ヴィクトリア朝と屋敷とメイドさん

家事使用人研究者の久我真樹のブログです。主に英国ヴィクトリア朝の屋敷と、そこで働くメイドや執事などを紹介します。

『アガサ・クリスティー自伝』(上下)

アガサ・クリスティー自伝〈上〉 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)



人生の最期の時、もしも本が読めるならば、どんな本を読むでしょうか? そんな思い付きが、この本の前書きを読んでいる時に不意に浮かびました。多分、自分はこの本を選ぶと思います。



イギリスの世界的な作家クリスティが過去を思い起こして、自分とそれを取り巻く環境を描いた本です。1890年に生まれたアガサ・クリスティは、ヴィクトリア朝末期の人になります。ヴィクトリア朝、その後のエドワード朝、このふたつの優雅な時代に、クリスティは少女期を過ごします。



当たり前のように、彼女の幼い頃には「使用人」の姿が出てきます。まだ読みかけなのですが、クリスティは使用人について語っています。使用人をプラスでもマイナスでも、特別視すること無く、普通に、そのままに見ている優しい視点です。




『かりに今わたしが子供だったなら、いちばん寂しく思うのは使用人がいないことだと思う。子供にとって彼らは日々の生活の中でもっともはつらつとした部分なのだ』
『よくいわれているように、彼らは"自分の立場を心得ている"が、立場を心得ているということはけっして卑屈ということではなくて、専門家としての誇りを持っているということなのだ』(『アガサ・クリスティー自伝』(上)P.58〜59より引用)


クリスティ作品には数多く使用人が出てきますが、実際に自分の家に使用人がいて、彼女たちをひとりの人間としてみていればこそ、描けたのではないでしょうか? まだ途中までしか読んでいませんが、楽しく読めそうです。



個人的には、『エマ』森薫先生には、『フランクフルトへの乗客』より、こちらの『自伝』に、コメントを寄せていただきたかったと思います。