ヴィクトリア朝と屋敷とメイドさん

家事使用人研究者の久我真樹のブログです。主に英国ヴィクトリア朝の屋敷と、そこで働くメイドや執事などを紹介します。

『荊の城』

1巻途中まで読みかけていて、「メイドさんとして関わるうちに、その関係性の中にとらわれていくんだろうなぁ」と思っていましたし、『半身』で描写されたような「百合的」な内容になるだろうなとも考えていました。話の流れは非常に面白くもあり、残酷でもあり、「睡眠不足になる」との言葉に違わず、久々に一気に読みました。



荊[いばら]の城 上 (創元推理文庫)



18歳未満は読んじゃ駄目〜なテイストの小説で、電車の中で読んでいて「こういう展開になるの?」と愕然としましたが、現代イギリスの人が抱く・好む・受けるイメージとしてのヴィクトリア朝は、「汚れの無い世界」ではなく、「砂埃と汗、匂い」のあるざらざらした「現実世界」なのかもしれません。華やかな物語はあの時代にある程度書かれていますし、昔の時代劇が「画面暗い」「救われないような話」「貧しさを直視」したのに似ているかもしれません。情景描写は、久我が苦手な映画『フロム・ヘル』の雰囲気をイメージします。



こういうストーリーは書けないですし、読むだけですが、現代人であり日本人でもある自分があえて書こうとも思いません。既に存在している小説で満足できるのですから。自分が書きたいものは、方向性が違います。それにしても、この人の感情描写は読者を引き込み、見習いたいです。



前作よりも「ヴィクトリア朝知識」が無くても読めますし、やや暗い雰囲気ではありますが、ヴィクトリア朝を感じられるので、ミステリ好きな人にはオススメです。