昨日の日記を書いてから、資料の読解に移行しました。ランド・スチュワードの根幹を成す要素は把握できましたが、同時に、ハウス・スチュワードに対する考察が甘すぎることも気づきました。今回執事の項目にまとめようとしましたが、それだけでは足りませんでした。
屋敷の一部を改修したいとき。
屋敷の屋根が水漏れしそうなぐらい痛んでいたとき(アデーレが発見したような)
キッチンのレンジを最新式のものへ入れ替えるとき
これらを統括するのがハウス・スチュワードです。資材を調達するのも、大工や配管工をアサインして作業をさせるのも、ハウス・スチュワードの仕事です。ハウスキーパーやコックは「屋敷の環境の中で、資材を調達する」役目でしたが、「屋敷と言う環境そのもの」を改変できたのは、ただ執事(スチュワード)だけなのです。
この着想は、ランド・スチュワードから得ました。ランド・スチュワードは屋敷ではなく、領地全体をマネジメントしました。構図としては大体同じで、生産地と生産する人員の確保がその役目でした。メンテナンスの為に、優秀な技術者をスカウトすることもありました。
最近見たBBCドラマにもヒントがありました。『Lark Rise to Candleford』のヒロインの父親も優秀な石工で領地を支配するティモシー卿にスカウトされました。同様に、ティモシー卿の屋敷の門の作成を依頼されたのは、村の鍛冶屋です。屋敷には不断のメンテナンスが必要であることから、村人と屋敷は繋がっていました。
では生産力を有する貴族の領地は儲かっていたのか? 『英国貴族と近代 持続する統治1640-1880』によると、直轄経営のほとんどは収益的に赤字だったそうです。地元以外の領地や地代のみの徴収、投資収益などの他の収入源から割り当てていたそうです。
しかし、贅沢な暮らしや「領民の暮らしを支える仕事」を作る点において、貴族や上流階級による領地の経営はあながち「マイナス効果」だけではなかったと考えられます。また、現在のデボンシャー公爵家はブランド化して、農場経営を成功させて収益を上げていると、聞き及んでいます。
政治関係の本だけでは生活の資料は見えず、生活の観点の本からだけでは全体での収益構造に想いが及ばず(家畜部門での収支資料、といったセクションごとのデータは残っています)。相互補完できるのがなかなか面白いです。
儲かっているのか、いないのか?
複雑な要因を数値化し、可視化してコントロールするのが、スチュワード最初の仕事です。
- 作者: 水谷三公
- 出版社/メーカー: 東京大学出版会
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