ヴィクトリア朝と屋敷とメイドさん

家事使用人研究者の久我真樹のブログです。主に英国ヴィクトリア朝の屋敷と、そこで働くメイドや執事などを紹介します。

使用人の歴史再び

18〜19世紀の使用人隆盛の背景事情探しをしています。使用人関係の英書を読んでも、結構、シンプルに解説されていることが多く、イギリス向けの書物における情報量の差を自覚します。なんとなくストーリーは見えてくるのですし、要素も見えるのですが、果たしてそれぞれがどの程度の重みなのかは、なかなかわかりにくいのです。



少なくとも、自分の言葉にしにくいのです。



そこで、今まで「使用人の資料が無い」と、あまり重視してこなかった和書に目を向けています。そうすると、確かに使用人の資料は限られていますし、使用人という存在について欲しいレベルの内容はほとんどないのですが、逆に使用人を雇用した中流階級〜上流階級の姿や、彼らが生活した社会基盤は見えてくるのです。



今までそこを走る「使用人という車」を追いかけていましたが、車の走る道路がなぜ建てられたのか、というのも視点として必要ですし、逆に和書の中に見えなければこそ、違う角度で光を当てたり、推測・検証したりできるんでしょうね。いずれにせよ、「ヴィクトリア朝」ではなく、「18〜19世紀」という枠組みで捉えた方が、正確な理解に繋がりそうです。



あと、以前から疑問に思っていたことで、使用人の歴史が1960〜70年代に集中したのはなぜか、というものがあります。これも自分の中では決定的な要因を見つけていませんが、「1950〜60年までの間に相当な数のカントリーハウスが消えていったこと」「戦後の復興の中、過去の黄金時代に想いをはせる」「1970年代には世界で1億人が見たドラマがあったこと」「イブリン・ウォーの影響」など、いろいろとあったのですが、『近代イギリスの社会と文化』を読んでいると、日本における19世紀観や、イギリスにおける19世紀観に変化があったことをあげています。







「1950〜60年代のヴィクトリア時代像―イギリスの場合」と題した箇所では、『「1832年の第一次選挙法改正と1946年の穀物法撤廃」で中流階級が上流階級に成り代わった』という視点がそれ以前に隆盛だったものの、この年代になって『上流階級の支配は続き、中流階級は台頭したものの、移行過程』との視点に関する研究が次々と出て、裏打ちしていった、とあります。



この年代に、「上流階級の再評価」が行われたともいえるかもしれません。その評価も、上記のような流れとあいまって、「貴族の生活と、そこにいた人たち」の声を描き出す潮流を作ったのではないか、とも考えられます。他の視点で覆るかもしれませんが、いずれにせよ、時代はひとつであっても「照らす視点」次第で評価は大きく異なります。



自分は「屋敷にいた使用人が、どんな仕事をしていたか」「何を食べていたか」をメインでやっており、思想が入る余地が少ないであろう立場でやっていましたが、同人版では「他の本読んで」と任せていた部分は、自著内で伝えるようにする必要もあるので、「こういう視点がある」ぐらいには綺麗にまとめたいものです。



本来的には「屋敷良いなぁ」→「貴族の生活知りたい」→「生活を支えていた執事とメイド、深すぎる!」(今ココ)という流れなのですが、貴族の生活を知るために使用人を理解し、使用人を理解するためにまた貴族、そして中流階級を理解する、という流れが面白いといえば面白いです。



ということで、今日は読書三昧です。