第5位『Love & Dirt: The Marriage of Arthur Munby and Hannah Cullwick』
ヴィクトリア朝の中流階級の詩人Arthur Munbyと結婚したメイドのHannah Cullwickのドキュメンタリーです。主にArthurとHannahの日記や手紙から彼ら恋人たちの姿を描くわけですが、内容はもうフェティッシュのオンパレード。子孫が見たら泣くかもしれない資料です。公開に協力した子孫はえらいと思います。『エマ』において、身分が異なる場合のメイドとの結婚が如何に困難であるかが語られていますが、実際に存在した物語として、その存在は語られるべきでしょう。このふたりの関係性はある種、特殊すぎますが……
『Love & Dirt: The Marriage of Arthur Munby and Hannah Cullwick』感想(2005/09/17)
第4位『Avoid Being a Victorian Servant! 』
子供向けの同書は奇天烈なイラストで印象を残しましたが、人が生きて、働き、その先をどう過ごすかと言う命題に対して、メイドと言う立場からシンプルな回答を描き出した良作です、というのは明らかに褒めすぎですが、興味深い本ではあります。具体的には、「ヴィクトリア朝のメイドになったら、どんな生活が待っているのか」という、子供がその時代・職業を疑似体験するための学習書です。
『Avoid Being a Victorian Servant!』感想(2005/04/22)
第3位『Maid & Mistress』
資料的な価値では評価が難しいかもしれませんが、その資料を入手するまでのストーリーで言えば、最も記憶に残るのが同書です。昨年のイギリス旅行に際して、ある方からイギリスのガイドブックを紹介していただいたのですが、そのガイドブックの中で「ヨークシャーのカントリーハウスで2004年に行われている合同企画、『Maid & Mistress』展」の広告がありました。
「見たい!」
展示にはいけませんが、企画のホームページを調べていくと、どうやらパンフレットが出版されているらしいのです。そこでいろいろなところにメールを送って、確認して、絶望的かと思えましたが、最終的に半年以上かけて待って、入手できました。
『Maids & Mistresses』を運良く入手?(2005/07/09)
絶版書を入手する技術はかなり磨かれています。買った本が絶版になる可能性も極めて高いというマイナーな感性のせいかもしれませんが。
第2位『ヴィクトリアン・サーヴァント』
日本のヴィクトリア朝メイド研究史の扉を開いたのは、紛れも無く1990年代から連なる同人誌という領域です。それを一般化したのが2003年秋『エマ ヴィクトリアンガイド』、そしてより洗練された領域に高めたのが、この『ヴィクトリアン・サーヴァント』です。同書は、『路地裏の大英帝国』を始めとして、ヴィクトリア朝の使用人に関心を持つ人が入手した和書の多くの参考文献、そして同じく英書の参考文献にもなるほどメジャーな英書『THE RISE AND FALL OF VICTORIAN SERVANT』の翻訳です。
久我はたまたま2002年ぐらいに同書と出会って衝撃を受け、そこにある知識や世界を伝えようと、同人活動の幅を広げたのですが、メイド研究を真剣に行うものならば避けられない、「支柱」と言える資料です。少なくとも、この本を読んでおけば、「恥をかかない」レベルにまでなれます。
日本で翻訳された意味は非常に大きいです。
『ヴィクトリアン・サーヴァント―階下の世界』(2005/06/05)
こうした本が翻訳出版されても尚、同人誌を作る意味があるのか、と言われれば、あるのです。
第1位『COUNTRY HOUSE LIFE』(ASIN:063115566X)
上述した、『1990年代から連なる同人誌』の領域に、文字通り「金字塔」を打ち立てたのは、「制服学部メイドさん学科」さんでした。その同人誌の巻末参考文献で紹介されていたのが、この本です。メイドと同人誌の世界において、幾つかアプローチの相違がありますが、久我はメイドそのものへの関心よりも、「屋敷・カントリーハウスを含んだメイド」に興味を持っていました。そうした限られた関心を満たした本は幾つかありますが、圧倒的に「論理的な基盤」となったのは、同書です。
まだ細かく紹介していませんが、最近の久我の同人誌を買えば、この本の引用頻度が高いのが分かると思います。最も久我が求める視点に近しく、研究者の人のアプローチも久我好みなのです。唯一の難点はやや冗長な文章、分かりにくい単語を使いすぎているところだけでしょうか。
『英国カントリーハウス物語』に登場する、有名な「使用人の四分類」の定義を行ったのは、この英書です。
もう一冊、「大英図書館推薦」(ただ単に大英図書館のブックショップの書棚に並んでいただけですが)の本もありますが、そちらは来年にご紹介します。