ヴィクトリア朝と屋敷とメイドさん

家事使用人研究者の久我真樹のブログです。主に英国ヴィクトリア朝の屋敷と、そこで働くメイドや執事などを紹介します。

『英国メイドがいた時代』入稿完了

この夏のコミケコミティア向けの新刊『英国メイドがいた時代』の印刷所への入稿が完了しました。大きなデータ不備もなく、スムーズに終了しました。これで後は夏のイベントを待つのみです。



何気なく、オフセット・表紙がある同人誌としての製作そのものが『英国メイドの世界ができるまで』(2009年12月)以来なので、1年8か月ぶりの刊行(2011年のコミケ2回分、作れておらず)となります。特に、『英国メイドの世界』を出版した2011年11月直後の冬コミには落選していますので、久々にお会いする方も多いのではないかと。



新刊を持っていきますので、お会いできれば幸いです。


執事の働き方・エピソード集『英国執事の流儀』パブーで販売開始


同人誌『英国執事の流儀』電子書籍版をパブーで販売開始しました。この本の電子書籍化は初めてです。



実在する英国執事7人を軸に、「どのように執事が管理職としてマネジメントを行ったのか」を紹介するガイド本・エピソード集です。同書は一冊で完結しており、読み物として気軽に楽しめる内容です。



パブー/英国執事の流儀



英国執事が記した自伝や手記から転職・職場遍歴や仕事を分析しており、オリジナリティが高い内容に仕上がっています。執事が好きな方には、特に「働くおっさんの執事」が好きな方にオススメです。



本の内容詳細は[同人誌]英国執事の流儀や、『もしドラ』と英国執事のマネジメント本に記しています。



直近では、英国メイドにまつわる7つの話と展望』をパブーで公開しています。



尚、電子書籍版は2点、変更があります。


変更点

1.価格を200円値下げ

700円から500円に値下げしています。


2.表2(表紙の裏の空白ページ)を削除

電子書籍化した場合、見開きが実際の本と異なるために行いました。このため、2ページ目(表紙を1ページとしている)が存在しません。3ページ目以降のページ表記はそのままですが、ご了承ください。



今回の本は左綴じ・横組みです。本を見開きで見る場合、通常、右ページのページ数は奇数になりますが、現在の私が加工できるレベルのPDFを用いた電子書籍で見開きにすると、表紙と表2が見開きになってしまいます。



通常の本:表紙(1)→表2(2)|扉(3)→(4)|(5)

電子書籍:表紙(1)|表2(2)→扉(3)|(4)→(5)|(6)

その対応:表紙(1)|扉(3)→(4)|(5)→(6)|(7)


『英国メイドにまつわる7つの話と展望』をパブーで公開・パブーの便利さは異常

明日ぐらいにまたコラムを書く予定ですが、現在、『英国メイドの世界』の電子書籍化を担当編集の方に相談しています。とはいえ、同人ほどのには電子書籍経験がないので、いろいろと経験を積もうと、最近機能向上を盛り込んだプロ版をリリースした『パブー』で、『英国メイドにまつわる7つの話と展望』を公開しました。



http://p.booklog.jp/book/20889



※この本は、DLSiteで既に公開し、42ダウンロードされています。


使いやすさが洗練されたパブー

DLSiteを検討したのと同時期にパブーも試してみたのですが、その当時は正直なところ、私には使い勝手が悪かったです。なぜならば同人誌原稿をPDF化しており、ツール上でいちいち画面上のテキスト入力フォームに入れるのは手間だからです。



代案として、PDFをJPG画像化するツールを使い、マンガのように入稿する方法も考えましたが、これも1ページずつ画像を指定しなければならず、面倒でしたし、画像化してしまうとテキスト選択やリンクが押せなくなってしまうデメリットもありました。



ところが、今年になって、まず画像ファイルを連番化してZIP化して入稿できるシステムが加わりました。さらに、直近でリリースされた有料のプロ版では、自分で作ったPDF(+epubも)ファイルを入稿し、ユーザーがダウンロードできるようになりました。



今回の私の場合は、「ウェブで読める」「試し読み設定を有効にする」ために、まずPDFを画像化したファイルをZIP入稿して、その上で元々のPDFをアップロードして、「ウェブで見る限りは画像だけど、ダウンロードすれば通常のPDFと同じ」環境にしてみました。



これは、便利です。



あと、プロ版の機能に、かつて竹熊健太郎さんが不正コピー問題の意外な解決策として紹介した「ダウンロードファイルへのユーザー情報の埋め込み」による不正コピー防止に似た、米光一成さん中心の電書部による「ファイルへのメールアドレス埋め込み」の施策が盛り込まれているのは、驚きでした。



余談ですが、星海社は「献本制度」を現在はPDFダウンロード方式で行い、尚且つ、ダウンロード者の名前がPDFに入るシステムを採用しています。これも試みとしては面白いですね。



とりあえず、次は『英国執事の流儀』を公開する予定です。


同人を楽しめるように・焼き畑にしないように

最近、Twitterで見た言葉です。











最近はネットの情報共有で以前よりも参加の敷居が低くなった印象がありますし、以前から生じていたかもしれないトラブルも可視化・共有されやすくなっていますので、定期的に「今の当り前は、当たり前ではない」との言葉が出てくると思います。



コミケを含めて同人イベントは、公共施設の利用が多く、「会場を貸さない」と言われればそれまでです。表現機会や、読者と出会う機会を、少なくとも一サークル参加者としては大切にしたいと思います。



というところで、次のようなことを書きました。











もう同人活動も10年以上になるので、自分の活動がどうしたらイベントにとってプラスになるのか、というところは課題として意識していますし、そもそも「創作少年・メイドジャンル」がなければ、ここまでメイドが好きな方々とお会いして、手ごたえを得て、活動を続けられたかどうか分かりません。自分に出来ることは、先人が育んだ「畑」を荒らさず、出来ればより好きな人が集まるようにしていきたい、というところでしょうか。



同人活動そのものについても、多様性があることを自分自身の活動やブログで伝えていくことも、恩返しになるのかなぁと。自分の本がきっかけで同人イベントに初めて来る方とお会いできるなんて、最高すぎる体験です。



また、嬉しいことのひとつは、自分の活動を見て、「あ、こういう同人活動ありなんだ」と、表現したいことを表現するきっかけになれることです。ブログで体験やノウハウを書いているのも、社会人活動と同人活動が両立するようなことを伝えたいからです。



サークル活動を始めるのは簡単ですが、「活動を続けていく」ノウハウは意外と語られていないと思いますし、機会があったら書いてみたいですね。出版社に企画を売り込みに行ってみようかなぁ……



「続くように、続ける」が自分のキーワードです。



以下、これまでに同人関連で書いたものでブックマーク数が多かったものです。



同人誌1トンを刷った経緯と部数決定のプロセス

同人誌を1トン刷る〜印刷所を活用した同人活動

同人活動の継続性を高める手段としての「利益」

出版社から出ることで同人誌はどう変わったか?

同人誌即売会で得られる「創作を続けやすい環境」



※タイトルを変えました。「焼け畑」、から「焼き畑に」。


2010年を振り返る&2011年への抱負

2010年は親になった気持ちでした。



『英国メイドの世界』の同人版、続く講談社版は私にとって「娘」のようなものです。実際に親になったことはないのですが、特に今回の出版は「出産」に比喩できるほど大変で、人生を賭けました。「産む」までの時間が長く(2年)、「産んだ後の子育て」(まだ2ヶ月)もあり、人生を変えるきっかけになるイベントでした。



英国メイドの世界

英国メイドの世界





出版に至るまでの2010年は人生で最も努力し、頭を使い、考え尽くし、尋常ならざるエネルギーを注ぎ込みました。発売後も必死に動いてきたのも、「絶版」になったら二度とこのレベルの本を作れないからです。「娘」が一日でも長く生きられるように、返本や絶版で消えていかないように、多くの「まだ出会っていない、本を気に入ってくれる」人と出会って行くにはどうするか、考えました。運良く、最初のアクションでは想定以上の結果を出せたことで先に繋がり、これからの可能性を見極めていくつもりです。



出版の過程では、多くの人に出会いました。支えてもいただけましたし、祝福もいただけました。全体で見れば将来に繋がる方向を見つけた1年でもあり、強靭な足場を作る機会となりました。


5位:同人と電子書籍と商業出版〜個人が表現する場として

同人活動を通じて、私はいろいろと世界を広げてきました。まず2008年には合計で1.4トン刷った総集編のノウハウを共有したところ、思いのほか反響があり(同人誌1トンを刷った経緯と部数決定のプロセスなど)、「個人が創作を続ける理由付け」「続けるための工夫」というところに目が向きました。



そこで、同人イベントで表現活動をして着た観点で、「同人イベントの価値を見直すこと」と、昨年は盛り上がりを見せた「電子書籍と同向き合うか」をテーマにいろいろと書きました。(同人誌即売会で得られる「創作を続けやすい環境」) また、私自身、iPadを買い、Kindleをかなり使うようになり、同人誌として作った冊子のダウンロードコンテンツ販売を始めてみました。



今年は「個人が好きな創作・研究を続けてきた10年」的に、ノウハウを本(同人誌か電子書籍か)にしてみたいと思います。同人誌を作るためのノウハウ本は多いですが、サークル活動を続けるためのノウハウ本はあまり見ませんし、電子書籍による個人刊行を検討される方には、比較にもなると考えています.
さらに、個人が表現を行う環境としての関心と、個人的な趣味の問題として、2011年は早い時期に、電子書籍を巡るビジネスモデルを整理するつもりです。


4位:素晴らしい作品との出会い

2010年・日本と英国で「ヴィクトリア朝・メイド・屋敷」的な作品が豊作の年(2010/12/23)と昨年に振り返りを行いました。良い資料本も多いのですが、記憶が曖昧です。すみません。



出版で使った参考資料一覧は講談社BOX『英国メイドの世界』参考資料一覧にアップしてあります。


3位:学びの機会と現代性を得る

今年は4つ、大きな視点を得ました。



ひとつは岡田斗司夫さんの活動への興味です。オタキングex立ち上げをリアルタイムで見ましたし、語られるビジョンの視点は非常に高く、自分が問題に思うことの解決策も提示されていました。まだ自分の足元が固まっていないので参加はしていませんが、この時に、岡田さんの著書『ぼくたちの洗脳社会』で紹介されたアルビン・トフラーの『第三の波』を通じて、当時疑問に思っていた「近代の特徴・家事使用人への影響」についての考察を深める機会を得ました。



2つ目は年末に刊行された『まおゆう』を通じて、今まで読んでいなかった『銃・病原菌・鉄』や、『英国メイドの世界』執筆に関連して、近代関連の知識を網羅的に広げるきっかけのひとつにしました。『まおゆう』の行間を勝手に読んだ部分もありますが、非常に刺激的でした。(『まおゆう』刊行を記念して、振り返る「近代」関連の書籍) 作品自体、時間を忘れて読みました。



3つめは、フーコーとの考え方との出会いです。19世紀に規律重視・時間厳守・役割分担・マニュアル化が進む家事使用人の状況を見て、アルビン・トフラーの『第三の波』だけではどうも埋め切れませんでした。「その根幹は何か?」と考えていたとき、英国留学経験者の方(社会学・哲学)と出会い、フーコーの『監獄の誕生』が良いとレコメンドされました。



フーコーとの出会いは私には衝撃的でした。その上、今まで読んでいた家事使用人の本では一度もフーコーの名前を見たことがなかったのですが、昨年末に読んだある本で、初めてフーコーの名前を見ました。最高のタイミングで、繋がったと思います。彼が描き出す近代人のモデルは今後の財産になったと思いますし、この辺りの話は、『まおゆう』の登場人物「メイド姉」に繋がるかもしれません。



最後が、やはり今年お会いした別の方とのお話を通じて、「世界のメイド」への視点を広げたことです。当初は「世界のメイド服」的な意味合いでしたが、メイド事情を調べていくと、雇用に見られる構造に気づきました。また、グローバリゼーションと移民、そして資源の減少による生活の変化にどう向き合うかというところが、20世紀前半の英国メイド事情とも重なり、私がこれまで扱ってきた事象が現代性を帯びているのを確認できました。(2010年『ヴィクトリア朝と屋敷とメイドさん』アクセスランキング・ベスト10の1位に記載)



こうした問題意識は、私が尊敬する川北稔先生の著書とも重なり、『イギリス近代史講義』〜現代を照らす一冊(2010/12/15)に記しました。


2位:『英国メイドの世界』の出版

冒頭に書いたとおりです。生きていて良かったと思えること、自分にしか出来ないことをひとつ、実現できました。それまでに費やした時間と努力と不安とは書き尽せるものでは有りませんが、本を書き上げるプロセスで成長できたことは財産になりました。最初に同人誌を作った2001年には、出版を思い描いていませんでした。ただ2008年に同人誌『英国メイドの世界』を作った時に、「出版したい」気持ちが高まりました。続けていなければ、辿り付けませんでした。



梅田望夫さんは、「一つのコミュニティが発展するには、そのコミュニティに没入している人間が必要」という趣旨の話をされていました。まだ没入するレベルには到達できていませんが、この領域において、しっかり向き合いたいと思います。何よりも、私が同人活動を始めるよりも前、同人に始まって10年以上続いた「メイドの歴史研究」というジャンルが、ようやく「同人出身者」によって出版にこぎつけ、その価値を世に届けられる場に立てたことを私は誇りに思います。



この本は決して一人の力によるものではありません。出版社から出ることで同人誌はどう変わったか?と記しましたように、出版社、編集者の力があってこそ実現できました。そして、本を出版社から出すことの大きさも感じました。だからこそ、啓文堂書店三鷹店様いくつかの書店でPOPで応援をしていただけたことには深く感謝しております。書店での売り上げに貢献できるよう、適切な意味での話題性を今後も作っていくつもりです。


1位:人との出会い

今回、『英国メイドの世界』刊行を1位にしませんでした。本を刊行できたことはとても嬉しかったですが、それ以上に大きかったのは多くの方々にお会いできたことです。今まで同人イベントで応援してくださった読者の方々に恩返しでき、アキバBlog様で2008年に同人版が取り上げられた際に興味を持ちながら買えなかった方々にも本書を届けられ、そして新しい読者の方々に出会えました。ご購入いただいた皆様には御礼申し上げます。



出版後も、それまでに縁があった方に報告した時にお祝いをいただきました。作品を作るプロや同人の方々の手にも本書は渡っており、新しい創作の基盤として使ってもらえるかもしれません。同人版でも「参考にした」というお話をうかがったことはありますが、今回はより多く作品が生まれることを願っています。少し意味合いは違いますが、星海社・最前線『非実在推理少女あ〜や』のメイド喫茶モデルがシャッツキステで言及したように、マンガの中で『英国メイドの世界』もデビューさせてもらいました。



そして、秋葉原メイド喫茶シャッツキステと出版記念コラボイベントを取り組めたことも、「娘」という本にとって最高の社交界デビューといえる出来事でした。メイドさんのいる図書館に蔵書を展示し、19世紀の料理メニューを提供し、一緒に同人誌を作り、さらには読者の方向けの「夜話部」という、フルコースなイベントでした。(シャッツキステとの出版記念コラボイベント・無事終了



今回の出版を通じて、私が今ここにいるのは、日本で断続的に生じたメイドブームがあったことを再確認しました。また、「私が応援したい」と思う方々に何を出来るのかを考えさせられましたし、今後もより問いかけられるでしょう。



最後に、同人誌『英国メイドの世界』自体が、その刊行によって「出版」という機会をいろいろと開いてくれました。講談社BOX版『英国メイドの世界』を通じて活動の幅を広げていき、自分にしか出来ないことを求めつつ、出版を支援してくださった方々や読者の皆様に価値を返していくつもりです。



本年もよろしくお願いいたします。


2011年の抱負

「メイド」の概念を広げる

今年の目標は、「コスプレとしてのメイド」の概念が世間的に広がりすぎているように思えるので、相対化できるように努めます。繰り返しですが、メイドに興味が無い人は主体的に情報収集せず、メディアやネットメディアで取り上げられる「(『電車男』に出るようなイベント型)メイド喫茶の一面」を報道で知ります。



入ってくる情報はそれしかないので、「それがすべて」と受け止めます。自分が詳しくない・関心がない領域なので、それ以外があるとは考えませんし、知ろうとも思わないでしょう。それが普通ですし、私も詳しくない領域では同じです。同人誌、というのもそうでしょうね。エロ同人が多いのは確かですが、それだけではありません。二次創作が多いのも確かですが、それだけではありません。男性よりも女性の参加者が多いといわれているのもご存知でしょうか?



私は「メイド」という言葉にまつわり想起される概念を、今年はより拡張したいと思います。「これが正しい」というつもりはありません。すべては同一に存在可能であり、その共存の幅広さこそが魅力でもあります。



そこで今まであまりメイドに興味を持たなかった人たちに本書や私なりの伝え方でアプローチし、消極的な判断基準として受け入れられる今のメイド・イメージに、「英国のメイド」という要素で入り込むつもりです。また、その先として、「日本で成立したメイド」と、「過去の歴史に存在したメイド」、そして「海外で働く現代のメイド」の3つを相対化し、比較し、「メイド」にまつわる概念を現代的な要素と歴史的な要素と文化的な要素で繋げたいと思っています。



歴史を学ぶ立場から言えば、日本のメイドは特異です。どの辺りが特異なのかも含め、去年は日本のメイドブーム関連の整理も始めました。この特異性がなぜ成立しえたのか、海外では成立しなかったのかを考察するのが今年の目標です。


同人誌

2冊、刊行する予定です。どちらも電子書籍版を作るつもりです。


  • 『階下で出会った人々』
  • 『英国メイドがいた時代の終わり』



前者は、同人版『英国メイドの世界』で意外とニーズがあった、実在・非実在の家事使用人の人名録・エピソード集です。これは鋭意製作中で、2011年5月コミティアに間に合えば用意します。



後者は講談社版『英国メイドの世界』で十分に扱いきれなかった、メイドオブオールワークを軸とした20世紀前半のメイド事情です。なぜ衰退したのか、どのように衰退したのか、というのを扱います。原稿はかなり終わっていますが、もう少し調整が必要で、これも2011年5月コミティアか、遅くとも夏コミを目処に刊行します。


個人の目標
  • 小説を書く

本を作ってみて感じたのは、情報を伝えるには「物語」が適しているということです。昨年出版を報告した際にお会いした別々の知人2人に、同じことを言われました。資料本を作ることで他の方に物語を作ってもらいたいと思っていますが、自分でも動きます。



あと、短編小説のサイトが孤立しているので、WordPressのサイトに移行します。


  • 活動スポンサーを見つける(非メイド関連事業)

今までメイドとの接点があるとは思っていない領域に価値を返せないか、その価値を出す自分へのスポンサーを見つけ、より活動に専念する時間を確保したいという趣旨のものです。具体的には旅行業界か、労働関連なのかなぁと思っています。メイド関連事情に近すぎると分析しにくく、また発言の中立性が失われるので、その領域には今後も「個人の範囲の応援」に留めたいと思います。



私がメイドを「見つけた」というより、今は私がメイドに「見つけられた」感じがするぐらいに、様々なテーマが繋がって生き方に影響を及ぼしています。子育てのつもりで多く時間を割く必要がありますし、今後も時間を割いていく比率を上げたいので、その足場としての経済力(=時間の融通)を、なんとか今年中に高めたいと思います。



ただ、今までの経験上、「お金のためだけ」にメイド関連で何かをするのは向いていませんので、自分が好きで楽しめる範囲の中で追求するつもりです。


  • 出版関連で何か作りたい

「個人による創作表現」を好み、またその表現が集まる「場」が好きなので、そうした一連の活動を応援するノウハウ本的なものを出版したいと思います。また、『英国メイドの世界』の要望として聞いた、写真に特化した本(私としては屋敷の地図も含めて)の企画を立てられないか、検討します。今の本で結果が出せたらという話ですが。


  • 他メディアへの展開

「メイドが好きな人向け」のメディアではなく、たとえば旅行業界や転職業界、あるいは同人と創作をベースに電子書籍の話を関連させてITニュース系など、私が持つ接点を拡張する意味で、いろいろなメディアで「これまでの活動・知見」を展開していく場が得られればいいなぁと思っています。これは営業努力が必要ですし、まだ早いかもしれませんので、書くだけに留めておきます。クラスタを超えないと届かないところに届ける、というのが私のテーマです。そういう意味で、今年は「エヴァンジェリスト」を名乗るべきかもしれません。


勉強について
  • イギリス屋敷への橋頭堡を築く

去年の抱負として掲げましたが、出版まで旅行には行かないと決めていたので、叶いませんでした。本体的にはイギリス貴族の日常生活を追いかける活動に戻りたいのですが、まだメイドの足場が築けていないので、もう少しだけ行います。その後、屋敷や領地経営、領地に住まう人々のコミュニティなど、私が大好きな「屋敷の暮らし」を研究できるようなポジションになりたいと思います。


  • 英語力(TOEFL)を高める:点数を決めて

英書は読みまくりましたが、基礎的なところを怠っているので、もうちょっと考え直します。


  • 留学する

留学したいです。が、お金の問題も有りますし、今年についてはまだ日本で出来ることが多いです。


まとめ

・「メイドの概念」を広げる。「情報の相対化」と「受容者の拡大」の2点。
・Stay hungry, stay foolish.
・勉強する。

[おまけ]2010年の抱負を振り返る

本を出版する&プロセスを楽しみ、読者の方に出会う

・実現。
・プロセスも十分に楽しむ。

本の反響の結果を、いろいろと広げていく

・反響がそれほど見えていないのと、まだ広げ切れていない。
・私の本を参考資料の一つとして、創作が広がることを願う。

メイド研究同人活動の区切りとして、20世紀の使用人事情を扱う

・扱えなかったものもありつつ、資料と視点は強固に出来ました。

イギリス屋敷への橋頭堡を築く

・まだ。先が見えず。

英語力(TOEFL)を高める

・まだ。単語の勉強のみ。それも中途半端。

小説を書く

・まだ。

電子書籍のインフラ普及が「同人活動」に及ぼす影響を考える

AMAZONの電子媒体Kindleは、作家にとって表現の場としての敷居の低さを実現しつつあり、日本の電子書籍市場では目立たなかった「個人の作家(プロ/アマ問わず)による電子書籍化」の動きを加速させています。日本の作家(プロの漫画家・ライトノベル作家など)が登録を始め、先日、同人誌の登録を行った方も現れました。



日本初? kindleで日本語漫画を出してみよう企画(漫画家・うめさん)

Kindle Storeで小説を出版・その後ライトノベル作家・木本雅彦さん)

以前サンクリで出した本イラストレーター・なきうささん)



こうした動きを踏まえつつ、「同人誌の電子書籍化+一般流通に乗る」流れが、同人にどのような影響を与えるかを考えました。以前から少しずつ考えていたのですが、作家の方たちの動きが早いので、このタイミングでまとめました。



電子書籍の概要については、前のエントリ電子書籍・出版業界についての私的なメモ帳(2010/01/30)にまとめています。



以下、同人への影響の考察です。


注意事項

ある程度、AMAZONAppleなどの電子書籍の端末が普及し、かつ個人個人の作家が自由に販売を行える未来図を想定し、その際に生じえるメリットとデメリットを検討しています。まだまだ先の話かもしれませんが、今考えられることを列挙しました。また、私自身は同人誌における二次創作については当事者ではなく、そのジャンルで活動する友人の話や、ネットで見かけた情報を基に以下の文章を構築しています。当事者の方には当然、別の見解があると思います。



電子書籍と同人誌のどちらが優れているか、という議論ではありません。


目次

1:電子書籍メリットの考察
 1-1:出版しやすさ/在庫
 1-2:買いやすさ・マーケットの接点
 1-3:表現技法の広がり
 1-4:換金化/コピーコンテンツへの対応
 1-5:誤字脱字/改訂の容易さ
 1-6:海外市


2:電子書籍のデメリットの考察
 2-1:「利益追求」か「趣味の範疇」かの議論〜印刷代からの解放とその先
 2-2:電子書籍による買いやすさの向上がもたらすリスク:「同人」の枠を出ること
 2-3:電子書籍による買いやすさの向上がもたらすリスク:「書き手の責任」


3:「同人誌」のメリットを逆算し、電子書籍にできることを考える
 3-1:「同人イベント」「同人誌」のメリットは何?
 3-2:電子書籍時代の同人イベント


4:まとめ


1:電子書籍メリットの考察

まず電子書籍同人活動にもたらすメリットから考えます。


1-1:出版しやすさ/在庫

最も大きいのは印刷代をかけずに出版可能になることです。



50部単位、100部単位ではなく、それ以下からでも可能です。その概念が無くなりますから。



また、同人活動を続ける上で部数設定を間違えて膨大な在庫を背負うことは、とても辛いです。初心者ばかりではなく、「完売を続ける」中小規模のサークルでも起こりえます。小なりといえども、私自身、コストの大きさに再版を行わない判断をした経験しました。シリーズで同人誌を作るサークルにとって、過去の作品が在庫切れを起こして新しい読者が作品に接しにくい状態は避けたいものです。「既刊ありませんか?」と聞かれるのは申し訳ない気持ちになりますが、再版をしたとしてどの程度出るかは分からず、また総集編を出すにはページ数が増えすぎてコストが高い場合が多いです。



しかし、電子書籍市場が普及し、個人の発表が容易になれば、環境は変わります。



同人活動をする方にはデジタル入稿を行う方が一定数存在し、単純なPDF出力やデジタルデータの加工自体は難しくありません。また、マンガ表現に限れば本文中に複雑なデザインを必要とする部分は少なく、AMAZONなどで電子書籍の登録が容易になる面でもっとも活発化するのは、この層でしょう。(技術論的にはトーンの再現性や解像度の問題点等、微調整が必要とのこと。ここのKindleでコミックスを電子配信する…のまとめ(sarninの日記:2010/02/03)がよくまとまっていました)


1-2:買いやすさ・マーケットの接点

AMAZONを待たずとも、既に電子書籍で同人作家が自由に同人作品を頒布できる環境自体は、整っています。無償であればウェブで行えばいいですし、有償でも既に同人ショップ『とらのあな』DLSiteなどで同人作家によるダウンロードコンテンツ・同人誌の販売は行われています。



しかし、こうしたサービス自体がメジャーではなく、同人イベント同様の買いにくさがあります。



基本的に「個々のサービスごとにアカウントを作り、決済をする」方法は障壁が高いです。私個人の体験ですが、以前、同人誌『英国メイドの世界』を刷った折、「本は欲しいが、同人サービスは利用したくない」との見解をウェブで見かけました。ニュースサイトで取り上げられることで、本の存在が「普段、同人に関心を持たない層」に届いた事例です。



同様に、私が利用した日本の電子書籍サイト「理想書店」では電子書籍媒体ボイジャーのパッケージを使っているようでボイジャーストアとなっていましたが、別の「ディスカヴァーデジタルブックストア」では同一のパッケージを使っているように見えながら、アカウントは共有されていません。一度に買えないのは、やや面倒です。



しかし、同じ仕組みで決済できるAMAZON(古本やお菓子や家電)や楽天市場に代表されるショッピングモール形式であれば、元々の会員数が膨大にいて、そこに「お店・商品が一つ増える」だけの話で、利用者には慣れ親しんだインフラで買い物できます。AMAZONAppleのような、大きなレベルのインフラで「他にコンテンツが買えるし、同人も買える」ようになると、買いにくさの障壁は一気に下がります。これは既存の電子書籍市場にもいえることで、入口の一元化は買いやすさにつながります。この環境が同人に与えるマイナス影響は、後述します。


1-3:表現技法の広がり

単なる紙を電子媒体に移すだけではなく、その媒体でしかできない表現を盛り込んでいくことがメディアとしての電子書籍には期待されます。



最近電子書籍に、参考用の動画埋め込みやwikiへのURL、Google Books、さらには参考書籍のAMAZONアフィリエイトといった、「参考にするコンテンツへの導線」があったら便利だなと思っていたら、それってそのままウェブでした。縦書きやデザインにこだわらない限り、「どこからでもアクセスできて、情報が読める」「課金できる」「コピーされない」、これで要件は成り立ちます。



AMAZONの入稿形式はHTMLの延長です。最近買った電子書籍のひとつはコピー対策か、ブラウザのプラグインで閲覧して、オフラインでは読めません。携帯端末で言う「電子書籍」は携帯端末からの「課金・コピーしにくさ・認証」で、端末内にコンテンツがあってオフラインで読める状況でないならば、「アクセス権」を売っているだけです。



つまり「電子“書籍”」ってなんなんだろう?



そんな事を思っていたら、このエントリで十分にまとまっていました。電子媒体で何ができるのかという根本的な話がありつつ、それ以上の表現技法や試み自体は、自由に行える同人的側面で広がり、模倣され、発展していくのではないかと期待しています。


1-4:換金化/コピーコンテンツへの対応

ウェブの存在は多くの読者と出会う機会を提供しています。しかし、ウェブは「無料」文化や、課金を行いにくい構造があります。



同人誌として「形」を持つことは、複製を難しくした上で作品の代価を受け取ることを可能とします。「ニコニコ動画」のユーザータグに「振り込めない詐欺」というのがありますが、無償のものでも作家の活動を支援したいと、実際にお金を払いたい層は存在します。しかし、なかなか分かりやすく統一的な個人向け決済システムは普及していません。(PayPalは代替策となるでしょう)



書籍の話として、電子書籍化が個人で行えるようになれば、課金/決済をそのシステムに任せることで、実現できます。その上で、携帯端末と連携することは複製を難しくする効果が期待できます。最近ではKindleが早くもクラックされ電子書籍のコピーや変換が可能にというニュースを見ましたが、少なくとも複製防止は電子書籍側・インフラが行ってくれる点は大きく、「複製防止+課金」のセットが行える点で、携帯端末への期待は高いです。


1-5:誤字脱字/改訂の容易さ

電子書籍化で比較的データをいじりやすくなるので、出版後に見つかった誤字脱字の修正や文中表現の修正対応が可能となります。見かけた記事電子書籍時代の著作権侵害では、盗用を巡る裁判で文中の2行だけのために、書籍の出版停止が命じられた事例を基に、電子書籍の修正のしやすさを取り上げています。



とはいえ、売り物である以上、一定の品質は必要ですし、そもそも以前あった表記が消えるのはデメリットです。頻繁に更新がされると今後、引用を巡って問題が起こるでしょう。(引用した個所が消されているなど)


1-6:海外市

これはAMAZONAppleなど元々英語圏を母体とするマーケットに、個人レベルで乗り込みやすくなる可能性について、です。英語の吹き替えをつけられれば、マンガ表現は海外で頒布できます。2年前のエントリですが、「iPhone向け多言語対応コミック」を実現された方がいますので、Kindleに求められていくのはこちらの部分が大きいでしょう。



アメリカで同人誌を売るということ(Keep Crazy;shi3zの日記:2008/08/16)



紙で出版することは現地の市場調査や出版までこぎつける多大な労力が必要でしたが、電子書籍化すれば、障壁は一気に越えられます。英語圏そのものがマーケットとして広がることは、同人作家に限らず、魅力的です。


2:電子書籍のデメリットの考察

次に電子書籍による作品の頒布がどれだけ同人誌にデメリットを及ぼすか整理します。


2-1:「利益追求」か「趣味の範疇」かの議論〜印刷代からの解放とその先

私は以前、『同人活動を続けるための利益』というエントリを書きました。ここでは印刷された「同人誌」の印刷代(ここでいう同人誌には同人ゲームやCDを含む)、在庫の搬入・搬出のコストやそれ以外の同人にまつわる諸経費が同人活動の内部で完結し、活動をつづける原資となる利益を生む構造があった方が長続きすると書きました。サークル活動が長く続けばそれだけ、多くの作品が生まれる可能性や多くの読者、そして作り手に出会える機会は増大します。その一連のプロセス自体は、大切なものです。



同人活動の継続性を高める手段としての「利益」



同人活動で最も大きなコストは同人誌の印刷代です。同人イベントに参加し、読者と出会い続けるには、一定の同人誌を刷り、新作を出す創作活動を繰り返します。そのために、印刷代は不可欠です。そして、電子書籍化した場合、印刷代は発生しません。印刷代から解放されたからすぐに利益を生みやすい構造が生まれるとは思いませんが(見つけてもらいにくさは変わらない)、印刷代を理由にした「同人誌は儲からない」論は成立しにくくなるのではないでしょうか。



実際のところ、「完売したけど、再版するにはお金が高すぎる」場合や、時間の経過を気にせずに気に入ったときに買ってもらう利用に最も適しているのが電子出版のインフラですが、利益に対する考え方、少なくとも「外からの見え方」は変容するでしょう。



前回書いたように、同人には印刷代以外の諸経費がかかっていますし、それ以上に、利益を上げられればそれだけ「製作時間の確保」に繋がる可能性が高まります。デジタル環境で同人誌製作を行う方は、パソコンの性能やソフトウェア、道具(ペンタブレット、ディスプレイ)の制作環境への投資で、製作の効率化や時間を有意義に使えるでしょう。また、自分ではできないけれどやってみたいことを、人に外注できます。



しかし、「同人誌ではなくなった場合」、同人誌の持つ曖昧性に保護された表現が変質し、趣味の範疇を越えたと解釈されたり、利益の得やすさが注目を集めたりして、批判を浴びる可能性が残ります。


2-2:電子書籍による買いやすさの向上がもたらすリスク:「同人」の枠を出ること

個人で誰もが表現活動を始められるのが同人活動の良いところで、また同人イベントを主体にした場合は「同じく好きな人」の理解に守られています。ウェブで同人誌を電子書籍化する、それも大規模プラットフォームで行う場合、この場を失います。



「同人」という限定された空間ゆえに、「ファン同士が、ファン活動の一環として、大好きな作品のキャラクターを用いて創作を行う」ことは一定のレベルで黙認されて回っている部分があります。(すべてではないです) また、同人誌は同人イベントに行かなければ(同人ショップに行かなければ)、入手できません。既に電子書籍化した同人作品(前述の『とらのあな』やDLSiteなど)が存在するとはいえ、こちらも興味がある人でなければ近付かない配布に留まり、あえて踏み入ろうとしなければ乗り越えられません。



しかし、AMAZONAppleで同人誌が頒布できるようになると、巨大なマーケットへ繋がります。同人の文化をまったく知らない方が簡単に入手できるようになると、同人イベントの目立ちにくさゆえに守られた環境から切り離されます。



仮に問題ある作品(著作権・コピー・表現)が登場した場合、「1:紙の制限がなくなるので同人以上に普及する=被害が増大する=表現者の責任範囲が増大するリスク」や、「2:作者以外による複製コンテンツによる著作権侵害=発見までの時間・個人で立証可能か・被害者が二次創作者の場合、立場が曖昧」、「3:表現規制論者に利用される」(極端なものが目立つ・入手しやすくなる)など、リスクが考えられます。


2-3:電子書籍による買いやすさの向上がもたらすリスク:「書き手の責任」

マーケットとダイレクトにつながる結果、個人個人の責任は大きくなります。



「売れすぎる」二次創作が表舞台に出た場合にどうなるのか(同人誌として「境界を越えて普及」したドラえもん最終話同人誌問題)や、成人向けの過激な表現が表に出るリスクは、非常に少ない事例としても、念頭に置く必要があります。



二次創作でなければ済む話でもありません。私自身、オリジナルの同人誌を出版社で出す際、出版表現上の注意点で編集や校正の方の確認を受けました。時代によって表現への配慮は異なりますが、リスクを減らす判断です。また、コミケ会場で行われる「修正が甘い成人向けコンテンツの販売停止措置」は、コミケが判断し、同人イベントとして問題が起こらないようにやっている措置です。



同人世界で許された表現が、金銭を得る形でそのまま多くの人の目に触れる可能性(あくまでも可能性です)が高まることで、作者のリスクが高まります。



二次創作が「権利者」の利益を侵害する可能性がある点は、たとえば「東方のアンソロジー」に見られるように、作品を使われることに権利者が同意し、利益を権利者に戻す仕組みができれば広がるでしょう。その場合、「商業アンソロジーとどう違うの」「同人なの?」という話が出ますが。



他にも想定していない事例は数多く出てくるはずで、進むべき足場を確かめる慎重さが必要だと私は思います。


3:「同人誌」のメリットを逆算し、電子書籍にできることを考える

電子書籍市場の拡大し、個人アップロードのしやすい環境が整ったとしても、同人イベントが残っていくでしょう。そもそも同人イベントにどういう役割があり、今後「電子書籍が同人誌になっていく」にはどういう環境が望ましいのかを整理します。



その上で、電子書籍が「同人イベント」に持ち込まれるのか、という問いかけをします。技術的問題や「同人イベント」という場の性質により、電子書籍化(少なくともイベントの場に持ち込まれる)は完全に起こらず、表現媒体としての紙の完結性や紙を所有したい欲求が消えないでしょうから、あくまでもブレストです。


3-1:「同人イベント」「同人誌」のメリットは何?

同人イベントは何が楽しいのか、そもそも同人誌をなぜ作るのか。



なぜ作るのかは個人の事情次第として、同人イベントの作家側のメリットは、「1:ファン同士や作家とファンが作品を通じて好きを交流できる」「2:作家にとっては自由な表現の場となる。好きを表現しやすい」、そして「3:表現が受け入れられた場合に結果として利益が得られる可能性があり、活動を続けやすくなる・広げやすくなる」、この3点を指摘します。



同人イベントに来る方は基本的に「同人表現を好む方」です。同人誌への理解があり、同人作家の状況を知り、応援してくれる存在で、出会った方たちから暖かさを私は感じました。ある意味、「作家を育ててくれる場所」です。紙の制約を受け、読者に出会いにくい構造は確かにあります。しかし、「本の形で費用が生じる」ことは作家にとって作品を守る「防壁」にもなります。ウェブの無料コンテンツの場合は誰にでも見られることで、全く関心がない人が見たり、断片的評価を下されたりする可能性が残ります。



しかし、有料の場合は「買うまでの敷居の高さ」があり、そもそも同人イベントでしか頒布していなければ(あるいは同人ショップでしか頒布)、同人への理解がない人と作品が出会う可能性は極めて低くなります。読者数に上限はありますが、顔が見える方たちから暖かい評価を受ける環境は、創作を続けやすい要因となります。



さらにいえば、同人イベントに足を運んだ方は「目的の本を買うだけ」ではなく、「何かを見つけようと、作品との出会いを望んでいる」面があります。作家にとっては、興味を持ってもらいやすい環境です。「同人誌」であることが制約としてありつつ、「端末に依存せず、読める」「手渡しできる」「出会うきっかけとなる」「入手欲」「分厚さや大きさなど、本の不自由性が逆にメディア価値を持つ・表現手法となる」など、多くのメリットがあります。



私が事例として挙げた3点のうち、動画を主体にした表現を行う「ニコニコ動画」やイラストレーターが絵を軸に作品を投稿する「pixiv」では、「1」「2」は実現していますし、「利用者のコミュニティへの帰属意識」的なものが存在し、ある程度、創作を続ける上での「暖かい環境」でしょうし、ランキングの存在は「出会い」を提供してくれるきっかけになります。



しかし、「3」は今のところ、把握していません。制作に費やす「時間」への見返りを得ることは創作を続ける上で原動力の一つとなります。ウェブで課金の仕組みが整うこと・コピーされにくいことが、今時点では個人における創作活動にとって、電子書籍に期待されるものだと考えます。



ニコニコ動画やpixiv自体がユーザを集める部分では同人イベントと類似しています。上記した1〜3の要素、「ファンや読者と出会い」「作品が評価される環境」で「作品を作り続けるのに必要な利益」が得られる環境が作れれば、同人イベントに活動を絞る必要はありません。



この考えはまだ詰め切れていませんし、人によりけりであり、「紙」「リアル」の部分で今後も同人は生き残り、いくつかの要素をウェブがクリアできれば、同人イベントに参加しなくてもメリットを得られる作家が増えるはずですし、個人的にその存在自体は増えていって欲しいです。


3-2:電子書籍時代の同人イベント

ここから先は、妄想です。



仮に電子書籍で同人誌を作りつつ、誰もが携帯端末を保持し、それでも同人イベントで同人誌を頒布する場合の未来図を考えてみました。といっても、大したものではありませんが。



電子媒体を持ってきて、イベント会場のサークルスペース上でデータを転送する、というのが考えられるものです。コンテンツ自体のダウンロードはウェブで可能にし、認証キーをスペースで頒布する、というのもいいかもしれません。決済は電子マネーで。



このように同人イベントの構造だけは維持しましたが、スペースに在庫が不要ですし、参加者も「重さに関係なく購入できてしまう」でしょう。さすがに味気ないですが、同人誌との併売や、在庫を電子書籍化したものを会場限定頒布することなど考えられますね。



位置情報やセカイカメラ的な工夫でもう少し面白くできるかもしれませんが、リアルの場は「一回、その環境に封じ込められる」「移動に不自由さはあるけれど、その不自由さの中に自分の意図しない出会い」があります。来た以上、何かいいものを探そうとします。


4:まとめ

今時点で、考えうることを書きました。可能性の問題が多く、今後情報が増えていけば内容に変更が生じますし、事例も増えていくでしょう。ただ、事例が少ない領域である点で、個人で判断を迫られる部分が多くあります。



基本的には「作品を誰かに見つけてもらう」工夫をしなければならない点は、同人イベントと同じままです。AMAZONに登録したからといって、接点ができるだけで作品が見つけてもらえるとは限りません。



ただ、たとえばニュースサイトで取り上げられ、思わぬ露出をし、誰もが買いやすい環境が生じたところで「著作権に問題があった」場合、この被害は同人誌の比ではありません。プラスがある分、マイナスの買いやすさが増大する可能性が高いです。



とはいえ、今後個人の表現、そしてまずはマンガ表現の舞台として機能するはずで、この環境を楽しめる方には新しい視界が広がっていくでしょう。同人といっても千差万別で、私が指摘できたのは断片的なものです。




でももう売ってる場所が同じなのだったら、それは同人誌ではないんじゃないか、という疑問もなきにしも(笑) もう区別なんてなくなっていくと思います。みんな「漫画」でいいんじゃないの? http://bit.ly/cYqBgt http://bit.ly/cT0M2C

http://twitter.com/ume_nanminchamp/status/8615180928



Kindleでマンガを発売されたマンガ家のうめさんがTwitterで、同人誌のKindle発売についてコメントされていました。この言葉から私が感じたのは、「同人誌」が「漫画」となる場合に、ある種の「同人誌という保護」(先人の蓄積:参加者たちが作り上げたコミュニティとしての資産)から出て行き、表現者として個人で場と向き合う点です。



今はまだ一部の、本当に一部の方による登録ですが、日本語対応やインフラとして普及する場合には、「同人誌ってなんだっけ」との問いかけが今まで以上に議論されるでしょうし、Kindle電子書籍を母体にした新しい「同人イベント」的な、作品を生み出しやすいプラットフォームが生まれるかもしれません。



過渡期を迎えつつあるという認識でいますが、電子書籍への関心と、同人誌とどう向き合うか、自分がなぜ同人イベントが好きなのかをまとめる意味もあって、言葉にしました。私自身はKindleについては表現を行う場として試みるつもりです。


ルビコンハーツ・『京都、春。』との出会いと構造の面白さ

ウェブで情報を拝見したときに、まずこのタイミングで武内崇さんを同人の世界で読めることに驚き、次に本を書店委託せずに自身でのショップ展開を考えられていることに、感想を書きました。



この驚きは、「今回はこうだった」「次は、何が出てくるのだろう?」との期待によるものでしたが、本を手に取ると、本の中身の濃さに圧倒されましたし、圧倒的に好みでした。



書店委託をしないサークルの在り方


風景の美しさ

久我は桜が好きです。



秒速5センチメートル』の切なさは大好きですが、そもそも桜が大好きだったので映画を見に行きました。会社で忙しく、いわゆる「心を亡くす」にあてはまった時期は、気がつくと桜の季節が終わっていて、花見と縁遠い日々を過ごしました。



そういう思い入れがあればこそ、今回、背景として登場する桜の百景のような、時間帯や光源の差による色彩の変化の表現が、人間の手で描かれているとは思いにくく、しかしきっと、人間の手だからこそ描かれる、『秒速5センチメートル』に通じる美しさなのかとも思います。



絵師の方が有名すぎて、武内さんのファンである自分はそこから興味を持ったのですが、背景の絵の密度は見過ごすのがもったいないぐらいのクオリティですし、京都の美しい街並みは実際に足を運んでみたくなります。



以下、同人誌の解釈なので、空白を入れておきます。未読で入手予定で驚きを得たい方は読まないように注意してください。






























舞台があって、演奏家が映える

武内崇さんと小林尽さんの2名を起用して、双方の個性を殺さずに相乗効果を出していく。それは、素晴らしい演奏家の共演に似ています。今回の指揮者は企画者たるルビコンハーツ、でしょう。



面白いのが武内さん・小林さんが描く表紙・裏表紙が個々に独立した物語を描き、たとえば武内さんの表紙をめくると、武内さんの描くキャラクターを軸に、京都の街が描かれていきます。



小林さんの表紙をめくれば小林さんのキャラクターの視点での世界が同様に登場し、両者は同じ京都にいて、個々のパートを演奏しているうちにひとつの曲となっている、というような構造で作られています。



物語の構図は視点の違いにも出ていて、武内さんの方は基本的に「メインキャラクターが京都にいる」「桜とともに風景の中に在る」のに対し、小林さんの方は「メインキャラクターが京都にいる」のは同じですが、京都の街を歩く「彼女が見た、すれ違う女性たち」が幅広い年齢・服装で魅力的に描かれています。



同じ場所を舞台にしながら、立場の違いが物語の違いを作り出していて、両者を生かす舞台設定がしてあって、同人誌というか、設計思想が素敵です。この本の主役は確かに武内さん・小林さんですが、舞台演出・本のプロデュースとしても、楽しめるつくりになっています。


同人誌としての仕掛け

普通に考えれば、A3サイズの本は作りにくいですし、サークル参加している立場なればこそ、よく刷ったなぁと思うものです。好きでなければ作れません。それに加えて、本文を読んでいて、ページの隅に凝った仕掛けがありました。



『京都、春。』は桜の花が香る同人誌です!



表現手段として印刷所が実装しているので、「香り」に特化した同人誌も存在していそうですが、「今回はこの本で、何ができるのか」という試み自体を楽しんでいるように感じました。



印刷技術としても最新のものを使っているとのことで、だから桜の色彩や、街並みの光がこれほどきれいなのですね。



久我は同人誌をあまり買っていないですし、情報にも疎いですが、こういう仕掛けは好きですし、「本としての限界・同人誌にしかできない表現」を行っているサークルは数多いと思いますし(マンレポやティアズマガジンで凝った装丁・試みの話を読むのは好きです)、知らない本はとても多そうです。


終わりに

長々と書きましたが、同人誌で一番嬉しいのは、「作り手の意思・想い」が伝わってくる本です。同人は商業と異なり、「クライアントの要望に沿ったもの作り」では、なく、作品の出来・不出来を他者のせいにできません。



作ったものが、自分のすべてです。



本来は作る必要もない、誰からも命じられていないものが、己の意思で生まれてくる。己自身を表現するメディアとしての側面を、同人は備えていると思います。だからこそ、ここまで想いがこもり、作品に接した人間を楽しませようとする「空間」に滞在できたことは、清々しいものでした。



清水寺を舞台に描かれた武内先生のキャラクターに瞬殺され、平野神社の凛々しさ、高瀬川の街並みや桜の美しさ、そして最後の両者の邂逅に魅了されています。春が、待ち遠しいです。



ページごとの絵とストーリー、そしてそれらが集合することでの物語の表現方法は好きですし憧れがありますから、英国メイドや屋敷を研究する立場として、いつか(メイド×屋敷) or (メイド×屋根裏部屋)のように、別の形で本を作ってみたくなりました。



――読み直していたら、また「桜」の香りがしてきました。