ヴィクトリア朝と屋敷とメイドさん

家事使用人研究者の久我真樹のブログです。主に英国ヴィクトリア朝の屋敷と、そこで働くメイドや執事などを紹介します。

主人との絆〜子爵夫人とその侍女

今現在、手元にある資料は、35年間、ある貴族の夫人に仕えたメイドの手記です。このレディ(女主人)は物語に出てくるような善良な人ではなく、使用人に対しては厳しく、また意地悪でもある人でした。



レディは常に、メイドである彼女を無能呼ばわりし、彼女が選んだものにけちをつけ、罵りました。メイドがAと言えば、Bを望む。



人間はそれほど強くは無く、様々に無能だと言われ続けるうちに自分でもそう思い始めたり、ネガティブな感情に引きずられて、失敗をしたり、何かうまくいかない、そんな状況に陥ることは、会社員として働く人も、経験があると思います。



自分が無能なのか、レディが悪いのか?



仕事への自信を失っていく中、いつでも辞めていいと思うようになった彼女、しかし彼女は、自分で答えを見つけます。それは信仰の形に似ていますが、自分がどうあろうとも、そのレディがそうであるのは、レディのそのままであることを受け入れ、自分は自分、またその点を守ること、きちんと伝えること。



こうしてメイドである彼女は、自分の中に見つけた強さで、主人である女主人と戦います。何か言えば、「Shut up」と言われながらも、無茶な要求には「自分でして下さい」と応える。そこで解雇を申し渡すのも、激怒するのも、そのメイドの行動が原因ではなく、メイドの行動をどう受け止めるかは、女主人次第であること。(自分が間違ったことはしていないと、信じられる限りにおいて)



そうして、彼女は戦いました。ずっと、女主人との口喧嘩ではない、自尊心をかけた戦いは続きましたが、女主人は折れて、彼女との会話を楽しむようになった、ように日記からは感じます。そうでなければ、35年間は、一緒に過ごせないでしょう。



使用人であること、その中で人としての誇りを持ち、尊厳を護り、また不公正なことには戦う、侍女として生きた彼女に、日々働く会社員として、共感を覚えるのです。