどで教えていただいた作品を元に、[特集]少女漫画に見る家事使用人(メイドや執事など)を更新しました。あらためて少女漫画の系譜は、「メイド萌え」という直接的なものは少ないものの、ヨーロッパを舞台とした作品があることも含めて、「脇役としてのメイドや執事」は出てきています。



メイドブームで登場した作品を好きになる、という要素は当然ありますが、「以前から好きだった世界が、メイドブームを通じて目に入るようになった」というところが女性を巻き込んだブームに繋がったような気がしています。ドラマ性で言えば、19世紀英国・ロンドンでの分類もしたいところですが。



もう少し軽いレベルで、ラノベや小説の系譜も調べてみようとは思います。性質上、一般向けに絞ります(AMAZONでみると、二次元ドリーム文庫美少女文庫のメイドを含むタイトル数がすごいですね)。こちらはメイドや執事が登場している、というよりは作品の「軸」になっているものに絞らないと大変です。



今のところ、AMAZONでさらっとみると、『メイド刑事』や『影執事マルクシリーズ』、『死想図書館のリヴル・ブランシェ』、『イスノキオーバーロード』、『めいたん メイドVS名探偵』、『ご主人さん&(と)メイドさま』、『ダブル×メイドは恋愛中! 』、『まぶらほ―メイドの巻』『まぶらほ―もっともっとメイドの巻』、『まぶらほ ~またまたメイドの巻~』、『お嬢様のメイドくん』、『ぼくのメイドレッスン』、『うちのメイドは不定形』、『黒猫曰く、メイドは微笑む』、『ラッキーメイド天くん~お嬢様学校へ行こう!』、『メイド・ロード・リロード 』、『神剣アオイ 2 幼なじみと黒猫メイド』、『身代わりメイドは恋をする』、『メイド・イン・ドリーム』など?



ミステリでは『バッキンガム宮殿の殺人―女王陛下のメイド探偵ジェイン』、『貴族探偵』、『謎解きはディナーのあとで』など。他にももっとありますが、さらっと見て終わるレベルではないので、今日はすみません、この辺で。



近いうちに、もう少し集中して集め、かつ年代別に分けて更新します。