ヴィクトリア朝と屋敷とメイドさん

家事使用人研究者の久我真樹のブログです。主に英国ヴィクトリア朝の屋敷と、そこで働くメイドや執事などを紹介します。

小説『詩羽のいる街』





どのようにして、その本に出会うのか?



山本弘先生の最新作との出会いは、またも偶然でした。たまたま、昨日『FSS』の資料本を買いに行く前、はてな今度は「神舟7号の宇宙遊泳もなかったろう論」と言う山本弘先生のブログを読みました。



で、その後、『FSS』の本を買おうと書店で並んでいるとき、山本弘先生の本『詩羽のいる街』を見つけました。中身が読めなかったのとレジ前だったのでちょっと迷いましたが、その日にブログを読んでいたこと、そして「前回の作品も、その前に買った印象深い作品も、書店でたまたま見つけたんだっけ」と購入しました。



作品は短編4部構成ですが、これ、主人公のあり方は自分の理想とする生き方のひとつですね。実際に、まったく同じことは出来ませんが、断片的に似たようなことをしてきましたし、そこを目指しています。



お金に対する主人公の価値観ではなく、「バラバラのものをつなぎ合わせるような生き方をしたい」という。また、最近の社会への言葉も、露骨で嫌悪的な批判ではなく、「もっと明るい道があるよ」と諭すようで、モラリスト?的な感じもします。



話すと長くなるので別の日に感想を書きますが(これでも感想を書いたつもりではないです)、自分がいることで誰かの人生を「それまで気づかなかった方」へちょっとでも変えられるならば、それはものすごく楽しいと思います。



少なくとも、自分にとっての同人活動は、そういうものです。まさかこの辺でも小説の題材が絡むとは思いませんでしたが、山本弘先生の描く世界は素敵ですね。自分の中では今年一番の小説ですし、出会えたことで、自分の人生がよりクリアになった気がします。



山本弘『シュレディンガーのチョコパフェ』(2008/01/25)

久しぶりに山本弘先生(2006/11/07)



TRPGの頃からずっと好きだった作家さんなので、今、自分がこうして作った同人誌を読んでいただけたらなぁとも思います。『英国メイドの世界』は『アイテムコレクション』『トラップコレクション』など、グループSNEの資料本を参考にした構成にしていますので。献本してみようかなぁと。





以下、ネタバレ。




































P.S.『竜馬がゆく』を思い出す

詩羽の行動理念は「関わった人を幸せにする」ことですが、中でも目立つのは「みんなが得をする」ことです。この行動理念の美しさと、「理想ではなく、得をわからせることで人を動かす」在り方に既視感がありましたが、それは司馬遼太郎先生の描いた坂本竜馬です。



司馬先生の竜馬はあの時代にあって、利益や得するといった観念で行動して、人と人を結びつけて、歴史を動かしました。



片方では喉から手が出るほど欲しい人材がいる、片方ではその資格を満たしながらも需要があることを知らずに生きている人がいる。それを結び付けられれば、お互いの人生が変わる。



『詩羽のいる街』には他人を絶対に必要とする、「自分が出来ないことを出来るからこそ、他者を尊敬できる」価値観が、あふれています。これって、今の世の中で失われている部分だと思いますが、その一方で作品内でそこそこネガティブにも描かれたネットの存在は不可欠に思います。



「詩羽」の持つマッチング能力も、ネットの場を活用しきれば、決して夢想ではないとも思えるのです。その為には幾つも越えるべき障害もありますし、システムだけでは人は動かないので、やはり「人を動かすのは人」なのでしょうけれども。



それにしても、あの本は「誰」に向けて描かれたのでしょうか?



いわゆる、「オタク」的な世界に関心の無い、知識が無い人が読んだ感想が知りたいですし、そうした層に果たして届けられるのでしょうか? 理解されるのでしょうか?



少なくとも、インターネットに接する暮らしをする方には、一読していただきたい一冊です。