ヴィクトリア朝と屋敷とメイドさん

家事使用人研究者の久我真樹のブログです。主に英国ヴィクトリア朝の屋敷と、そこで働くメイドや執事などを紹介します。

家政婦とハウスキーパー

久しぶりに名探偵ポワロシリーズを読み直しています。新規に創刊したクリスティ文庫を少しずつ買って、『ビッグ4』『オリエント急行殺人事件』、それに『杉の柩』(これはまだクリスティ文庫には無いので図書館)を読みました。



十年以上前に読んで以来なのですが、思ったよりも話が読みやすく、3時間程度で読み終わります。そこで気づいたのが、「家政婦」と「メイド」の違いです。



自分も昔は一切気にしていませんでしたが、訳者は「ハウスキーパー」をそのまま「家政婦」と訳しています。ところが日本語で言う「家政婦」と、使用人のいる時代の英語の「ハウスキーパー」は、意味合いが違います。



日本語でいう「家政婦」と「メイドさん」の違いを言うのは難しいですし、自分としては同じようなものだと思っています。しかし、英語の「ハウスキーパー」は「メイド」よりも、責任も権限も大きく、給与も高い「上級使用人」です。



女性使用人の雇用に責任を負う立場であり、家政の監督者でもあります。『杉の柩』では翻訳に苦労したようで、エマ・ビショップという女性は、「家政婦」ではなく、「召使頭」と翻訳されています。また、クリスティ作品ではメイドを「小間使い」と書くことも多いように思えます。



いずれにせよ、この「ハウスキーパー」がいる屋敷は、それなりに豊かな家だということを読み取れますし、執事も同様です。



翻訳した人がどの程度、当時の屋敷や使用人事情を理解しているかはわかりませんが、屋敷という舞台に欠かせない登場人物である「使用人」を理解すれば、よりクリスティ小説の舞台設定が面白くなります。



今のところこれら3冊だけでも全冊、使用人は出てきていました。



尚、自分の中での「メイド」「メイドさん」の相違は、前者が「リアル・過去の歴史の中の人々や研究対象」であるのに対し、後者は「創作・ドラマなどのフィクションや、イメージとしてのメイド」というところでしょうか。