ヴィクトリア朝と屋敷とメイドさん

家事使用人研究者の久我真樹のブログです。主に英国ヴィクトリア朝の屋敷と、そこで働くメイドや執事などを紹介します。

『イノセンス』

見てきました、『イノセンス』。今回は久しぶりに「二回続けてみる」ということをして、ものすごく体が痛いです。一度目は偶然、前の列の人が目の前の席に荷物を置いてくれてスクリーンがはっきり見えましたが、二度目は視界の15%以上が高校生らしい少年の頭に……劇場は選ばないといけません。



オープニングで泣けるぐらいに映像表現としては極地に達したと思いますし、多分、自分では理解できない、解説でもされない限りわからない表現技法の頂点に達するようなことも、織り込まれていると思います。



前作では「少女型の義体へ近寄っていくワンカットフレーム」を1シーンでしか使っていませんでしたが、今回はあちこちで当たり前のように使っていました。



ただ、全体の評価で言うと、「普通」に感じました。CGがCGらしくありすぎていました。エキセントリックな描写や表現もありますが、今回は押井監督の遊び心というものがあまり感じられず、他の映画ならば「ちりばめている」監督の言葉が、濃縮に全体に出すぎていて、言葉が作り物めいている感じもしました。



もしかするとそれは、意図的なものかもしれません。『聖書』や『失楽園』の引用さえも、「脳内データベース」で正確に引用できてしまう、相手の言葉がわからず「聞く」というコミュニケーションさえも減るような、人間同士の当意即妙の掛け合いというものさえも、データの交換に過ぎないような、そうした雰囲気もありました。



確かに、友人と学生時代の懐かしい話をしていると盛り上がる反面、「いつもその話題をしているような」錯覚を感じたこともあります。積み重ねてきた過去を話す今は、果たして、今後の未来に「積み重ねてきた過去を話す今」になれるのかと。情報が通り過ぎているだけではないのかと。



監督が感じる人形への美意識、という面で共感できれば、あれは最高の映画だったと思います。純粋なアクション表現で言えば、予告編で出ていた『アップル・シード』の方が、「綺麗さ」は感じました。多分、記号としての「絵の好み」(見慣れているものとそうでないもの)の差だけなんでしょうが。



ただ、背景描写には信じられないほど魅せられました。特に建物の描き出すスカイライン(空と建物の屋根のライン)の美しさ、キムの館やロクス・ソルス社の本社ビル……実際に存在し得ないものを、他では表現できないものを表現するといったもっとも表現らしい「尖った」面では、さすがと言った感じです。



戦闘シーンではないのですが、砲撃シーンにはCGの技術の粋を感じました。あれぐらいのレベルの映像が、NHKで放送されるという『坂の上の雲』にあればいいなと思います。



音楽もよかったですし、銃撃の重厚な音も響きました。なんというのか、大口径の爽快感がなんとも言えません。(艦砲射撃のシーンも)。



あと、最後に思ったのは、序盤に建物に入っていくバトーの視点で描かれる映像、あれがそのうち、当たり前のようにゲームに組み込まれていく時代が来るのでしょうか?



VR(バーチャル・リアリティ)という言葉は色褪せたとさえも思いますが、いずれあれほどの映像を実際に「体験できる」時代、現実と虚構の区別が無いような、それこそ『AVALON』の世界が来るのでしょうか?(『マトリックス』というべきなんでしょうが)



存在感ある世界、未来図を描き出した点で、この映画はすさまじいものだと思います。



おまけですが、『ハウルの動く城』の予告編、今まで見たどの映画の予告編より、「本編を見たい」と一瞬も思えない内容でした。あれほど、予告編内のキャッチコピーが響かないものは珍しいです。というか、あれぐらいの予告編ならば、するだけマイナスです。



どちらかというと、ヴィクトリアンやスチームパンクな雰囲気満載の『スチームボーイ』の背景を見に行きたくなりました。あれは「少年が少女に出会って」路線のようですし、背景の綺麗さからも見に行く価値がありそうです。



来週は『花とアリス』を見に行こうかと思います。出来るだけ広いシートのある映画館で。ちなみに、『イノセンス』のプロダクションデザイナー(綺麗な舞台設定)の人は、『花とアリス』でも仕事をしているようなので、その部分でも楽しみです。



最後に、同人誌の今年のキャッチコピーを決めました。「『エマ ヴィクトリアン・ガイド』と戦える同人誌」です。



ただ、自分で言うのもなんですが、エネルギーと尖がり具合で、昨年自分で作った本を超えるものを、今年の自分が作れるかどうかは、自信が無いです。予想する活動のカーブでは、去年がピーク、今年から活動の終わりへと向けた準備になっていきます。



設計そのものはどうにか今月中に終わらせて、来月から夏に向けて、そして冬に向けての作業を始めようと思います。またしても無駄に資料本を買いあさってしまいましたが。