ヴィクトリア朝と屋敷とメイドさん

家事使用人研究者の久我真樹のブログです。主に英国ヴィクトリア朝の屋敷と、そこで働くメイドや執事などを紹介します。

『図説英国ナショナル・トラスト紀行』

図説 英国ナショナル・トラスト紀行 (ふくろうの本/世界の文化)

図説 英国ナショナル・トラスト紀行 (ふくろうの本/世界の文化)





イギリスの屋敷や庭園の多くはナショナルトラストが維持しています。資金は一般公開による収益で一部が賄われており、ナショナルトラストのおかげで、無くなるはずだった邸宅や、個人所有の屋敷を屋敷を自由に見物することもできるわけです。



その屋敷や庭園といった観光地を、わかりやすく紹介してくれたのが、同書です。見出しを見るだけで、その価値が伝わると思います。




第一章 聖地・湖水地方を訪ねて
第二章 カントリー・ハウス
第三章 イングリッシュ・ガーデン
第四章 有名人の邸宅
第五章 映画の舞台
高慢と偏見
いつか晴れた日に
ハリー・ポッターと賢者の石
『日の名残』
眺めのいい部屋
嵐が丘
秘密の花園
第六章 ナショナル・トラストを楽しむ
これまでに幾つか出版されている屋敷の写真集もありますが、より一般ユーザに近い形で、「観光」という形で敷居が低く、また「映画」というきっかけを通じて、その舞台を訪問しやすい情報を提供する、というパッケージの部分ではレベルが高いです。



ヴィクトリア朝&使用人」(メイドさん・執事)という部分についても、ある程度目を向け、そうした視点で屋敷に言及している箇所も少なくありません。今のニーズを的確に汲み取っているのではないかと思えるほどです。



何よりも、写真が多いのが素晴らしいです。で、一歩踏み出せば、その素晴らしさを自分で「体験」できます。正直なところ、旅行代理店各社がありきたりなパッケージを組むよりも、こうしたところと提携して、屋敷をツアーできるようなものを組めば、需要はあるとも思うのです。インターネットでは個人による「訪問」の記録がいっぱい出ています。



残念なのは「観光ガイド」のレベルには達していないので、実際に訪問しようとすると、今までと変わらない苦労をしなければならないことです。他のカントリーハウスの写真集もそうですが、カントリーハウスが僻地にある都合上、「かなりの覚悟」が無いと、訪問できません。



それを補ってくれるのが、巻末に紹介されている「英国ナショナルトラスト・日本人会」でしょうか? 久我は英国ナショナルトラストの会員になっておりますが、この存在は知らなかったので、問い合わせをしてみようと思います。



現地での活動を支援してくれるならば、これに勝る機関はありません。そういう点で言うと、この本だけで完結するものではなく、この本を通じて様々な体験や活動への窓が開いていく、という位置づけが正解なのかもしれません。



図説 英国ナショナル・トラスト紀行 (ふくろうの本/世界の文化)

図説 英国ナショナル・トラスト紀行 (ふくろうの本/世界の文化)





この本に出ている写真のほとんどはナショナルトラストからの提供素材です。THE NATINAL TRUST photo libraryで見つけられます。しかし、同サイトの写真の大きさなどは制限され、実用性は低く、あくまでも有料での「写真現像」支援サービスのようです。解説



なので、本を買う価値自体は損なわれないと思います。多くの屋敷はこうした「写真」が財産になっており、屋内での撮影を原則として禁じています。今回の本が、屋敷の「内側」を知る貴重な資料であることは確かです。



屋敷関連の写真本

図説 英国貴族の城館―カントリー・ハウスのすべて (ふくろうの本)

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英国貴族の邸宅 (ショトル・ミュージアム)

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ナショナルトラスト創始者オクタヴィア・ヒルの本

英国住宅物語―ナショナルトラストの創始者オクタヴィア・ヒル伝

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よく言われる「施しによる気まぐれで偽善的な慈善」ではなく、真の意味での「支援」に繋がる、創始者オクタヴィア・ヒルの活動が伝わる良書です。