ヴィクトリア朝と屋敷とメイドさん

家事使用人研究者の久我真樹のブログです。主に英国ヴィクトリア朝の屋敷と、そこで働くメイドや執事などを紹介します。

『Love & Dirt: The Marriage of Arthur Munby and Hannah Cullwick』

ひとまず、読んでいるのは、この本です。



Love and Dirt: The Marriage of Arthur Munby and Hannah Cullwick



ヴィクトリア朝のメイド・ハナと結婚した中流階級(上流に近い中流:アッパー・ミドルクラス)のアーサー・マンビー。彼とハナの結婚は、アーサーの死後に発覚しました。階級を超えた恋愛として、様々な英書で登場するふたりのエピソードですが、少なくともこの資料を読むと、「メイドとの恋愛」というには、アーサーの性格は特殊すぎました。



アーサーは「働く女性」への関心が異常に強く、その写真を数千枚?、後世に残しました。当時の働く女性とはすなわち、「働かざるを得なかった下層階級の女性」たちです。テムズ河の泥を漁ったりする、喫茶の店員、牛乳を売る人、鉱山の採掘者、そしてメイド。彼は背が高かったり、働くことでたくましくなっている女性の姿に深く心を奪われ、積極的にそうした女性たちに声を掛け、写真を残し、詩を残したのです。



ハナもそうしたアーサーの関心の先にありました。



貴族と結婚したメイドがいる。

中流階級の法律家と結婚したメイドがいる。

上流階級の男性に結婚を申し込まれたメイドがいる。



『エマ』において、階級を超えた恋愛が実在しえるか問う声もあります。既存の日本に入る社会学・文学レベルの知識では否定されるかもしれませんが、使用人を専門に学び、十九世紀の実像を伝えようとするイギリスの資料たちは、実在している余地を伝えてくれます。しかし、階級を超えた恋愛の事例とするには、アーサーの個性があまりにも特殊すぎる、というのが正直な感想です。



もう少しストイックな恋愛を想像していましたが、「嘘だといってよ、アーサー」という気分です。詳細は同人誌に書きます。もう一冊、アーサー・マンビー関連で本を買っていますが、そちらは分厚すぎるのです……



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