ヴィクトリア朝と屋敷とメイドさん

家事使用人研究者の久我真樹のブログです。主に英国ヴィクトリア朝の屋敷と、そこで働くメイドや執事などを紹介します。

映画『スチーム・ボーイ』

前評判が非常に悪く、自分自身でも予告編を見る限りでは「絶対駄作」と思っていた『スチーム・ボーイ』、面白かったです。公開初日の今日、新宿で封切りを見てきましたが、少なくとも『ハリー・ポッター』の3作目よりは評価が上です。



肝心の背景描写はすさまじい水準です。田舎ののどかな街並みは美しく、主人公の母が洗濯桶で洗濯物を洗い、隣ではエプロンをつけた女の子エマがハンドルを回してすすいでいる、その光景は『イギリス手作りの生活誌』の道具を参考にしたと思われますが、自然に風景の中に溶け込ませているのは見事です。それに、あぁいう民家の構造や描写はあまり映画では登場しないので、素晴らしいと思います。



幼馴染っぽい女の子の名前がエマはやりすぎだろうと思います。勤めに出ている屋敷の主人たちの旅行に付き従った為に、両親が出かけている(=使用人?)らしく、主人公の家に預けられる、という情報も込められているようです。というか、勝手に感じ取りました。



鉄とガラスの鉄道駅、蒸気機関車の迫力、そして綺麗なロンドンの街並み、象徴的なクリストファー・レン設計の聖ポール大聖堂(だと思います)、背景描写については予想通りに素晴らしい出来でした。クリスタル・パレスに思い入れのある森薫先生は感動するのでは、という描写です。



ヒロイン・スカーレットの私室の内装はロバート・アダムスのカントリーハウスの装飾を使っていたようです。特徴的な「スイカズラ」の模様と、淡いピンクの色彩がそのまま再現されています。他に気づいたことといえば、今回の万国博覧会は「イギリスでは2回目」の1862年、日本の遣欧使節団が訪問したときのようです。ヴィクトリア女王が「喪服」を着ていたので、1861年に夫であるアルバート公が亡くなった後になります。



では、懸念していた物語は?



上映前にパンフレットを読むと、脚本は『千年女優』の映画を担当したという村井さだゆき氏。ならばそんなにひどいものにはならないだろうと思いました。彼のコメントを読むと「途中から参加」「参加した時点で脚本は20稿目(20回書き直し)」「エマがヒロイン」など、村井氏が関与する前と上映されたものとは、かなり違っていたようです。「結局主人公レイが何をしたいのかもはっきりしないから、なんとかしましょう」と提案したとか……構想期間が長すぎた為に詰め込み・話が膨らみすぎて、本筋を見失ったんでしょうね。それを考えると、脚本の村井氏の努力が如何に大きいか、感じられます。



話そのものはすらっと進んでいき、微妙?軽妙?なユーモアや息をつかせぬアクションが続き、綺麗な街並みが飽きさせません。『AKIRA』を期待した人には失望しか残らないかもしれませんが、アクション映画としては素晴らしく、オーバーアクション・台詞が下手な俳優がいる、ということを差し引いても、普通に最初から最後まで楽しめる作品に仕上がっていました。



そして小西真奈美さん、すごすぎます。今までに数多くの俳優の人が声優をやっていましたが、彼女のようなはまり方は、ほとんど感じたことがありません。素顔が思い浮かばないほどに役に溶け込み、その上で聞き取りやすく、わがままなお嬢様を演じきりました。お父さんのエドワードも良かったですね。



期待しすぎた『ハリー』が微妙だった分だけ、期待していなかった『スチーム・ボーイ』に甘い点数をつけているかもしれませんが、ラストのスタッフロールも後日談のような絵が続き、物語に余韻を残しました。お金を払ってもう一回見られるかと言われれば、「見てもいい」ですし、公式資料集も買おうかと思います。



でも明らかに「エマ」はやりすぎですね。村井氏がいなかったら、多分予想通りの作品に仕上がっていたでしょう。



帰りに、コミケカタログを買いました。これでようやく「コミケ!」という気分が盛り上がってきます。この10年で買った同人誌の冊数は15冊ぐらいですし、特に大金を投じることもないのですが、なんとなくあの雰囲気が大好きで、1ヶ月を切った今、気持ちがのってきました。でも表紙が明らかに……