「とめはねっ!」ドラマ化決定、2010年1月より放送開始
NHKでドラマ化とのことで、河合克敏先生作品では初のドラマ化ですね。個人的には『帯ギュ』をアニメ化して欲しかったのですが、初のアニメ化は『モンキーターン』でした。
河合克敏先生の作品の魅力は、徹底した取材力と、自身独自の視点で「その世界にいる人は気づかないけれど、外から見たら魅力的に見える要素を描き出し、接した人をその世界に引き釣りこむ」ことです。
『帯ギュ』にせよ、『モンキーターン』にせよ、そして『とめはねっ!』にせよ、元々、そのジャンルに興味を持っていなかった人に、「何か、その世界に関わってみたい」「興味を持った」と思わせる力を持っています。
「広報」というのでしょうか、ある意味、真の意味での「メディア」(それとも批評?)ですね。その人自身は決して専門家ではない、しかし、その人にしか伝えられないことがある。そして、そうした人が存在することで、より多くの人に届き、競技やその領域自体が、活性化していくことになるのです。
その点では『キャプテン翼』や『ヒカルの碁』も影響力は持っていますが、個人的にその作家が「別のテーマでも同じように魅力を伝えられるか?」の観点で言うと、方法論が確立しているのは、自分が興味を持つ作家においては、河合先生だけです。
これに重なるのが、森薫先生です。森薫先生は「メイドが好き」という好きから始まり、次第にヴィクトリア朝を丹念に調べて、やがてはなかなか到達しえない高みにまで上りました。
メイドは「記号ではなく、そこで仕事をした人たち」、ヴィクトリア朝も「ゴシック・ダーク・退廃ではなく、人が生きた笑顔のある世界」として描き出しました。
これらの作品によってメイドだけではなく、イギリス旅行、イギリス文学、ドラマに興味を持った人もいますし、少なくとも自分個人は森薫先生がきっかけのひとつになって、イギリスに旅行しました。
森薫先生の次の作品である『乙嫁語り』も、遊牧民族といういわば読者にとってあまりなじみがない世界を丁寧に描き、その魅力や価値観を伝えようとしています。
どこかのインタビューで、調べて魅力のない国はない、とおっしゃっていたと思いますが、まさに、森薫先生には河合克敏先生のような、「調べて、誰にも描けない魅力を、伝える」スタイルを持っているのではないでしょうか?
そこで、ようやく梅田望夫さんです。僕個人は梅田望夫さんの「高速道路論」や『ウェブ進化論』が大好きで、様々な刺激を受けましたし、自分の人生に大きな影響を及ぼしたひとりだと言い切れます。
基本的にそのスタンスは、河合克敏先生や森薫先生といった、「好きな世界、魅力を感じる世界を、より多くの人に伝える力を持った人」です。
ウェブの魅力を語り、好きなことを伝えていくことを語り、少なくとも、梅田さんによって気づかされた多くのことがあります。それは僕にとって、今まで、気づかなかったり、言葉にならなかった要素でした。
その対象のひとつがウェブであり、Googleであり、今は将棋へと向かっている、ただそれだけのことではないでしょうか?
本質的にはご自身が過去に取り上げていた「小林秀雄」のように、作家を批評する批評家という立場なのかもしれませんし、インタビューの中での傍観者という言葉は冷めた言い方に聞こえますが、そこまでいかなくても、「より多くの人に、わかりやすく、その魅力を伝えてくれる」エヴァンジェリストなのではないかと。
自分の話になってしまいますが、自分が今、英国メイドの世界や執事や屋敷の資料を調べて、伝えようとしているのは、自分が感じる魅力を伝えたいがためです。これまでにない視点を探し、また自分だからこそ見出せる視点を、探しています。その点でウェブは大きな役割を果たしていますし、元もとの表現手段だった同人誌は今でも欠かせないものです。
その点において、目指すところは、手段こそ違いますが、河合克敏先生であり、森薫先生であり、そして梅田望夫さんです。自分自身は魅力を伝える対象そのものにはなれなくとも、対象そのものでなければこそ、気づきえる視点や、「その世界での当たり前で魅力でないものを描き出せる」ことが、あります。
それが漫画家の持つ可能性であり、またインターネットで情報を伝えていくことの持つ可能性であり、少なくとも「人にモノを伝える手段」を持つ人の可能性だと思います。
最近のインタビュー記事を読むとその辺り、梅田望夫さんのよさが引き出されていなかったので、対談する人がその価値に気づいていないのか、無視したのかわかりませんが、こんな文章を書きました。
とはいえ、「魅力を伝える力を持った」梅田望夫さんが「はてな」の魅力を伝え切れていないように思えるのは、取締役という対象そのものになってしまい、今までの立場と異なってしまっているからでしょうか?
少なくとも、その領域において、こうした「魅力を伝える人=多くの読者・潜在的なユーザー」を持つ人たちを持っていけるかどうかが、その領域の未来にもかかわるのではないかと、思う次第ですし、その対象は企業やサービスであってもいいはずです。
最後に『とめはねっ!』の話に戻りますが、ヒロインの一人が柔道選手というのも、そこにあるリアリティも、『帯ギュ!』あればこそで、河合先生は昔と同じく、柔道が好きなのだなぁと感じます。
好きな要素を、いろんな作品にクロスオーバーさせていくのは、世界観を壊さない限り、ありだと思っていますし、そうした繋がりこそが楽しさにもなります。
『乙嫁語り』でもいずれ、『エマ』で描かれた世界と重なるところがあったりするのでしょうか? 『エマ』の花嫁衣裳の素材(非常に細かい織物)が、『乙嫁語り』の世界で作られたものとか、或いはあの謎の若い青年が関係者なのか、とか。
強引に初期テーマに戻しましたが、いつもこんな感じなので、こんな感じの終わり方でご容赦を。
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