ヴィクトリア朝と屋敷とメイドさん

家事使用人研究者の久我真樹のブログです。主に英国ヴィクトリア朝の屋敷と、そこで働くメイドや執事などを紹介します。

1970年代・イギリスのメイドブームに対して作られた資料本

今日は表紙・裏表紙をお願いしていますGENSHIさんに仕事帰りにお会いして、ラフ絵や進捗の共有を行ってきました。仕事と同じで、議事録をその日のうちに書かないと、NextToDoを忘れますね。趣味でもきちんとスケジュール管理しないと、進めるのに苦労します。



紹介状は無事に終わったので、ハウスキーパーとスチュワードと言うニ大山脈の攻略にとりかかりますが、仕事も忙しく、仕様をつめる時間が無く、明日は休日出勤になりそうです。暇を見つけては資料を読み込んでいますが、ひとつ面白いことが。



久我が今読んでいる資料は、メイドとして働いていた人たちのOral History(口頭で伝わる歴史)をまとめた本です。この本を作った目的には、当時流行していた使用人のドラマ『Upstairs Downstairs』において、使用人のイメージが固定化するのを「防ぐ」(ニュアンス強すぎるかもしれませんが)ことも含まれているそうです。



国勢調査などでは室内で働く女性使用人と男性使用人の比率が1:20ぐらいというのが実情だったこともあり、男性使用人がいる職場自体が極めて稀です。執事もフットマンも、実は遭遇確率が非常に低いです。



ドラマは、上流階級の屋敷を舞台にしており、執事やフットマン、コックなど大勢が働いています。これは、実情に程遠い世界です。だから、この資料本を作った人たちは、「ひとりで働いたメイドの声」を重んじたようです。



久我が大好きな屋敷と言う職場もほんのわずかな家庭に限られ、ほとんどのメイドは中流階級の家庭で、ひとりかふたりぐらいしかいない職場で、孤独を抱えて働いていました。



そうした事実がある中、屋敷という最も華やかな一部に光を当てて全体を扱わないのはどうか、と言う声もありますが、久我はまず「自分の知りたいことを調べる」為にやっており、歴史という学問の為にはやっていません、というと身も蓋も無いのですが、もうちょっと詳しい理由付けは以下のコラムに書いていますので、興味のある方はどうぞ。



なぜ『屋敷』なのか?(カントリーハウスのメイドである理由)(2004/05/08)

カントリーハウスの使用人を扱う理由(2005/11/15)



似たようなこと、書いてますね。



もう3〜4年前に書いたことなので、今とスタンスが違っているかもしれませんが、どの道、人生の時間は限られていて、全部なんて出来ません。今やっている方向性ですら、試行錯誤、完璧には程遠く、道の途上です。



ただ、そうした「屋敷の使用人しか扱わないのか」と言う声に対する答えとして、『MAID HACKS』は十分に応えるものだとは思います。「暗い話ばかり」とも友人には言われましたが、あれは「働いていた多くの人の声」を紹介することに注力し、当時の実情に沿った雰囲気(それでも資料が残っている関係で比較的新しい時代ですが)を伝えるものです。



ぐるっと回って言いたいことがわからなくなってきましたが、1970年代において使用人研究のブームが起こりました(事実かはわかりませんが、多くの資料は1970年代に刊行が集中)。これはドラマという強力なステレオタイプに、研究者やまだ生きていたメイドたちが危機感を抱いた結果なのかもしれません。



正確な実像を、プラスもマイナスも伝えようと。



少なくとも今の日本において、自分の同人活動の意義は、「日本でブームとなっているメイド・執事。でもイギリスのメイド・執事って本当はどうだったの?」という問いかけに対し、一側面での光を当てる役割になるのかなとは思います。(先述のように、すべての回答ではないですが、入り口ぐらいにはなれるかと)



好きなものを、知りたいと思う。



その魅力を、多くの人に伝えたい。



ただそれだけです。



本当にブームがあったかは、イギリスの研究者の人に聞いてみたいですね。今度、手紙書いてみようと思います。